接触
毎週土曜、日曜に更新します
あれから酒を飲みながら、ヤマトに向かってナイフを投げて酒を飲んでを繰り返していたら、酒場を出るころには日が傾いていた。
「い、今生きている事に驚きや」
「それは良かった。残念だったな、情報が得られなくて」
俺は結局一回も外さなかったのだ。
元々酒は強かったのだがここに来てから更に強くなっている気がする。
アルコールを摂取したという感覚はあるが、あれだけ飲んでも全く酔いが回らなかったのだ。酒自体も果実酒の様なものだったがとても美味しく、ついつい飲みすぎてしまった。
「いやいやええって!!あんたをいじりすぎたらひどい目に会うってのが分かったからホントもうええわぁ......」
焦った様に首を横に振って、ぐったりとしたヤマト。ナイフを投げ終わった後は自分の首がつながっているかしきりに確認していた。
俺は空を見上げ、オレンジ色に差し掛かりそうな空を見て、ふと思った。
「そういや、あいつらどこまでいったんだ?」
なんだか嫌な予感がするな。
俺はヤマトと一緒に足早にあいつらと分かれた道へと戻った。分かれた時とは違い、あれだけ居た人はもうまばらになっており、静けさが広がっていた。
「チッ」
「ど、どうしたんや?」
舌打ちをした俺にヤマトが聞いてきた。
大分険しい表情をしていたのか、心配そうな顔だ。
「やられたかもな、これは......」
俺はポケットから小さい箱の様な機械を取り出した。
そして操作すると画面の端の方に赤い点が4つ1か所に集まっていた。
「やはりな」
「その機械はなんや?」
ヤマトは不思議そうに俺が持っている機械をのぞき込んできた。
これは北の森で魔物や鉱石を【作成】と【合成】を繰り返して作った物。
「これは受信機だ。発信機はあいつらに一つずつ付けている。要は居場所が分かる装置だな」
「便利なもんやな。初めて見たわ」
「ここは分かるか?」
俺はヤマトに画面を見せ、場所が分かるか聞いた。
この受信機は衛星がない為、方角と緯度経度を受信し点で表せれる仕様になっている。
それを説明すると、
「この位置、多分街の外れの廃墟やで。元々は建物が連なって人も住んどったんやけど、魔物がちらほら出てきだしてから、そこの住人は今の街の方に皆移動してきたんや。やから今は誰も住んでないはずやで。それにしても、旦那はホンマ抜け目のないお方やな」
「いや、これは俺の失態だ。レッドコアを甘く見ていたようだ」
「よっしゃ!!んじゃ、とりあえず、そこに......」
ヤマトはそう言いかけたが、何か思いついたように、
「......と、言いたいところやけど、敵がレッドコアだとしたらワイが行ってもおそらくお荷物になるだけや。せめて今の間にレッドコアに動きがないか調査しとくわ」
そう言った。
確かにまだ確定したわけではないが、もしそうだった場合はこいつを連れて行くのは危険すぎるな。それよりも情報を少しでも集めていてくれていた方が助かる。
「ああ、頼んだ」
「すまへんな。気い付けてな」
ヘラヘラと笑い、頭を掻きながら片手で謝るポーズをした。
俺は「気にするな」といい、ヤマトに詳細な場所を教えてもらって急いでそこへと向かっていった。
ーーーーーー
「......出てきいや。いつまでこそこそとしよるつもりや」
夕暮れの光に照らされ、ちょうど建物の陰となる位置。
ヤマトはそこに向かって言った。
そこからフッと人が現れヤマトの方へと歩いてきた。
「......気づいていたの?」
「そりゃそうや、ワイには情報が全てやけな。不意打ち出来るとは思わん事や」
陰から出てきたのは、エリナだった。だが、酒場に居た時とは違いドレスではなく、肩を覆い、胸の所が大きく空いたトップスに、真黒でスタイリッシュなパンツ。引き締まった腹筋と、大きな胸が強調される様な服装をしていた。
そしてその手に持っているのはタバコではなく、バラの細工が入った一本のナイフだった。
「......どいてくれないかしら?貴方よりダイの方を追わないといけないの」
「それはエリナのお願いでも聞けへんなぁ。いや、レッドコア暗殺専門チーム『黙凛』所属、魅惑のエリナ」
「あら?そこまで気づいていたのに何でわざわざ私のバーを贔屓にしてくれてたの?」
エリナに焦った様子はない。ただ単純な疑問を持っているだけのようだった。
「その理由は2つある。一つはお前らレッドコアにしか情報が漏れないってことや」
「どういう事?」
首を傾げて聞いてくる。
緩やかに指を顎に当てているポーズはそれだけでも絵になるようだった。
ヤマトは言葉を続けた。
「不特定多数に聞かれるんが一番対処困るからの。他の奴らに聞かれる心配がなくて、レッドコアのみに絞れるなら、それ用の対策はそれほど難しくはないんやで?それに、逆を考えれば利用もできる。例えば、あんたらと接点を持ちたかったらとかな」
「探すのはほぼ不可能、ならわざと情報を流してこちらから出向く様に仕向けたって訳ね?でも全滅になったら意味ないんじゃないの?敵として現れたレッドコアに対して勝てるとはとても思えないけど」
「普通に考えればそうやな。でも旦那なら、なんかやってくれそうな気がするんよなぁ。そしてそれが望みなんやろぉな。それやったらワイの役目はそのお膳立てをすることや。それに必ずしも勝つ必要はあらへんしな」
「......なるほどね。全く、へらへらしている癖にくえない男ね」
何か分かったのか、呆れたように首を振り、耳に着けている長細いピアスが少し揺れる。
そしてエリナは少し目にかかったサラサラの髪を指で整えてから聞いた。
「それで?あと一つは?」
「うん?」
「あと一つあるんでしょ?私の酒場を使ってくれている理由が」
「酒と料理が美味い」
「は?」
大真面目な顔で答えるヤマトの返答に思わず声が出るエリナ。
そして少し間が開いた後、クスっと笑って言った。
「あーあ。せっかくいいお客様だったのに。残念だわ」
本当に残念そうな顔をしながら、ナイフをヤマトの方に向ける。
ヤマトは一瞬ダイが走っていった方向を見た後、エリナの方に視線を戻した。
もう、大丈夫やろうかの。
『黙凛』、暗殺のエキスパート。
正直、今も目の前にいるにも関わらず、気配を追うので精一杯や。
陰を見つけたのもはったりみたいなもんやしなぁ。
こりゃあ、どう転んでも勝てへんが、時間は稼いだし、許してもらお。