それぞれの最高戦力
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「ふん!」
炎楽の雄叫びと共に迫る火球。
それを俺は横に飛びのき躱した。
ーーー。
そこから更に後ろにステップした。
ドンッ!ビキキィッ!
「本当に、なんで躱せるの?」
俺が居た地面を踵落としで割ったクローネが聞いてきた。
こちらの真似なのか知らないが、若干ドヤ顔でゆっくりとこちらを見てきた。
「さあな。ただ、あまりゆっくりとした動作はおすすめしない」
俺はクローネがこちらを向き終わる前に、片足を踏み出し一瞬で距離を詰めクローネの顎へと裏拳を放ち、そのまま上にナイフを2本投げた。拳をもろに顎に喰らったクローネは「くはっ.....」と、上に吹き飛ぶ。
地面にたたきつけられたクローネが起き上がろうとした時、ちょうど上から回転したナイフが落ちてきて首の両側に突き刺さった。
地面に突き刺さったナイフから血が伝い落ちる。
「くっ......」
「もう動くなよ。あまり手荒な真似はしたくない」
「はっは.....それは、新しいギャグか?」
炎楽は俺の方を苦笑いしながら言ってきたが無視して話を進める。
「手短に話そう。おい、お前らのトップはどこにいる?」
「......」
「はぁ......【アイテムボックス】」
俺は喋りそうにない炎楽にため息をつき、アイテムボックスからナイフを数本取り出し、補充した。そのうち一つをクローネに向け構えた。
「やめろ!『火の極意』....」
「遅い」
パンッ。
反対の手で俺は拳銃を抜き、炎楽の左手に弾を打ち込んだ。
手のひらに穴が空くのと同時に血しぶきが上がった。
「ぐぅ......」
「やれやれ、異能力か何か分からないが、所詮そんなものか」
「はっは......やはり太閤の、言う事は正しかった様だ。言う通り大人しく時間稼ぎだけやってたら良かったか。だが依頼達成だ!」
「あ?」
どこからか、キィン、とライターの開ける音が辺りに響いた。
「『火の極意・炎壁』」
ゴォウッ!!
突然目の前に現れた炎の壁でクローネと炎楽が見えなくなってしまった。炎楽のとは比べ物にならない空気を焦がすような熱気に周囲が支配された。
「悪いね、うちのを助けてもらって」
「何、気にするな。我の力の前では些細な事よ。炎楽のバカも突っ走りやがったからな.....ついでだ」
真後ろから声が聞こえたので、顔の横からナイフを背後の声がした二方向へ投擲した。そして更に二本のナイフを構えながら振り向きざまに振りぬく。
パキィン。
それに合わせて振られた物で投げたナイフと共に砕かれた。
その相手を見ると挑発的な目に水色の瞳、肩の出た服にホットパンツを履いている女だった。派手な服装に似合わず、振った武器は黒と灰色をした、剣、の様な物だった。様な、というのは、握る所がありその先は剣の様に尖っているが、どう見ても材質が石の様だったからだ。
それにしても、体制が悪かったにしろ、この近距離で俺の投げたナイフをあんな武器ともいえるか分からない物で完璧に弾くとはな。
その女の少し後ろで大柄の男が消し炭にしたであろうナイフを見下していた。手には炎楽と同じライターを持っていたので、恐らくは火党だろう。
筋肉質の体にタンクトップ、白色に赤と金の炎の刺繍がされただぼだぼのズボンに手を突っ込んでいた。
俺は速攻拳銃で赤マントの男を撃ったが、弾はそいつの元に届く前に灰になった。そして消し炭になったそれに対して興味深そうに言った。
「面白い火力だ。それにしても、魔力を使わずにこの速度は怖いな」
「へぇ~、【失われた武器】じゃない。久しぶりに見たわ」
「っ!?」
いつの間にか俺が持っていた筈の拳銃が女の手にあった。しかも、一切反応出来なかっただけではなく、手に持っていたにも関わらず、一瞬だが、取られたことさえ分からなかった。
俺は現れた二人のその異常さを感じつつもナイフを構える。
「え、嘘。この男、武器が普通のものじゃない」
「ほう?【失われた武器】|を持っているにしてもディガー《共犯者》無しでこいつらを制圧したというのか......面白い。貴様は一体何者だ?」
「さぁな。その質問に答える必要はない」
俺の返答にうっかりした様に赤マントの男は首に手を当て言った。
「これは失礼だったな。名乗るときはこちらからだったな。我は『火党』、党首の顧炎武だ」
「『金泉花』、頭のマドカよ」
勝手に解釈したのか自己紹介をしてきた。別に先に名乗れとかそういう事ではないのだが......
「......ダイだ」
一応、名乗ってやった。こいつら、ふざけた様な奴らだが、実力は本物だろう。
知らぬ間に手に汗をかいているのに気が付いのだが、こんな事今までで初めてだ。強敵に対峙したことによる緊張を感じたのは。
......なるほど、興味深いな。
こいつら、全く底が見えない。
「この国では見ない格好だが、礼儀はあるようだな」
「故郷がしっかりしていてね」
「だが、それじゃあ本気を出したレッドコアには届かない」
ーーーー
一瞬だった。
俺が懐に手を入れた次の瞬間、俺の背後から首元に何者かのナイフが当てられ、顧炎武の炎の拳が顔の前で止められてルピアが横から俺のこめかみ部分に拳銃を構えていた......