第五話 デピス王国入国
勇者一行はペルシオの苦労など知らず、森を進んで行きます。
―――(メリア視点)―――
「……なあ」ケイディンが立ち止まった。
「どうしたの?」
「何か今、遠くで爆発音がしたような……」
ケイディンは五感、そして第六感が敏感で、場合によってはソイフォルの〔索敵〕が見逃したものにも気づける。
「でも煙は見えないし、流石に気のせいじゃない?」
「そうか…?」
「みんな、〔索敵〕に何か引っかかったよ。前から2体、そんなに強くはない。移動が速いから、狼系だと思う」
ソイフォルの一言で、みんな意識を切り替える。
2体の魔物が木陰から姿を現した。
「ただの狼か。メリアは右のを、Lv上げのためにアギサが左のを相手して。ケイディンはアギサのカバーに入れるようにしておいて」
ソイフォルはこのパーティの指令役を務めている。彼は後衛だから、戦況をちゃんと把握できるからだ。
私は右の狼へ向かう。
狼は私に正面から飛びかかってくる。横に避けて、飛びかかる狼の軌道上に剣を置き、軽くふると、アッサリ狼は上下の真っ二つに分かれ、そのまま地面に崩れ落ちた。
<経験値を入手しました>
アギサのほうを見ると、同じく正面から飛びかかってきた狼の脳天に杖を叩き込んだようで、衝撃で倒れこんだ狼の頭に杖を振り下ろすところだった。狼が動かなくなっているから、ちゃんと仕留められたみたいだ。
「私のLvが上がりましたね」
アギサがいった。これで彼女はLv:24になった。
それから魔物を倒しながらしばらく歩いて、デピス王国の町、ディッセルに着いた。町を囲む壁についた、門の前の行列に並び、門番にギルドカードを見せる。
冒険者ギルドに所属すると手に入るギルドカードは、身分証明書になる。このために私たち勇者パーティはフィルディータ王国で、冒険者ギルドに所属するよう言われた。
「勇者御一行ですか、ようこそデピス王国へ!」
門番はそう言って、私たちを通した。陽は傾いて、もう一時間ほどで日が暮れそうだった。かなり長い間森を歩いていたみたい。
「じゃあ、先に宿を探そう」
ソイフォルはそう言って、すれ違った男に声をかける。
「すみません、おすすめの宿はありますか?」
「そうですね、勇者様方におすすめできるものは、『青い鳥が止まる処』か、『深緑亭』ですね。『青い鳥が止まる処』は庶民向けの宿ですが、食事がおいしいことで有名なんですよ。『深緑亭』は高級宿で、すべてが一級品らしいのです」
「へぇ、そうなんですか。教えてくださり、ありがとうございます」
「いえいえ、お礼していただくほどの事でもないですよ」
男は去っていった。ソイフォルは社交性が高く、こういう風に情報を集めるのが得意だ。私たちが人と話すのが苦手というわけではないけれど、弁の立つ彼に任せた方が良い、というのがみんなの意見だから、彼にはその役目を担当してもらっている。
「だってさ。僕は『青い鳥が止まる処』にいこうと思うんだが、みんなはどう思う?」
「俺は高級っぽいのあんまり好きじゃないからな、賛成だ」
「私も問題ないです。金銭の事を考えますと、倹約できる部分はそうしたいです」
「私も賛成」
「よし、『青い鳥が止まる処』に行こう。場所は、結構近いね。あそこに看板が見える」
ソイフォルが指差した先を見ると、「青い鳥が止まる処」という文字と、止まり木にいる青い鳥の絵が描かれた看板があった。
私たちは「青い鳥が止まる処」に入ってゆく。
「すみません、2人部屋を2つ借りたいのですが。食事付きでお願いします」
「よくいらっしゃいましたね。一日につき銀貨3枚。部屋の鍵は……この2つですね。なくさないよう、お気をつけください。食事ができたらお呼びします」
優しそうなおばさんが答える。
「わかりました、ありがとうございます」
「後で、僕たちの部屋に集まってくれ。明日の事について話し合おう」
ソイフォルは振り返って私たちにそう言って、私に鍵を1つ渡し、ケイディンと一緒に部屋へと向かった。
「アギサ、私たちも行こうか」
私はそう言って、アギサと一緒に部屋へと向かった。
―――(ペルシオ視点)―――
大分傷も癒えてきた。俺は適正職のLvが上がったことを思い出した。邪法使いのLvが上がる事は、邪法使いとしての技量の向上を意味する。
外套の下に背負っている布袋の口に手をかけた。この布袋は魔法袋と呼ばれる特殊な道具で、見た目よりも容量が大きく、何を入れても重さの変わらない袋だ。
口に手を突っ込んで手帳を取り出し、頁をめくる。
「あった」
その頁には、邪法の名と概要がずらりと並んでいる。様々な文献からの情報を継ぎ合わせ、俺がまとめたものだ。
〔探査〕までは習得した事になっているから、それ以下の邪法についての記述のみを読む。
〔暴食の闇〕...魔法を吸収する魔力の塊を生成する。この塊は広げる、飛ばす、ゆっくり移動させることができる。吸収した魔法は魔力に変換され、術者に送られる。
消費魔力:大
〔雷雨霰〕...魔力の奔流を雷のように辺り一帯に降らせる。着弾した魔力の雷は放射状に放電して消える。
消費魔力:中
〔異次元保管庫〕...異次元に無生物(意志ある武器も含める)を保管できるようにする。生物は入れられない。
消費魔力:中
〔武具支配〕...魔力を道具に纏わせて、自在に操る。同時に操作できる数は〔魔力操作〕のLvに左右される。
消費魔力:微
〔惨劇〕...地面から魔力でつくられた棘を生成する。棘の生成地点は術者自身が変化させられる。生成した棘は術者の意志で消滅させられる。
消費魔力:小
<新魔法〔暴食の闇〕を習得しました>
<新魔法〔雷雨霰〕を習得しました>
<新魔法〔異次元保管庫〕を習得しました>
<新魔法〔武具支配〕を習得しました>
<新魔法〔惨劇〕を習得しました>
このタイミングで習得したか。邪法使いとしての技量が足らなかったのか、或いはこれらの邪法の詳細を忘れていたからか。これ以降の邪法についても目を通したが、習得した事にはならなかった。
習得したは良いが、ここからが本題だ。実際に理解していて、行使できるかは別の問題。「習得したが、まるでやり方がわからない」という事態は、頻繁に発生する。
現に、〔変身〕と〔死霊使役〕は、習得済みとなっているが未だに行使できた試しが無い。
仮に何とか行使できたとしても、邪法の上達は困難を極める。これはロストテクノロジーだ、コツを教えてくれる師が居るはずも無い。どれ程高名な魔術師からの助言も、邪法を学ぶにあたっては意味を成さない。
自分1人で試行錯誤して、最良を見出す他に、方法は無いのだ。
勇者一行がディッセルの門の前まで着いた。彼女たちが門を通り、遠くまで行ったのを確認してから、俺も門の前まで行き、ギルドカードを見せた。門番は俺の姿を見て、ぎょっとする。
「お前、大丈夫か? 血塗れじゃないか。何があった?」
彼の口から発せられたのは俺を心配する言葉だった。今の俺は自分の血とピーキットの返り血で服とフード付きの外套が血塗れになっている。特に茶色だった外套は血でかなり紅く染まっていた。
失念していた。この男は自分の姿を見て驚いたらしい。
「そこの大森林の奥の方まで行ったんだが、そこで油断してしまってな。狂狼にザックリやられた。ソイツは討伐し、傷はポーションで治してあるから大丈夫だ」
この嘘が、この場においては最も無難だろう。
「ったく、若いんだから自分の命は大事にしろよ? 次は死ぬかもしれないんだからな?」
「あぁ、注意しよう、二度とあんな目には遭いたくない」
本当にな。だが、勇者一行についていく以上、これから何度も同じ目に遭うだろう。
「職業は冒険者のランクCか、ほら、さっさと宿で休みな」
「わかった。感謝する」
俺はそう言って、門を通り抜け、宿を探す。できれば、冒険者ギルドに近い所がいい。
しばらく歩きまわり、俺が宿泊すると決めた宿の名前は「旅人の宿」。宿泊代が安く、冒険者ギルドから近いのが決め手となったが、食事の質も高いという。ここよりも食事の質が高いと評判の「青い鳥が止まる処」には、現在勇者一行が泊まっているようだ。
明日は冒険者ギルドに向かい、魔物討伐の依頼を受ける予定だ。鎖帷子程度の、軽量な腹部を守る為の防具や投擲用ナイフをいくつか買うための資金を用意したい。金欠、というほどではないが、路銀を考慮すると装備の新調には足りない。
冒険者ギルドで勇者一行に会う確率がかなり高いだろう、注意すべきだ。万が一にも、俺がペンダントの送り主であるとばれるわけにはいかない。
さもなくば、あれはその場で破棄され、メリアの居場所を追えなくなってしまう。
次回、冒険者らしいことをします。
戦闘も増えていきますよ。
固有名詞についてですが、世界中全員、ネーミングセンスがあるわけではない、という考えのもと、じっくり考えたり、適当に決めたりしてます。国名、人物名だけは必ず真面目に考えています。




