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絶対絶命

 現在俺は三人に囲まれている。今まで会った奴ら位なら幾らでも対応する術はあるが、こいつらに対しては指一本動かせない、その瞬間殺される事が直感で分かる。

 恐らく一人一人がそれぐらいの程度の力を持っているだろう。


「……ふん」

「ほう、この状態で動じないとは......相当な胆力の持ち主か、頭がいかれているかのどちらかであろうな」

「いや、これぐらいじゃないと困るからな。安心した」

「なんだと?」

「今何をされようとお前らを道ずれにする事は出来る、俺が今指一本動かせばな。その瞬間俺は殺されるだろうが、今俺が指を引っかけているのは、C4を俺がここの素材を調合して更に改良を加えた爆弾だ。まぁお前らにでも分かるように言うと、ここら一帯を吹き飛ばす事位は容易って事だ」


 正面にいる顧炎武はそれを聞いて、こちらを見据え、しばらくして言った。


「ほぅ......だがそれをしたら、近くにいるであろうお前の仲間も巻き添えで死ぬのではないか?」

「問題ない」


 顧炎武は俺が即答したことに興味深そうに聞いてきた。


「という事は何か策が......」

「死ねばいい」

「へぇ。こいつ、仲間を見捨てるつもり?」


 マドカが少し驚いたように目を見開いていたが、顧炎武は納得した様に頷いた。そして、


「なるほど。くくっ、わははは!!」

「......なによ?」


 ひとしきり笑った後、ボシュン、と顧炎武の拳に纏っていた炎が消えていった。そして髪をかき上げ、天を仰いだ。

 ふー、とため息をついた後こちらを向き言った。



「こやつは我らが攻撃するまでの短い時間で実力差を把握し、一瞬で自らの命を差し出してきた。命を懸けた攻撃ってのは覚悟が段違いにいる、この判断の速さ、数えきれない程の修羅場を乗り越えてきたんだろう。それに......」


 ニヤっとして続ける。


「仲間を巻き添えにするのはこいつなりの優しさだろう。敵に捕まると何をされるか分からない、死より辛い拷問が待っていたとしてもおかしくないのだ。」

「......さあな」

「ふ、冷血そうに見えてなかなかの漢よ」


 俺は懐に手を入れたまま、言った。


「それで?俺を殺すか?」

「まあ、そうだな。貴様を生かしておけば恐らく、いずれは我々の脅威となるだろうからな、殺した方がいいだろう」


 すると、俺の首にナイフを当てていた、後ろにいる何者かが言った。


「……もういい。マドカ、説明」

「え~、私?面倒くさいなぁ」

「貴女の首、はねる?」

「分かった、分かった。暗殺集団のトップのアンタが言うと洒落にならないって。その前にちゃんとこの子に名乗りなさいよ、礼儀でしょ?」

「......黙凛、№01《ナンバーゼロイチ》「服部凛雪(はっとりりんせつ)」」


 後ろから全く感情が感じられない抑揚で女性の声が聞こえた。


「我が説明してやろうか?」

「アンタは説明下手だから私がやる」


 と顧炎武をマドカがバッサリ。

 顧炎武は「むう」と不満そうな声を出したが、そのまま黙った。

 それを気にせずマドカは顧炎武と俺の後ろにいるであろう凛雪に目配せをして、何か確認を取っているようだ。凛雪は分からないが、顧炎武はなにやら頷いた

 そして、何か確認をとれたのだろうか、こちらを向き直り言った。


「それじゃ、とりあえず今回の件だけど、うん。合格ね」

「......合格だと?」

「ええ、合格よ。実は太閤の依頼で、レッドコアの事を探っている奴らがいるから始末する様に言われたのだけど、見込みがあるようなら勧誘してくるようにとも言われていたの。まぁ、3大組織は別として、チームのトップは一人だけでも、そこらの小規模の組織なら完膚なきまでに潰す位の力を持っているからね。それをたった一人に対して送り込むのも驚きなのに、まさか、他のトップも呼ばれていたとはね......」

「まあ、我はよく分からんが、つまり太閤は最初からこいつ一人の相手をするのにトップクラスが3人いると判断したという事だろう」

「そういう事ね。一瞬で冷静に相手の力量を見極め、自分の命をも瞬時に犠牲にする判断力。共犯者(ディガー)を持たずにチームのメンバーを制圧した戦闘スキル。それにトップの3人を犠牲にするのは痛すぎる。いずれによ仲間になるならそれに越したことはない、という事よ。まあ元々トップを3人も行かせている時点で太閤も勧誘することを決めているんでしょうけどね。要はこれは確認作業ってこと」

「俺がそれに同意したとしてお前らのその提案が嘘ではない証拠はあるのか?」

「ああ、それなら......ちょうど来たみたいよ」


 そう言ってマドカが視線を建物の方に動かしたので、そちらを見ると、カルラ達がこちらに歩いてきていた。魔力が枯渇してへばっていたリヴも元気そうだが、全員状況が呑み込めず困惑しているようだった。


「クローネに『衰枯流』を呼ばせていたのよ。見れば分かると思うけど、傷も魔力も完全に回復しているはずだわ。これが証拠になるかしら?」


よく確認してみると、確かに全員の傷は完全と言っていい程なくなっていた。

あれほどあったカルラの傷や火傷もきれいに無くなっている。


「......ふん、いいだろう。話を聞こう」

「簡単な話よ。『レッドコア』に入ればいいだけよ」


俺の問いに当然と言わんばかりに腕を組みながら答える顧炎武。


「俺は傭兵だ。入るかどうかは金次第だ」

「あはは、それなら安心していいわ。基本的に『レッドコア』に入ると太閤が私たちの雇い主になるんだけど、金払いはめちゃくちゃいいわよ。それと同士討ちはご法度だから、今回の戦いもアンタが仲間になる意思を示した時点で手打ちよ」

「ふむ、信用してよさそうだな......分かった」


「太閤の奴ら注意事項に正確に難ありとか書いてたくせに意外と話が分かる奴じゃん」


 俺の返事を受け、拍子抜けしたみたいにマドカが言った。


「おいそこの赤マント」

「我の名は顧炎武だ」

「俺の目の前に火を出すことは出来るか?」


 顧炎武は訝しげにしていたが、こんな事造作でもないというように何の動作もせずに俺の目の前に火の玉を出した。

 ガスマスクを外し、俺は懐に入れていた右手に持っていた物をゆっくりと取り出した。「貴様っ」と顧炎武とマドカがさっと構えなおし、首に当てられているナイフにも少し力が加わった。

 俺は気にせずにそのままそれを取り出した。



 一本の煙草を。



 呆気に取られる他を気にせず、目の前の火の玉で煙草に火をつけ、深く吸ってから、ふー、とマドカに煙を吐き出し、そして首元のナイフで煙草を消した。


「こいつ、我の神聖な炎に......。しかもあの状態で我々を騙していただと?」

「ゴホゴホ......やっぱり、こいつ殺そう!」

「......!!」

「トップが優しい人達で安心だな。これからよろしく頼むぞ」

「「「「ヒィッ」」」」


 俺のユーモア溢れる挨拶の後に、辺りに気が触れるほどの濃密な殺気が充満し、平気な顔をしている俺をよそにカルラやクローネ達は悲鳴を上げたのだった。

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