伝説の傭兵の異世界冒険録
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「あんたは年を取りすぎた」
血の付いたナイフをこちらへ向け男は言った。
「ふん、それにしてはこの老いぼれ殺すのに散々手を回し、最後はだまし討ちか。つまらん奴だな」
致命傷を受けながらも尚強気に言い放つ老人に男は少したじろいだ。
だがすぐにニヤリと口を歪め、懐から拳銃を取り出しこちらへと向けた。
やれやれ、ここで終わりか。
まあ大分長生きした方だろう。
そして銃声が鳴り響いた瞬間、意識が途絶えた。
ここは、何処だ?
冷たい感触に目を覚ますと、そこは洞窟だった。
横に落ちている松明で辺りはオレンジ色に照らされている。
確か俺は戦場にいて......
「う......」
急に頭痛がして頭を抑える。
「そうだ、あの時仲間だった奴らに裏切られ......殺された、はずだ」
思い出して怒りが沸々と湧いてきた。
裏切った奴らにではない、それに気付かなかった自分の甘さにだ。
「起きたかい?『死神』」
いきなり脳内に声が響いた。
「誰だ、お前は。なぜ俺のコードネームを知っている?」
「常に先陣をきり、敵を一切の躊躇もなく皆殺しにする。その卓越した殺しの技術と天才的な武器の扱いで、敵味方にも恐怖の対象となっていた。それでついたネームが『死神』」
人間もそこまでいくと恐ろしいね〜、とその声は愉快そうに話す。
『死神』。傭兵にいた時のコードネームだ。
様々な戦場に行き、そこでの戦果を挙げ続けていたら、いつの間にかそう呼ばれていたのだ。
「私のことは誰でもいい。いずれ分かることさ。それより、」
「黙れ」
「ヒッ」
一瞬にしてピリっとした空気が流れる。
何か短い悲鳴みたいなのが聞こえたが気のせいだろう。
「その声の感じ、見た目は15歳、身長は155cm位の少女、といった所か」
「なんで分かるのっ!? でも身長は、156cm、なんだよ......」
小さく訂正が入ったが無視する。
「そして確実な死を感じたのにも関わらず、目を覚ますと身体の何処にも傷一つない、それどころか妙に身体が軽い」
俺は洞窟の天井を見上げながら続けた。
「まあ、それに脳に直接声を届けれるって事はお前は神かそれに近いものだろう?違ってないならさっさと要件だけを言え」
「は、はい......うう、日本人ってもっと謙虚って聞いてたのに、話が違うよぉ......」
泣きそうな声で何か呟いている。
「......ゴホン、それでは、説明の前にまず早速最初の試練を乗り越えて下さい」
すると洞窟の前の暗闇から狼の様な獣が唸り声を上げながら出てきた。
「こいつはワーウルフという魔物だ。まずは奴を......」
「こいつはいい」
「へ?」
また神の話を遮ってワーウルフへ目を合わし、瞬間、一気に殺気を出す。
ゾワッ、と辺りに張り詰めた空気が広がる。
するとワーウルフはビクッとした後、俺の方を怯えた目で見ながら、お腹を見せる様に転がった。
「......クゥン......」
「......くぅん?あれ?ちょっと待って、え?」
あれ、おかしいな、え、なんで?と動揺している様な声が聞こえる。
俺はワーウルフのお腹を撫でながら言う。
「知らない地で最初に犬系の動物は助かるな。鼻が利くし大抵は従順だからな、なかなか親切じゃないか」
「............あ、ああ、そうだろう。感謝するがよい」
「で?試練というのは?」
何やら黙っている神に向かって催促する。
「......こほん。あとは、えーと、あれだ。試験はまぁ、合格ということにしといてやろう。とりあえずは今の状況を説明しよう」
パラパラと何かをめくる音。
試験はどうなったのかと思ったが、俺は気にせず足を洞窟の先へと進めて行く。
「ごほん、まずはここはミリオン大陸だ。ここにお前を転生した」
「......」
「......そ、そして、ここに転生した時にお前の身体を最適化してある。身体能力もこの世界に合わせて、元いた世界の時よりも少しだけ向上しているはずだ」
「............」
「あ、あと、特殊な能力も授けて、いる......」
「......」
「え、と、その能力、とは、《武器庫》だ......、です」
「......」
「う、うぅ......こ、この能力、は、素材に魔力を、ぐすっ......込める事によってぇ、それに合った武器や装備を生成する事が、出来るのですぅ......」
「......」
「な、何か言って下さいよぉ」
「おい」
「は、はい!」
「それは魔力というものが俺にもあるという事か?」
「は、はい、その通りです!人それぞれ魔力の量はバラバラですけど......しかし残念ながらすべて作れるわけではなく、作れるのはその魔物の性質に依存しています。しかも構造も把握していないと作成できないので何ができるかは実際に作ってみないと分からないのです」
神は何故かいつの間にか敬語になっていた。
俺は松明を左手に持ち替え落ちている石を拾い、さっきから頭上を飛んでいるコウモリに向かってそれを投げた。
「キィ⁉︎」
落ちてきたコウモリをキャッチし、グッと力を込めえてみる。
するとそこから光が溢れたかと思うと、顔を覆い隠すマスクの様な物へと変化した。
俺は持っていた松明を捨てて、それをかけた。
「......それは?」
「暗視ゴーグルだ。赤外線で暗闇でも見える」
「へ、へぇ〜。なんか凄く複雑そうな作りですけど......」
神の戸惑っているような声がしたが、俺はさして難しいとは思わない。
傭兵時代は仕組みがわからないものはその都度分解して覚えたりしていたからな。
おかげであり合わせの部品から爆弾なども作れるようになり、色々と役に立ったものだ。
「まぁ、何にでもルールがある。それさえ分かれば応用は効くし、能力の使い方もだいたいは分かった」
歩き続けてようやく前方に光が見えてきた。
「さて、ではお前の目的を聞こう」
「あ、はい、そうでした。もうお分かりかと思いますが、この世界は魔法があり、先程の様な魔物もいて、文化なども......」
「簡潔に話せ」
「ごめんなさい!!」
「聞きたい事は二つ。依頼とそれに対する報酬だ」
「あ、はい......。依頼は出来るだけ早くこの世界で強くなって生き残って下さい!見返りは貴方を元の世界に生き返らせます!」
「分かった」
「はい、もちろん戸惑うのは承知ですが......て、えっ!?よろしいのですか?いずれにせよこちらも理由があって詳しくは説明出来ないのですが......そんなに簡単に決められて......」
申し訳無さそうに言う神に、
「問題ない。それに命の代償としては安いものだ」
「......有難うございます」
洞窟を出て暗視スコープを外し、空を仰ぎながら燦々と降り注ぐ光に目を少し細めながら言った。
「まあ今からお前が俺の依頼主だ。よろしく頼む」
「あっ、こちらこそ!宜しくお願い致します!とりあえずはここの森を抜けた所に街があるので、そこで装備を揃えるのをオススメします!」
その後「怖いけど頼もしそうで良かった」と小声で聞こえた。
さてと、と俺は一瞬だけ森を見つめ、素早く茂みの中に入って行った。
「そっちに道はありませんよ!?」
俺は側の茂みに手を突っ込み、キバが発達した小型の暴れる魔物の首を掴み、そのまま持ち上げる。そのまま力を込めるとバキバキと首の骨が折れる音が響いた。
「ひぃ」
神の悲鳴。
そしてガクンと絶命したのを確認してそれに魔力を込める。
するとそれはサバイバルナイフに変化した。
「装備を調達しながら、街へと向かう。フフ、悪くない。なかなか効率的で便利な能力だな。なぁ神よ?」
右手で持ったサバイバルナイフを見つめながら少し笑うと、
「うわぁ、やっぱりこの人怖いです〜」
という声が頭の中に響いた。