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第五十三話 救援

 最前線に到着したらしく、乱戦の様子が肉眼で確認できるようになった。今は互角といったところだろう。


「ピンチの人を助けるように動いてくれ」

「固まって動くのかしら? それとも3人全員バラバラ?」

「バラバラでいい。ただ、万が一に備えてお互いカバーしあえるよう、あまり離れすぎない方がいいだろうね」

「了解した」


 全員がバラバラの方向に移動する。俺は左へと動き、近くの魔族の背後へ移動した。この魔族に正対している剣士はいささか劣勢に立たされているように見える。



 魔族の魔臓を狙って刺突。しかし刃は防がれた。


【ウソ! 〔魔纏〕かかってたのに!?】

【そこらの鎧とはまるで違う……。素材が違うのか? それとも魔法が掛かっているのか?】


 続いて鎧の関節部分である膝裏を突く。これは阻まれず刺さったようだ。


 剣士が生まれた隙に追撃。刃は通らないが衝撃は伝わったようで、魔族がこちらに倒れかかる。


 トドメを刺そうと奴の兜を剥がそうと手を伸ばすが、一方剣士は兜の隙間に剣を突き刺そうとしたらしい。

 互いに互いを邪魔しあい、剣は中途半端に刺さり、兜はその剣の為に取れなくなっていた。


「……」


 気まずい沈黙が流れる。俺は少しだけできた兜と鎧の隙間にオロを突き刺し、横に引いた。


<経験値を入手しました>


「すまない、剣士」

「すまんな、隻腕のガキ。剣の勢いが止めらんなくてな」


 俺と剣士は互いに背を向け、反対方向へと走り出した。



 魔術師が魔族に接近されているのを視認する。横から割って入り、飛び蹴りを叩き込んで弾き飛ばす。


 魔術師が魔法陣を組んでいるのを見て、奴の鎧の関節部分にオロを差し込み、梃子のように動かして鎧を一部破壊してから離脱する。


「〔風牙(ウィンドタスク)〕!」


 振り返ると、魔族は重傷を負いながらも、立ち上がろうとする所だった。


 追撃にと大剣を取り出し、鎧の剥がれた部分に向け射出する。しかし、魔術師の方も考えは同じだったらしい。


「〔雷弾(エレキバレット)〕! ……あっ!?」


 大剣と魔法が丁度ぶつかり、互いの勢いを損なわせる。

 魔術師が次弾を放ったのを見て、俺は大剣を回収した。



 俺はすぐさま次の標的を探し移動する。


【ちょっとさっきから、連携失敗しすぎじゃない?】

【言うな。昔から他人と息が合わないのは知っているだろうに】



 デピス騎士を追いつめている、全身を金属鎧で固めた重装兵2人の背中に、それぞれ1振りずつ大剣を撃ち放つ。


 2本とも刺さるには刺さったが、深手を負わせたようには見えない。


 騎士が反撃に出る。しかし、魔族の斧槍がその剣ごと騎士を叩き潰した。もう1人の魔族が槍を突き刺しトドメを刺す。


 2人の視線がこちらに向いた。次の標的は、明らかに俺だ。


【これ、ちょっとピンチでは?】

【あの斧槍にあたったらイチコロですね】


 頬を冷や汗が伝う。


 装甲の厚い敵との正面戦闘は厄介だ。逃げるに限る!


 大剣を回収してから、後方に亀裂を展開、即座にその内部に飛び込む。

 異次元から吐き出されると同時に周囲確認。


 先の敵はこちらを見失ったようだ。



【オロ、アル。あの鎧野郎を監視していてくれ】

【わかりました……、って左! 左から別のが来てます!】


 奴と同じ様に全身を金属で覆った魔族が迫って来る。


 真直ぐに突き出された斧槍には、べっとりと血肉が付いていた。翻って躱し、接近して刺突。やはり刃は通らない。



【さっきの奴らにも気づかれました! このままだと挟み撃ちになりますよ!】


 また逃げるか? 否、このままでは埒が明かない。〔空間歪曲(ワープ)〕で逃げようとも、その度に俺を追う者が増えるのみだ。アッシュたち2人の居る場所も分からないから、向こうが気づかない限り救援も望めない。



 邪法さえ使えれば……、駄目だ。この開けた戦場で、誰にも見られずに邪法を使えるとは到底思えない。


【そうだ、なんか足りないと思ったら、〔制限解除〕使ってないじゃん!】

【あれも駄目だ。昨日あの霧人(フォギアン)に、〔制限解除〕の所為で正体が見抜かれた。同じことが起こらないとは――】

【――そんな、スキル1つだけから種族を特定なんてそう簡単にできないよ。道具でスキルを代用することだってあるんだし】


「……。……〔制限解除〕……」


 俺は魔族に急接近し、盾の内側まで入り込む。


 そして刺突。


 オロは鎧を貫通した。しかし、寸でのところで心臓には届かない。

 奴を蹴って刃を抜き取る。


 俺に追いついた2人のうち1人の魔族が横槍を入れる。反撃は盾に防がれる。


 2人からの同時の刺突攻撃を跳躍して回避。空中で身体を捻りって標的を視界に収め、オロを撃ち出す。


 狙いは兜の、目にあたる部分。その隙間から攻撃を通す。


 標的となった魔族はオロが当たる直前、頭を振ったように見えた。オロはずれた場所に着弾し、またも致命傷は防がれる。


【もうちょっと刃渡りが長ければ……】


 異次元から取り出した大剣を右手に構える。2人の魔族は着地を狙って突きを繰り出すつもりのようだった。


 着地前に〔空間歪曲(ワープ)〕のための亀裂を展開、異次元を経由し一方の魔族の背後に着地する。


「〔魔纏〕」

 そのまま心臓を刺し貫くように刺し、一気に引き抜く。


<経験値を入手しました>


 魔力:4455/4055 → 3305/4055


【ペル、まずい事になりました。何人かの魔族が明らかに私たちを狙ってますよ!】

【何!?】

【こいつらに気を取られてる間に、僕たちの味方を殺した魔族がちらほら集まってきてるみたい】



 もう、邪法を使うと正体が云々、と言っていられない。邪法の行使を渋って死ぬよりは……



 俺は魔力を球形に成し、それを2つ頭上に浮かべる。この〔雷雨霰(サンダーレイン)〕が、一体どれほど効くのか……


 〔空間歪曲(ワープ)〕で距離を取ると同時に魔力球の1つが破裂し、周辺に雷のように拡散する。


 奴らの革鎧や金属鎧には大きく傷がついているが、身に付ける当人にはあまりダメージがないように見える。


 時間差で、もう1つの魔力球が破裂する。


 鎧の一部が損壊し、何人かには重傷を負わせられたようだ。だが、依然として数的不利は変わらない。


 魔力を纏わせた大剣を振り回す。しかし右手1本では力が足らないのか、魔族の斧槍との鍔迫り合いに持ち込まれた。


 両サイドから迫る奴らに対し、もう1本の大剣とオロの射出で牽制。


 鍔迫り合いは未だに続き、次第に俺を取り囲む人数は増えていく。



 この鍔迫り合いに敗北したり、下手に中断を試みたりしようものなら、俺は真っ二つにされる。斧槍を大剣で防御する技術を持ち合わせていないからだ。安易な手は打てない。しかし、このままでもジリ貧――



 ――突如天から何かが降り、数人まとめて奴らを貫く。着弾の影響で砂埃が巻き上がった。


<経験値を入手しました>


 砂埃で視界が……、今だ!


 大剣の鍔に斧槍の柄を引っ掛け、大剣の切っ先を地面に刺して強引に鍔迫り合いを終わらせる。

 斧槍の刃の側面を踏み台にその持ち主を飛び越え、包囲から脱出する。


 空中で振り向いて知った、天より降ったものの正体は――


「鉄の杭……?」


 本当に、何の変哲もない金属製の杭だった。


 誰が降らせた? 何の兵器のものだ?



 更にもう1つ、鉄杭が降る。


<経験値を入手しました>



 圧倒的な質量の破壊力。あの魔王の”水龍”を見た時と同じほどの衝撃を受けた。


 俺は手をついて着地する。入れ替わるようにして、見知った顔が前に出る。そして、魔族を鎧ごと両断した。


「なんか派手にやっていると思ったら……、君だったのか」

 アッシュは言葉を続ける。

「さ、逃げるよ!」


「逃げる……のか? それに、あの鉄杭は一体……」


「向こうの彼女のだよ。大丈夫だ、僕らが去っても、残りは彼女がやってくれる」


 そう言って彼が視線をやった先には、騎士団のマントを羽織り、しかし騎士の鎧は着けずに、地面から少し浮いて佇む女が居た。こちらに目配せした後に、彼女が手を大きく広げ腕を軽く上げる。すると、地面に刺さっていた鉄杭が横向きに浮いた。腕を横に振ると、その鉄杭はその場で大きく一回転し、魔族を吹き飛ばす。



「ね、言っただろう? それに、君にはやって欲しいことがあるんだ」


 俺はアッシュに導かれ、走った。辿り着いた先には、カタ―フェシと、何人かの負傷兵が居た。


「この人たちを、イル側の、あの野戦病院まで連れていって欲しい」


 周囲に搭乗物は見当たらない。つまり、〔空間歪曲(ワープ)〕で送れ、という事だ。


「……あれは不安定だと、言ったはずだ」

「危険かもしれないけれど、ここで取り残されるより、ずっと助かる確率は高い。そうだろう?」


 無言で、俺は1人を担ぎ上げる。そして空間に亀裂を生成し、その奥へと進入した。

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