『レッドコア』の情報 前編
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次の日の朝、俺は昨日用意していた戦闘服を【アイテムボックス】から取り出して全員に配った。
森での魔物狩りをした時に余った素材で作っていたのだ。それぞれに合わせて動きやすいようにイメージして【作成】と【合成】を繰り返して作ってやったのだが、なかなか優れている物が出来たと思う。
「なんだこれ!?すっげえ軽い!!」
「しかも結構丈夫ね」
「確かに。これは動きやすくていいな」
各自、早速戦闘服に身を包んだが、その反応を見る限りどうやら気に入ってくれたようだった。
それにしてもこの【作成】と【合成】、かなり使用の幅が広いな。
「本来なかなか使いにくいスキルなんですけどね〜、専門の知識がかなり必要になりますししかも戦闘にはほぼ使えないので、ここでは弱小スキルとか言われてますもん。ダイさんが特別なだけですよ。普通そこまで構造まで知りませんもん」
「そういうものか」
そしてみんなと一緒に、久しぶりに街に降りてきた。全員ずっと森の中で生活していたのもあり、辺りを見渡しながらそわそわしている。
始めに北の森で倒してアイテムボックスに保管していた、大量にある魔物の素材を換金所に持っていって、金貨に変えてもらった。
そして換金所から出た時に後ろから、
「おっ、毎度‼︎」
と聞き覚えのある声がしたので振り返ると、最初にカルラ達のいる場所を教えてくれた情報屋がいた。
相変わらずヘラヘラと鬱陶しい笑顔を向けてくる。
俺は換金所から貰った金貨の袋の一つをカルラに渡して言った。
「これを使って好きなだけ遊べばいい。羽を伸ばしてこい」
「......分かった」
カルラは頷き、他三人に金貨の袋を掲げてみせると、ワーと歓声が上がり、皆は意気揚々と街を歩いて行った。
それを確認してから、俺が周りを見渡していると、
「数か月ぶりやなぁ。旦那、人に聞かれたくない話ならええところがあるで」
といって「ついてきいや」と歩いて行った。
その後に続くと、街の路地を入って奥まで行き、地下へと続く石の階段があった。
それを降りるとそこにはスラム街が広がっていた。
「この区域に住んでいる奴らはな、金がなかったり、追われていたり、街になじめなかったり、様々や」
そしてある建物の中へと入る。
錆だらけの看板には『シリエス』と書いていたのが辛うじて読めた。
中へ入ると少しカビの匂いがして、店内にはボロボロのカウンターに人がギリギリ通れる狭い通路だけだった。
男は言った。
「エリナ、奥、空いてるか」
すると、カウンターの奥からここには似つかわしくない様な妖艶な女性が煙草を吸いながら出てきた。
紫と黒が入り混じった様な色のドレスをきたエリナと呼ばれた女は、ふ~、とゆっくり煙を吐き出しながら言った。
「あら、ヤマトじゃない、久しぶりね。ええ、今日は空いているわよ」
そしてエリナは俺の方を向き、つま先から頭まで値踏みするように見てきた。
ふうん、と唇に笑みを浮かべて、
「なかなかいいじゃない。どう?今夜」
と、カウンターに両肘を置いて上目遣いに聞いてきた。ドレスから見える大きな胸が強調される。
「悪いな。俺は実力を認めた女以外興味はない」
「おい、アホ!」
そっけなく返答する俺に、ヤマトは焦って女の方に目を向けた。
エリナは少しポカーンとした後、
「ウフフ。やっぱりいい男ね」
焦ってるヤマトとは裏腹に何故か楽しそうに笑った。
ほっとした様子で、ヤマトは奥のさびれたドアを開け入っていった。
「どうぞごゆっくり」
そうエリナは奥に行く俺に対してひらひらと手を振ってきた。
それに会釈を返して、ヤマトに続く。
入った先は小部屋だった。
机が中心にあり、あとは椅子が囲むように4つあるだけだ。
他に部屋はなく、奥の小窓から外を確認すると、この店自体が空中に突き出している感じになっていた。外から話を聞くのはまず無理だろう。
「最高の場所だな」
「そうやろ?おまけに美人さんもおるしな」
そしてヤマトは椅子に座り言った。
「さて、んじゃあ早速ご用件聞きましょか?」
「ああ、ちょっと待て」
俺は腰に下げている残り二つ金貨の袋をヤマトの前に置いた。
男はそれを見て、おお!っと目を輝かせた。
「何が知りたいんでっか?なんでも教えてやるで!」
「『レッドコア』について全てだ」
「......あ~」
『レッドコア』聞いた瞬間ヤマトは一瞬真顔になった後、困った表情を浮かべ、申し訳なさそうに言った。
「旦那、あれは巷では噂話ってのが一番有力やで?」
「......そうか」
「すんまへんな」
「いや、こちらこそすまない。聞き方を間違えたようだ。【アイテムボックス】」
俺はアイテムボックスを呼び出して、右手を突っ込んだ。
「お、めちゃくちゃ便利なスキルを持ってるんやなぁ。んで一体なにを......っ!?」
ドン、ドン。
金貨の袋を追加で2個ヤマトの前に置いた。
「な、なんや!?やから金貨どんだけ積まれても知らんもんは答えれんて」
「足りないか?」
俺は更に3つの金貨袋を積み上げた。
合計7つのずっしりとした袋が机の上に山を作っていた。
ヤマトはそれを茫然と見ている。
「......」
「どうだ?何か思い出したか?」
「いや......」
「そうか、分かった」
「え?」
俺は金貨の袋を一つ手に取り、極力ゆっくりと手前に引き寄せた。
ヤマトはそれを焦ったように目で追っていた。
「ど、どしたんや?」
澄ませた顔で金貨を引き寄せる俺に対して震えた声で聞いていてくるヤマト。
「いやなに、分からないんじゃあしょうがない。撤収しようかと思ってな」
一つ、また一つとゆっくりとした動作でこちらに引き寄せた。
引き寄せる毎に苦悶の表情を浮かべるヤマト。
そして俺は最後の金貨の袋に手を伸ばした。
「あ......」
「そういえば」
俺は何か言いかけたヤマトの言葉を遮り、ぽつりと言った。
「これは独り言だが、俺は傭兵だ。金さえ貰えばだれであろうと守ってやる。例え『レッドコア』みたいなのが実在したとしてもな」
そう言ってから最後の袋を引き寄せようとすると、ガシッとヤマトが腕をつかんできた。
そして「はぁ~~」と、大きなため息をついて聞いてきた。
「ちなみにいくらや?アンタを雇うのは」
俺は少し考えて、答えた。
「俺一人を専属で護衛として雇うなら、安く見積もっても金貨は一日5袋って所だ。だが、そうだな、見返りになるものでも構わん。例えば、他が知らない事を知れる優れた情報屋なら、情報の提供を金貨の代わりにしてもいいんだがな」
「ふむぅ」
「それと今ならキャンペーン中だ。契約したら金貨7袋付きだ」
「あ~、もう!敵わんわ!!」
ヤマトは大声を出して、両手を上げた。
「分かった分かった!思い出した、思い出したで!!」
「そうかそうか。それは良かった」
俺は引き寄せた金貨の袋を再度ヤマトの前に戻した。
するとヤマトは真面目な表情で話し出した。
「情報はあると基本は有利や。やけど時には知らない方がええ情報もあるんやで?平穏に生きようとするには、知る情報と語る情報は選ばなあかん」
そしてこちらを見据えてきた。
「あんさん、分かってるのか?作り話と間違われるという意味、その次元の違いを」
「ああ、もちろんだ」
「はぁ......そりゃそうか。こんなえぐい交渉する人やもんな、全く。声かける人間違えたかもしれんわ」
首を横に振りながらあきらめたように言った。
そして手を差し出してきた。
「改めて、ヤマトや。今後ともよろしゅうな」
「ダイだ。よろしく頼む」
握手をした後、ヤマトは言った。
「それじゃあ早速教えてやるわ。聞いたらもう後戻りは出来へんで」
そう前置きをして語られた『レッドコア』の情報。
それは想像を遥かに凌駕するものだった。