傭兵VS『火党』&『金泉花』
「おいおい、大丈夫か?」
炎楽の手の上で火が球状に留まっている。それは手榴弾の破片を巻き込みながら緩やかな渦状に回転しており、炎楽はそれを楽しそうに見つめていた。
するとその上から声がした。
「ばっかじゃないの?もしかして値打ち物かもしれないじゃない。ギリギリまで見ていただけよ」
「流石の貪欲さだな」
ばっと、上から降りてきたのはクローネだった。
無傷、至近距離にいたのにも関わらず、汚れすらついていなかった。
炎楽はその火の球を眺めながら「ふむ、魔力を感じられないな。やはり《失われた武器》か」、そう呟いた。
「ホントに?魔力を一切使用せずに必殺級の火力を出せるってやつよね......」
「うむ。だが欠点はこれみたいに基本は消耗品ってことだな」
そして、炎楽は手首をクイっと捻ると、火球は高速で回転し、フォン、と破片を巻き込み消滅した。
「さて、あのマスク野郎、何処かに消えたわね」
クローネは辺りを確認した。先程まで居た場所にはあの珍しい格好の男の姿はなかった。それと、気になるのが、あの面妖なマスクをかぶる瞬間、一瞬目が赤く光っていた様に見えた事だ。
クローネはそれを思い出して身震いした。
久しぶりね、この感覚......。
そう思っていると急にフッと頭上に影が出来た。その瞬間クローネは横に飛んだ。
「あれを躱すか。さっきの回避といい、一体どんな身体能力してるんだ」
「......あんたがそれを言う?」
クローネがさっきまでいた位置に突き刺した大型のナイフを引き抜き、ゆらりと見てきた。マスク越しでどんな表情かは読み取れないが、とてつもない殺気が伝わってくる。
足が重くなる程、異常な圧......。
クローネが警戒していると、ダイは即座にクローネにナイフを連続で足元めがけて投げた。それをクローネはバク転しながら躱し、そのまま空いている入口に隠れた。
「そこは危ないぞ」
ピン、とクローネが何か糸を触れたかと思った瞬間、ナイフが四方から襲ってきた。「くっ!?」クローネはそれを回転しながらキインとナイフで弾いたが、それと同時に回転している隙をつく様にコロコロとまた長細い筒状の物が転がってきた。
「また!?」
カッ、次は閃光が辺りを包み、それをモロに浴びるクローネ。
その直後、ドォンッ!!
数コンマ後にダイが投げ込んだ手榴弾の爆発が起き、逃げ場のない炎は窓や入口から噴き出し、ぱらぱらと建物の破片や砂埃が上から落ちてきた。
「マスクの男よ、加減無しだな!」
「お前らは加減して戦うレベルではないだろう?」
ダイと炎楽が視線が交差するのと同時に、その数秒前に上に投げていたスモークグレネードが炎楽とダイの間へと落ちた。ボシューと辺りが真っ白な煙で包まれる。
炎楽は煙で覆われた周りを見渡して、言った。
「次は目隠しか!我らレッドコアに対してこの息もつかさぬ流れるような動き!やはり只者ではない様だな!いいだろう、ならこちらも本気で行こう‼︎」
キィンとライターを開く音がした。
ボッ、と、そこに真っ赤な、まるで莫大な炎を凝縮したような、火が灯る。
ぴっと上に投げると同時に手を祈るように握り合わせた。
「『火の極意・形』」
そう言ったのと同時に、ピインと、ライターが炎楽の前で止まったと思ったら、その炎が薄くシャボン玉の様に円状にフッと膨らみ、そして周りの煙を一瞬で弾き飛ばした。
だが煙が晴れても既にダイの姿は無かった。
「早いな、素早さは金泉花の奴らと張るんじゃないか?」
キョロキョロと辺りを伺う炎楽、その背後のにある横の入り口からダイが横に飛び出して、アイテムボックスから補充した背中の4本のナイフに手を伸ばした。
「『盗みの極意・掠』」
それが聞こえた瞬間、装備していたナイフが全て無くなっていた。
そして気配のする方にダイが目を向けると、クローネが両手にナイフを2本ずつ持っていた。手榴弾の爆炎と破片で所々、傷と火傷が見えるがどれも軽傷の様だった。
「これを目で追えるの?でも、使い手はS級でもナイフは2級品ってところかしら?こんな刃物使っている様じゃアタシ達の命には届かないわよ」
「あれで死なないとはな、楽しませてくれるじゃないか」
パキンッ。
とクローネが地面に向かって投げたナイフが砕けた音が響いた。
「まあ、確かにさっきの爆弾みたいなのはちょっと危なかったけど......でもようやく連撃もやんだ様ね、これからはこちらの番よ」
炎楽とクローネに挟まれたダイは懐からナイフを二つ取り出し構える。
それに対して、炎楽とクローネは同時に手を合わせた。
「『火の極意・纏!』」
「『盗みの極意・隠』」
シュン、と一瞬で姿を消したクローネとライターの火が両手を覆い、構える炎楽。
辺りにはチリチリと一触即発の空気が充満していた。