第九話 深夜の奇行
冒険者ギルドにて依頼達成の旨を伝え、魔物の死体を渡し、報酬と魔物の買い取り額を貰う。これで自由な用途で使える金額は金貨2枚と銀貨37枚。
今度はポーションの購入がしたい。冒険者ギルドの左隣の薬屋へ向かう。
薬屋はそこまで広くないようだ。この時間帯になると冒険者たちも増え、少し動き辛い。
購入予定の品は魔力ポーション、飲用する事で魔力をほぼ即座に補充できる薬だ。ポーションの効果は、下級が約50、中級が約200、上級が約500、最上級は1000以上の魔力回復。一般に市場で扱われているのは上級まで。最上級は回復量が1000以上、と幅があるため、オークションで取引される。
邪法使いは魔力消費が激しいので、上級ポーションを購入するつもりだ。その値段は金貨1枚。
次は治癒ポーション。一定量の体力が回復するまで自然治癒速度を劇的に上昇させる水薬だ。患部に塗布しても、飲用しても効果を発揮する。これにも階級があり、下級が約100、中級が約300、上級が約500、最上級は1000以上、体力を回復する効果がある。階級が上がるほど自然治癒速度上昇効果も上がる。より素早く、より大量に回復できるというわけだ。
購入するのは中級ポーション2本だ。2本合わせて、値段は銀貨50枚。
再び懐が寂しくなる。……ほぼ全資産をあそこに預けて来たのは、少し、やりすぎだったかもしれない。
上級魔力ポーション及び中級治癒ポーション2本の代金を支払い、薬屋を出た。宿に戻って、自分のステータスを確認する。
「〔ステータス〕」
――――――――――――――――――――――――
名前:ペルシオ
種族:怪人♂(通常、人間♂と誤認されます) Lv:36 → 39
職業:冒険者 ランク:C
適正職:密偵Lv:2 → 4(斥候Lv:12) 邪法使いLv:4
体力:456/456 → 486/486 魔力:3270/3270 → 803/3455
攻撃力:265 → 295
魔法攻撃力:773 → 809
防御力:167 → 183
魔法防御力:232 → 256
素早さ:334 → 370
器用さ:334 → 370
スキル:〔慧眼〕Lv:5(〔鑑定〕Lv:45) 〔短剣術〕Lv:6 〔魔纏〕Lv:1(MAX) 〔隠密〕Lv:1 → 3(〔忍び歩き〕Lv:11 → 13) 〔隠蔽〕Lv:5 → 7 〔魔力操作〕Lv:5 〔魔力食〕Lv:1(MAX) 〔不休体質〕Lv:1(MAX) 〔再生〕Lv:2 → 4 〔制限解除〕Lv:1(NEW) 〔罠察知〕Lv:6 → 8
魔法:〔虚構〕 〔変身〕 〔幻斬〕 〔急襲の炎〕 〔空間歪曲〕 〔死霊使役〕 〔精神攻撃〕 〔探査〕 〔暴食の闇〕 〔雷雨霰〕 〔異次元保管庫〕 〔武具支配〕 〔惨劇〕
――――――――――――――――――――――――
魔力の消費が激しい。敵の襲来に待った、はかけられないので、今のうちに魔力を回復する。勇者一行はちゃんと強くなっているみたいだし、次に魔族と接敵することがあれば彼女たちに任せることも考えておこう。
体内の魔力を回復する方法は様々だが、体を動かすエネルギーから魔力をつくる「自然回復」と、魔力を体内に取り込み自分のものとする「摂取回復」の2種類に分類される。どちらも、「魔臓」という内臓の機能だ。
摂取回復においては、取り込んだ魔力を体内に残存している魔力と同調させる工程が必要だ。万物に含有されている魔力は1つとして同じものは無い。人に個性があるように、魔力にも個性がある。
魔力ポーションの主原料に薬草が用いられるのは、薬草に含まれている魔力が他の魔力に同調しやすい性質を持つからである。
効率は落ちるものの、魔物から魔力を奪うのも可能だ。今回はこの方法を採用する。
生物が死んだ後、その生物が保有していた魔力が結晶化し、魔石となって体内に生成される事がある。しかし、その確率は高いとは言えない。したがって、生きた魔物から魔力を奪う。
魔力が枯渇すると、生物の身体は体を動かすエネルギーのほとんどを魔力の自然回復の材料にまわし、結果として生物は暫く気絶する事となる。そのため、魔力を全て奪ってしまえば、どのような魔物も無力化できる。
魔力を吸収する際、その供給源に体を接触させる必要がある。1フィート程度離れていても魔力の強奪は可能だが、奪った魔力が大気に漏れ出てしまうため、非効率的だ。暴れられても、逃げられても困るので、結果的に魔物に覆いかぶさるように抱き着く格好になる。傍から見ると非常に滑稽な絵面だが、夜の森を徘徊する物好きはそうそう居ないから、目撃される事は無いだろう。場所は、オプロト大森林としよう。
俺は夕食を済ませ、部屋に行く。夜が更け、辺りが静かになるのを待ち、窓からこっそりと宿を出る。建物の屋根に飛び移ってから、町を囲う壁を〔空間歪曲〕で越え、町の外に出た。
魔力:810/3455 → 610/3455
目的地へ向かう。〔探査〕でおおまかな生物や樹の位置を探る。人間は居ない。正面100メートル先に魔物が2体、右50メートル先に3体。右から襲うか。
居たのは放浪狼たち。
〔惨劇〕で奥の2匹の腹を地面に縫い留めて、手前の一匹に上から飛び掛かる。
右手で首を掴んで地面に押し付け、右足で奴の後ろ脚を払い、もう一方の手で頭を押さえつける。
そして両手から、相手の魔力を強引に吸い上げる。10秒ほどすると、放浪狼は眠ってしまった。投げナイフを頭に打ち付けるように投げて仕留める。
魔力:612/3455 → 710/3455
<経験値を入手しました>
続けて、残りの二匹の魔力も奪う。同じ様に、投げナイフを刺してトドメを刺す。
魔力:710/3455 → 890/3455
<経験値を入手しました>
死体と投げナイフを回収して、正面にいた魔物を追う。
狩猟猪が2匹。〔惨劇〕で一匹を地面に縫い留めて他の魔物の魔力を奪う。
魔力:880/3455 → 1024/3455
<経験値を入手しました>
同じ様に魔力を奪いつくしては殺し、奪いつくしては殺し、を繰り返した。
魔力が全快する頃には、日は昇り始めていた。Lvも2ほど上がった。現在午前5時ぐらいか。……もう少し、まともな手段を模索するべきだろうか。
町を囲う壁を乗り越える方法だが、今回は足場がなく、自分の脚力のみで乗り越えなければならない。向こうの光景が分からない事から、〔空間歪曲〕を行使するのも安全ではない。
そこで、〔制限解除〕を使う。これは肉体が体を壊さないよう筋肉の出力を制限しているのを、魔力で生み出した電気で無理矢理解除するスキルらしい。
言い換えれば、体が少しずつ壊れていく代わりに、身体能力を大幅に上昇させるスキル。そのため長時間の連続使用は推奨されないが、〔再生〕がある上、今回、使うのは極めて短時間なので問題無いだろう。
使い方は本能的に理解している。俺は身体中に、電線のように魔力を巡らせた。魔臓に溜まった魔力を体内に広げ、それをひと繋がりの線状に纏めたのだ。
「……〔制限解除〕……」
スキル発動のトリガーとなる言葉を呟く。これがスキルの発動に必須である訳では無い。非常に優秀な補助輪のようなものだ。多少、技量や理解が足りなくとも、これさえあれば、使用は出来る。
体内の導線の形を成していた魔力が電気のように、全身を迸り始めた。
少し勢いをつけて跳躍する。ジ、ジジ、バチッと音を出し、体から紫色の電流が迸る。思ったよりも高く跳び、壁などいとも容易く飛び越えられそうであった。
壁の上に着地し、屋根、地面の順に飛び降りて、宿に戻る。勿論、隠密行動で、だ。
<スキルのLvが上がりました>
朝食を摂ってから、俺は武器屋に向かう。
「武器の修理を頼んだのだが、出来ているか?」
「おう。バッチリだ。ほらよ。代金は銀貨7枚だ」
綺麗に直っている。ありがたい。
俺は代金を払って短剣を受け取り、礼を言ってから武器屋を出る。勇者一行は既に町の外へ出ている。
冒険者ギルドにて、「ディーズ丘陵の魔物討伐」を受諾し、町を出てディーズ丘陵の林に向かう。
今日は、2パーティ、林の中に居るな。相変わらず手前側に居る。
林の奥へ進む。〔探査〕を使って魔物を探す。奥の方にとんでもない量の魔物が居るようだ。
……とんでもない量の魔物?
脳裏に浮かんだのは、「氾濫」の文字。魔物が大量発生する現象だ。魔物たちは他の魔物を殺し、より強い個体に進化する。その個体から逃げようとした魔物の一部が人間の住む町に押し寄せ、その魔物たちを追って強力な個体も町にやって来る。誠に迷惑極まりない二次災害だ。
氾濫を見かけたら、冒険者には義務がある。ギルドへの報告、氾濫鎮圧への協力だ。町の近くでそれが起きたのなら、尚更だ。
俺は素早く踵を返し、林の中に居た冒険者に
「氾濫が発生した!」
と遠くから呼びかけながら、冒険者ギルドへ戻った。
ペルシオが昼間に魔物から魔力を奪うのをやらなかったのは、金が欲しいので早く依頼を達成したかったからです。
4/30 ペルシオのステータスに新スキル〔魔纏〕を追加しました。 これについての説明は第十二話の後書きにてしております




