第四十七話 古代への入口
日の位置がずれ、渓谷の底が影に呑まれていく。
聖女が手早く松明を取り出した。
「〔点火〕」
彼女を中心に、光が生まれる。
「大抵の獣は火を恐れますから、これで多少の魔物除けになるでしょう」
火と聖剣の助言を頼りに勇者一行が進む一方、俺は岩陰から様子を窺っていた。
「これくらい暗ければ、見えないだろうか……」
辺りは完全に暗くなり、勇者一行の松明の炎だけがぽっかり浮かんでいる。俺は大剣の刃を鈍らせている血を袖で拭き取ると、後を追い始めた。
【礼を言うぞ、ペルシオ。まさかお主があの大群を蹴散らしてくれるとは……。闘技場の血の樹の実もいくつか回収してくれたようだな】
【あれこれ試したい戦法があった上、暴れるだけ暴れて、後は勇者一行に押し付けるつもりだった。あまり誉められた事では無い】
浮遊させた大剣を使っての戦闘、投げナイフを射出後にカーブさせる事による全方位攻撃、魔力の強奪の効率化……、今思いつく戦闘技術は粗方試したところだ。
そうだ、あの『新スキル』の正体を調べよう。首を折りながら魔力を奪うのに成功した直後に習得したあのスキルだ。
まず、〔ステータス〕。
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名前:ペルシオ
種族:怪人♂(通常、人間♂と誤認されます) Lv:39 → 48
職業:冒険者 ランク:C
適正職:密偵Lv:4 → 6(斥候Lv:12) 邪法使いLv:5
体力:486/486 → 560/576 魔力:803/3455 → 273/4055
攻撃力:295 → 425
魔法攻撃力:809 → 948
防御力:183 → 245
魔法防御力:256 → 344
素早さ:370 → 526
器用さ:370 → 526
スキル:〔慧眼〕Lv:5 → 6(〔鑑定〕Lv:45) 〔短剣術〕Lv:6 → 8 〔体術〕Lv:1 → 2〔魔纏〕Lv:1(MAX) 〔隠密〕Lv:3 → 6(〔忍び歩き〕Lv:13 → 16) 〔隠蔽〕Lv:7 → 10 〔魔力操作〕Lv:5 → 8 〔魔力食〕Lv:1(MAX) 〔不休体質〕Lv:1(MAX) 〔再生〕Lv:4 → 6 〔制限解除〕Lv:1 → 2 〔罠察知〕Lv:8 → 10 〔識魂〕Lv:1 → 2 〔魂狩り〕Lv:1 → 2 〔吸魔体術〕Lv:1(NEW)
魔法:〔虚構〕 〔変身〕 〔幻斬〕 〔急襲の炎〕 〔空間歪曲〕 〔死霊使役〕 〔精神攻撃〕 〔探査〕 〔暴食の闇〕 〔雷雨霰〕 〔異次元保管庫〕 〔武具支配〕 〔惨劇〕 〔付喪術〕 〔眷属化〕 〔水螺旋〕
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いくらか成長してはいるものの、魔王と比べると明らかにステータス不足だ。これを経由して、〔慧眼〕。
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〔吸魔体術〕...徒手攻撃時に、相手からの魔力を奪い取る技術を表すスキル。魔力を必要とする魔法使いにとっては危険な接近戦を要し、徒手格闘に長けた格闘家には魔力はほぼ不要なので、このスキルは滅多に習得されない。
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「滅多に使われない」、か。
一体、何故俺はこのようなスキルを手に入れるに至ったのだろうか? 元はと言えば、魔力の自然回復を待つ時間が惜しく、かといって魔力ポーションを大量に飲用するのはコストが高いから、と魔物から魔力を奪ったのが始まりだ。
動きを封じる為に組み付いていたのが、何時しか、隙を晒すからと身体の一部を掴むのみになった。そしてそれが、魔力の吸収と徒手格闘の複合技術として認識された。
スキルと認められるまでには時間がかかったが、俺を支えた技術には違いない。スキルとして認識された事だし、更に極めるのも一考かもしれない。
俺は、服の上から左の肩を撫でた。生物として不自然な程に一切の凹凸が無く、かつ平坦な面。あの魔王に斬られた断面は、そのまま残っている。幻肢痛がまるで来ないのが唯一の救いとでも言おうか。
ここさえ、どうにかなれば……。左腕は持ってはいるが、縫合したところで組織が再生しなければ意味がない。肉体の再生の、その予兆すら見えないうちはどうにもならない。
ふと、勇者一行の動きが止まった。岩肌を照らすように松明の火が掲げられ、そこには紋章にも見える罅が入っていた。割れた1対の角と、鐘の模様だ。多少形は違えど、ルイード教の紋章を想起させた。
―――(メリア視点)―――
壁に入ったヒビは、何となく、模様に見えないこともない。
【雨風にさらされかなり形が変わっているが、間違いなく、このヒビが目印だ。この鞘と同じ紋章だ】
見てみると、鞘に描かれているのと、壁のヒビは大体一致する。
【メリアよ、壁に手を当て、こう唱えるのだ。”性無き魔よ、この勇者の魔力を以って、応じ給え”】
「”性無き魔よ、この勇者の魔力を以って、応じ給え”」
すると私の手から魔力が少し抜けていき、壁のヒビ……紋章が微かに光りだす。
【よし、よし。これで反応するなら間違いない】
壁の一部が下へと沈み込み、その奥の空間が見えるようになる。その空間はほんのり明るく、漏れだす光が私たちを誘う。
「この中に、宝玉が……」
私たちは、部屋へと足を踏み入れた。
部屋は岩の中をくり抜いてつくったような感じだった。壁につけられたランタンが部屋を明るく照らしている。1000年も前につくられたはずなのに、このランタンの火は消えていない。
それ以外に奥に扉が1つある他には、この部屋には何も無い。
「あの奥の扉の先にあるのでしょうか」
【そうだな……】
【ひとつ、忠告しよう】
「忠告?」
【扉を開けたら、すぐにその陰に隠れよ。死にたくないならな】
「急に不穏な事言わないでくださいよ……、この先に、何があるのですか?」
【この口からは、何も言わぬ】
その言葉には、この扉の先にあるものについては何が何でも話さない、という強い意志があった。
「……仕方ない」
ソイフォルが扉の方へと歩き始める。
「みんな、行こう」
私は銀の剣をしまい代わりに聖剣を手に取る。何があるか分からない以上、今持てる全力で立ち向かう。アギサの〔祈り〕の効果があらわれたのを確認してから、隣のソイフォルにアイコンタクトを送って、2人で扉に手をかけた。




