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神、地獄へ舞い降りる

毎週土曜、日曜に1話ずつ更新します。

「「「うわぁ!!」」」


 翌日の朝、全員が叫びながら飛び起きた。


「はぁはぁ、夢か......」

「あ、お前もか?」

「え?もしかして皆同じ夢見てたの?」

「なんだ、怖い夢でも見たか?」

「「「ヒッ!?」」」


 そして俺を見るなり3人はすぐに戦闘態勢に入ろうとしたが、すぐに身体を抑えてうずくまった。

 おそらくだが、ここはこの三人のアジトだろう。

 あそこの周辺を探索したら思った通り建物があったので、そこにこいつらを運び込み、《作成》で作った回復薬を気絶したこいつらに飲ませて寝かせていたのだ。

 その親切な俺に、何故か今こいつらは絶望の表情を向けているわけだが......


「夢だったらどれだけ良かったか......」

「おい、お前ら、それが看病してやった人に対する態度か。それと大怪我しない程度にやったがあまり無理はするな」

「くそ、戦ったり治療したり、一体なんなんだよ、お前は!!」

「言ったろう、お前らの仲間だ」

「「「は?」」」


 三人はキョトンとした。

それにしても本当に息があっているな。


「ですよねー、そりゃ殺されかけた相手から仲間だなんて言われても意味分からないですもん」


 神がすかさず突っ込んできた。

 そういや説明するのを忘れてたな。


「俺はここで生き残る為に短期間で力を付けなければならない。その為にはまずは仲間が必要だ。そしてその仲間にお前らを選んだ。何か質問は?」

「質問あり過ぎだ!お互い何も知らないのに何が仲間だよ!」


 とブッシュダガーナイフの男。

 短髪でピアスをしており、こちらを指差して抗議してきた。


「問題ない。心配しなくともお前らの実力はそれ位の年にしては申し分ないし、センスもある。そして俺の実力も少しは見せたしな」

「あれで少しかよ!って、違う、そうじゃない!」

「お前はちょっと黙ってろ」


 そう、コンバットナイフの男が制した。

 こちらは落ち着いており、おそらくはコイツがこの三人のリーダー格だろう、俺に唯一触れた男だ。


「理由はともあれ、お前が仲間を探しているのは分かった。だが、まずはその見返りを教えてくれ。一応言っておくが、俺達は脅されて働かされる位なら戦って死を選ぶ覚悟はあるからな」


 ふむ、コイツはよく周りが見えている。

 命を握られているのを把握しつつも、決して媚びず、報酬を確保する。

 生きる術に長けているな。


「あまりにも実力の差があれば死さえ選べないぜ」

「なんだって?」


それを聞いて、三人は腰を上げ臨戦態勢をとった。

俺は続けて言った。


「ジョークだ」

「......冗談のセンスが壊滅してますね」


と神の酷評を受ける。

何食わぬ顔で言った俺に、三人はすこしこちらを見た後、勘弁してくれという風にへなへなとまた座り込んだ。


「そうだな。まずはこれら全てをお前らにくれてやる」


 俺は賭けと賞金の全てを机の上に置いた。

 ブッシュダガーナイフの男がそれを確認して驚きの声をあげる。


「おい、すげえぞ!これ全部金貨じゃねえか!当分はこれだけあれば食うに困らねえ」

「他には?」

「後はお前らを強くしてやる。センスはあってもまだまだ未熟だからな。それとあと一つだが、これが一番の報酬だ」

「それはなんだ?」


 俺は三人を見渡し当然の如く言った。


「俺が味方になる」


 三人はポカーン、としていたが、先程まで俺と冷静に交渉していたリーダー格の男が笑いだした。 


「あっはっは!これはやられたな......そりゃあそうだ。あんたが味方になるってのは確かにそれ以上はないわ」


 そしてひとしきり笑った後、


「俺の名前はカルラだ。いいぜ、俺は乗ってやる。だが他の奴ら次第だがな」


 ブッシュダガーナイフの男は俺と金貨の袋を見比べた後、息を吐き、肩をすくめて言った。


「ま、よく分かんねえけど、面白そうだし乗ってやるよ。トウセンだ」


 残りの1人、俺に最初に切りかかってきたカランビットナイフの女。

 長髪を髪飾りで束ねており、動きやすさ重視だろうか、肌の露出の多い服を着ている。

 切長の目をこちらに向けてきて、


「クルルよ、私も賛成。もっと強くなりたいし......この借りはいつか返してやるんだから」


 まだ痛むのか、おでこをさすりながら言った。


「決まりだな」

「そういえばあんたの名前は何だよ」


 トウセンが聞いてきて、俺は少し考える。

 本名は名前は傭兵になる時にとうに捨てた。


「死神でいいんじゃないですか?ぴったりだと思いますけど」


神がそう提案してきた。

全くこの俺のどこを見て死神と思うんだ。

この世界ではまだ誰も殺してはいないのにな。


「俺は神ではない」

「ん?そりゃそうだろ?まあ死神っていうんなら納得できるがよ」


 神に向かって呟いた俺に対してブッシュダガーナイフの男が言った。その言葉に他の二人もうんうんと頷いた。

......どいつもこいつも、人をなんだと思ってやがる。

 だが、死、か......そうだな。


「ダイ、とでも呼んでくれ」


 一度死んでいる俺にとってはピッタリの名前だろう。


「分かった、それにしても珍しい名前だな。まあこれからよろしく頼むよ、ダイ」


 そしてひとしきり自己紹介をした後、話を進める事にした。

 まずは最初の課題だ。


「さて、ではまずはリーダーを決めよう。俺達は今からチームになった訳だが、そこは不満のない様にきちんと決めたい。きっちり統制を取るためにもな」

「え?リーダーはダイがやるんじゃないのか?」

「俺で文句はないのか?」

「文句というか、この中で一番強いし。当然だと思うけど」

「いや、ふむ。そうか......」

「なんで残念そうなんだよ......ちなみに不満あったらどうやって決めるつもりだったんだ?」

「勿論強さの違いをはっきり見せつける必要があるからな。調教......もとい正々堂々とタイマンをして決めていくつもりだった」

「おい、お前さっき最初に何か言いかけたよな?」


 やれやれ、と、カルラは肩をすくめて、クルルとトウセンを見た。

 二人はブンブンと首を横に振っている。


「勘弁してくれ。ダイとは出来ればもう二度と闘いたくはない。アンタで決まりだ、リーダー」

「分かった。では時間がないから明日から3ヶ月でお前らを鍛えてやる。お前らに1番足りないもの、実践経験に充填を置く」

「おいちょっと待てよ。俺達は実践経験なんか今までで十分積んで来たぜ?そんじょそこらの奴らなんか目じゃない。そんな事より技術とか磨いた方がいいんじゃないのかよ」

「その実践経験とやらの内、何回窮地に立った?絶望を感じたのは?」

「......」

「周りを大勢の敵に囲まれた事は?食料も物資もなく敵陣を攻めた事は?......仲間に裏切られた事は?」


 反論がなくなったが、俺は鎮まりかえったのを気にせず、続けた。


「絶対的な『死』を感じたのは何回だ?」


 そして全員を見て言う。


「闘いの中で『死』を感じろ。死を感じる程精神を強く持つことが出来、精神が安定していれば窮地に立たされたとしても本来の実力を発揮する事が出来る」

「......確かにダイの言う通りだ。だが実際は死ぬと思う位に自らをわざと窮地に立たせるのはリスキーだと思うけどな。それで死んだら元も子もないだろ?」

「ああ、その通り、死なない事は大前提だからな。だが、それは問題ない。お前らは運が良いからな」

「ど、どういう事だよ?」

「技術も間違いなく上がって、かつ、死を感じる事の出来る方法がある」

「な、なんか物凄く嫌な予感がするんですけど」


 クルルが膝を抱えながらこちらを見てくる。


「何、簡単だ。この三ヶ月、南にある森林で3ヶ月間生き残ればいい」

「馬鹿か、あそこは魔物の巣窟じゃねぇか!?殺す気か!」

「確かに、あそこの魔物は戦えない事はないが、死角が多過ぎて一瞬でも油断したら死ぬ。それなのにそれを3ヶ月は流石に無謀過ぎる」

「そうですよ、もっと安全にいきましょうよぉ」


そう、情報を探して街を歩いていた時に、南の森はここ北の森とは次元が違うほど魔物の数が多いという事を聞いていたのだ。

 それにしても他はまだ分かるが、何故か神も反対してきた。

 

「あぁそれと俺も居るからな」

「まあ確かにダイを含め四人でならなんとかなりそうね」

「やめましょう〜、死んじゃいますって。もっと安全な方法を考えましょうよぉ」


 何故だか今回は神がやけに突っかかってくるな。

 他2人はクルルの言葉に少し考えて、頷いた。


「それじゃ、決まりだな。後はレベルの高い回復術師が欲しい所だが、どうしたものか」


 何処かで雇うか?

 でも出来るだけ俺たちの情報を他に知られたくはない。

 高位の回復術師で信用できる人。できればチームに入って貰えれば最高なんだが......流石に難しいか。

 と頭を悩ませて居るその時だった。


 ピカッと神々しい光が辺りを包んだ。


「うお、なんだ?」

「!?」

「キャッ」


 だがすぐにそれは収まった。

 そして気づけば、その光があった場所、ではなく部屋の隅に人が居た。

 もっと詳細に言うと、

 輝く様な金髪の髪に、修道着からのぞく透き通る様な白い肌をしている()()()少女が、部屋の隅でこちらに背中を向け体操座りで......泣いていた。

 後ろ姿からだが、おそらく()()1()5()()()だろうか。


「うぅ、ぐす。なんでこのタイミングなんですかぁ。ひっく......森の3ヶ月過ぎてからで良かったじゃないですか〜。あっ、そうだ!このまましれっと逃げれば......」


 なにやらそうぶつぶつと言って、そそくさと出口に歩いていく少女の肩にポン、と俺は優しく手を置いた。

 急で驚いたのか、少女はビクッ、と飛び上がる。


「迷子かな?親御さんは近くに居るのかな?」

「ヒィ!!」


 短い悲鳴を上げて、錆びついたロボットみたいにギギギ、とこちらを振り返った。

 引き攣った笑顔で、


「そ、そうなの、迷子なの!あ、あの、え~と、ママ...ママが待ってるから!」

「そっか、じゃあしょうがないな」

「そ、そう!しょうがないの!」


 俺は少女の肩に置いた手をどけて、話を続ける。


「しかしあの光、まるで()()が現れたのかと思ったよ」

「へ、へぇ、光なんか出てた?見てないなー」

「神様といえば知ってるかい?俺の故郷では神様は嘘をつかないんだってな」

「そ、そうなんだぁ」


 何故か少女は汗をダラダラと流している。

 俺は出来るだけ優しい口調で質問を続けた。


「ちなみになんだけど、君ってまさか、高位の回復魔法って使えたりしないかな?」

「あ、あー、できないことも、ないかな?」

「凄いね〜、そんなに小さいのに」


 少女はその言葉にピクッとしたが、


「そ、そうだよ!凄いの!じゃ、じゃあまたね!」


 俺は足早に出て行こうとする少女に言った。


「身長は155センチ位かな?」

「だから156センチなんだよ!!......あっ!!」


 しまった!という顔をして、慌てて出口へとかけ出そうとする少女の頭をガシッと掴み、俺は言う。


「困っていた人に救いの手を差し伸べる、流石は神様だ」

「うぅ、私のばかぁ」


 最初はジタバタともがいていたが、諦めて小動物の様に俺の手にぶら下がっている神。

 俺の皆ポカーンとしていたので、俺が説明してやる事にした。


「喜べ、俺の依頼主で高位の回復術師だ。これで安心して訓練が出来る」

「お、おう?」

「良く分からないんだけど......まあ、貴重な回復術師も仲間になって、この五人なら少しは安心できるわね」

「ん?」

「「「え?」」」


 3人同時に怪訝そうにこちらを向く。

 何か勘違いしている様なので言葉を付け加えてやる。

 その前に名前をどうするか、神だと説明が面倒くさいしな。

 そして俺は少し考えた後、言った。


「俺とこいつ......リヴは別行動だぞ?」

「「「え?」」」

「そして最初の一か月を過ぎて2ヶ月目から俺がお前らを奇襲する」

「いや、待て!そんなの生き残れる筈ないだろ!!」


 そう叫ぶトウセンに、俺は安心する様に言ってやった。


「大丈夫、心配するな。そこでリヴの出番だ。さて、高位の大魔術師殿はいったいどれほど迄の損傷なら治せるのかな?」


 リヴは大魔術師と聞いて気分を良くしたのか、


「そうだよ!この大魔術師にかかれば、私一人でも、心臓さえ止まっていなかったら大体は治せるんだよ!だから皆、安心するんだよ」


 ふすー、とない胸を張るイヴ。


「だとさ。てことは俺は()()()()()()()()()()いいって事だ」

「「「「え?」」」」


 声が今度は4人揃った。

 息の揃っているのは素晴らしいな。

 こいつは幸先いい。


「では明日は準備運動をする。そして明後日から森にて、魔物と俺の奇襲に耐えて見せろ。あ、当然だがイヴを攻撃するのは禁止だ。治す奴が居なくなったら、多分お前らそのまま死んでしまうからな」


 全く俺の世界は回復なんてとてもなかったのにな。

 腕や足が吹き飛ばされたらその時点で引退かそのまま死ぬかのどちらかだったというのに。

 本当にいい世界だよ全く。


「お前らは本当に恵まれているな」


 そう心の底から言う俺に、何故か全員が引き攣った顔を向けていたが、俺は部屋の端へ行き早々に眠りについたのだった。

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