仲間の作り方
毎週土曜、日曜に1話ずつ更新します。
一体森の中で何が起きたのかと、ざわついていた観客をよそに、会場を後にし今は酒場で休息をとっている。
そして、注文していたでかい骨付き肉を食べ終わり、酒でのどを潤して一息ついた。
「よくあんな悲惨な光景の後に肉食べれますね......」
「やはりネームドだけあってそこそこは動ける連中を相手にした。その分腹が減った、だから飯を食べる。当たり前だろう?」
「あ、結構お強い方達だったのですね。それにしては余裕な感じだったような......それと私が勝手にイメージしていた、こう、もっと接戦を繰り広げて、戦いが終わった後お互いを認め合って酒場で打ち上げ、みたいな事があるのかと」
「なんの話だ?確かに久々に人と戦えて楽しかったが......」
「う~ん、違うんです。そうじゃないんです。先輩が言っていた流れと大分違っているので少々困惑しているだけす」
「先輩?流れ?」
もういいです、と諦めた様な声で言う神に俺は首を傾げた。
こいつ、たまによくわからん事を言うな、と思いつつ、
「思ったより早く終わったから、次の行動に移るか」
と席を立ちあがり代金を払い、店を出た。
辺りはまだ明るく、まだ暗くなるには少し時間がありそうだ。
「え、これだけお金手に入ったんですから、せっかくですし、ゆっくりしてみては?」
「時間は有限だ。さっさと済まされる事は済ましていく」
「私にとってはありがたい話ですけども、ほんとストイックですね。所で次は何を?」
「次は仲間が必要だな」
「仲間!?」
「......何かおかしいこと言ったか?」
普通に考えて仲間は必要だろう。
何故か驚く様にいう神に聞く。
「あ、いいえ、そうか当然ですよね、仲間いりますよね!!ようやくそれっぽくなってきましたね!!」
何故か妙に嬉しそうにテンションが上がっている神。
友情、絆、助け合い......となにやらぶつぶつ言っている。
「一人でやる分には規模がデカくなる気がするからな」
「仲間が必要でっか?」
俺はナイフを素早く抜き後ろを振り向きながら構えた。
後ろにいる男の首筋にナイフが当たる。
「何者だ?」
「おっと、物騒やなぁ。別に敵やあらへんし、むしろお礼を言いに来たんよ」
「なんの礼だ?」
「いや、説明させてもらうんやけど、その前にちょっとこれ下ろしてくれへんかな?」
俺は敵意が無いことを確認して首に当てていたナイフをしまう。
男は大袈裟に胸を撫で下ろし、
「さっきはあんたのお陰で大分儲けさせて貰ったからな、おおきに」
「さっき?まさかお前、俺に賭けたのか?」
「せやで〜、有金全部突っ込んだわ。お陰でこれや」
両手に大きな袋を掲げた。
ジャラジャラと音を立てて満足そうにしている。
「んで、礼代わりや。仲間がさっき欲しい言ってたやろ?ワイが情報を教えてやろうかと思うてな」
「紹介じゃなくて情報か」
「せや、仲間に出来るかはアンタ次第やな」
「なるほどな、聞こう」
「流石やな。話が早いわ」
男は楽しそうに言った。
俺はその男に聞いて、北の森の奥にある場所を教えて貰った。
そしてそこに金を出来るだけ目立つ様に持って行くといいらしい。
それだけ伝えると男は「ほな、次回から贔屓にしたってや」といい残し、人混みの中へと消えていった。
ふむ、話し方はかるいが、あの身のこなし、只者ではないだろう。
全く......後ろを取られたのはいつぶりだろうか。
「なんか、楽しそうですね」
「少しな。楽しくなってきた、所だ」
「それにしても、ちょっと、危ないんじゃ無いんですか?なんか怪しい人からの情報ですし、しかも人気のないところに金を目立つ様に持っていくって、もう狙って下さいって言ってるものじゃ無いですか」
「そういう事だろうな」
「え?どういうことです?」
俺はさっそく袋を2つに分けて、腰にぶら下げた。
そして北の森を目指すことにした。幸いここから北の森はそこまで遠くはない。
北側の出口から街を出て、森の入口へとついた。
俺は金貨をジャラジャラと音を立てながら森へと入っていき、目的の地点の付近までやってきた。
日も落ちかけ、道は木陰から差し込む夕日で赤く照らされていた。
たまに鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「なんかいかにもって所ですね。結構不気味だと思いますが、怖くないんですか?」
「何がだ?」
「いえ、なんでもないです......」
そして思いついた様に神は聞いてきた。
「そういえば、仲間は何人位必要なのですか?」
俺は少し考えて、
「あまり多くても統制がとりずらいからな......」
「止まれ」
後方から突然声がしたので後ろを振り返ると、はっきりと顔は見えないが、まだ10代後半位の男が木の上に立っていた。
両手には大振りなコンバットナイフを握っていた。
他を見渡して見ると他の木にもそれぞれ俺を三角形に挟み込む様に同じくらいの年齢の男女がいた。
それぞれが両手に武器を持っており、形状からして男の方は指に挟み込む先端が平べったい形のブッシュダガーナイフ、女は指にはめ込む様にして使う鉤爪の様なカランビットナイフだろう。
......なかなかいいセンスしてやがる。
そして気になるのが、全員の武器は一様に光を全て吸い込んでいるかの様な漆黒だった。
「そうだな、出来るだけ若くて|、俺とは別に三人は最低欲しいな。若ければ育てれるし、躾もしやすい。フォーマンセルは様々な作戦に適応できるしな。武器もナイフが使えれば1番良い。魔物にはいいとは思うが、対人戦だとさっき戦った奴らみたいにあほみたいな大きさのハンマーや大剣などは良い的になるだけだからな。魔法使いなど論外だ。俺なら呪文唱えるまでに頭を蜂の巣に出来る」
「ファンタジー全否定のお言葉ですね......」
「といっても、もちろん例外はあるものだがな」
そして、話しながらゆっくりと俺を引き留めた男の方へと歩いていく。
「それと仲間になる上で1番重要なもの、これはなかなか難しい所なんだがな。それは......」
「あの、そろそろこの人たちに集中した方が......なんかヤバそうですよ。もしかしてあの人が言ってたのってこの人たちのことなんでしょうか?」
「何を一人でぶつぶつ言っている?最後の警告だ。止まれ、それ以上近づくな」
それでも歩みを止めずにそのまま近づいていくとーーー。
「ゴメンね」
いつの間にか木の上にいた女が俺の後ろに回り込んでいた。
ーーー殺気、が、ないだと?
「チッ、また死体の処理に手間がかかる」
コンバットナイフの男の声が聞こえたのとほぼ同時に女は身体を反転させその勢いで、右手のカランビットナイフを振り抜く。
俺のマスクの間から頸動脈を切ろうとする高速の刃が迫る。
そして......
「ーーー殺しに躊躇いのない事だ」
俺は刃が首に届く直前でそれを左手の指に挟んで止めた。
「なかなか綺麗な軌道だな」
俺は素直に褒める。
楽しそうにしている俺とは逆に、女は驚愕の表情をしていた。
「えっ?嘘......」
だが、女は驚きながらも一切止まらず、身体を反転させながら左手の方で首を狙ってくる。
やはりただの賊とは思えないとてもしなやかな動きだった。
これは......。
俺はそれを首を少し前に傾げてそれを紙一重で躱した。
それと同時に空振りで出来たほんの少しの隙に女の顎へ掌底を喰らわした。
「ぐぅ!?」
上にのけぞった所で足払いをして、女が前のめりに倒れる。
そして地面に女の顔が地面にぶつかる前に......
女の頭を右足で思い切り地面に踏みつけた。
ゴンッ、という鈍い音が響き、ビクッと痙攣した後、女は脱力した。
「うわぁ......」
更に他の二人に目線は外さず、女の意識の確認をする為に、靴の裏で女の頭をぐりぐりと地面に擦り付けている俺に対して、神がドン引きしている様な声を出した。
だが、今はそれどころではない。
ーー何があった?
クルルが背後を取った時、おの男は気づいていなかった。そしてあの至近距離、確実にしとめた筈だ......筈だった。
俺は一瞬すぎて何が起こったのが理解するのに時間がかかった。
気付いたらクルルのナイフが止められ、それだけではなく、地面に叩きつけられている。
見るとあの怪しげな装備の男の肩が少し震えていた。
あの人間離れした行動で息が切れたか?
俺はトウセンにアイコンタクトをし、二人で同時に攻撃を仕掛けようとナイフを構え直した。
そして枝を思い切り踏みつけトウセンと同時に男に飛び掛かる。その直前、何を思ったか、男は下を向き、マスクを外した。
そしてゆっくりと顔をあげた。
ーーーゾクッ。
「死ね!!」
やばい、これで決めなきゃ、殺される。
全身にぶわっと鳥肌が立った。
考えられない。なんと男はこの命のやり取りの最中に、
笑っていたのだ。
「ーーー。」
そう言って奴は、ゆっくりと、こちらを、
ーーー見た。
瞬間、
四肢に数発の弾丸を頭に打ち込まれ、投擲されたナイフに頸動脈を切断され、首から血飛沫を上げて目の前が真っ赤になった。
そして、なす術もなく膝から崩れておち、自分の血で真っ赤に染まった両手を見て......
その時、奴がさっき言った言葉がもう一度聞こえた。
「素晴らしい」
その瞬間我にかえった。
気付けば俺は弱々しくも奴の胴に拳を当てていた。
足元には気絶したクルルとトウセン。それと俺が持っていたナイフが散らばっていた。
嘘だろ、さっきのは幻覚?いや、魔力は感じなかった。
という事は、ただの殺気だけでイメージさせられたのか......絶対的な「死」の感覚を......
こんな生活をしているから、修羅場をなんども乗り越えてきた。その、俺が?
奴を見上げる、今は真顔に戻っていたが、何故か嬉しそうに見える。
限界がきて仰向けに崩れ落ちる。
パクパク、と口を動かすが声が出ない、言葉を発する事も出来ない程疲弊している様だった。
最後の力を振り絞り、
「殺せ」
と声の出ない口を動かした。
薄れゆく意識のなかで、奴の予想外の返答を聞いた。
「これから仲間になる奴を殺す奴はいないだろう」
とても、満足そうに、そして当然の如くそう言った。
そして、その意味を理解する前に俺の意識は闇の中へと消えていったのだった。