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第四十四話 時の流れは風のよう

―――(メリア視点)―――


 街の外には、背丈の低い草が広がっていた。でもじきにそれもまばらになって、荒れた、砂っぽい大地が顔をのぞかせる。


 風が1つ吹くと、それに合わせて地面のチリと砂とが舞い上がる。所々に岩があるけれど、本当にそれだけのやせた土地だ。


「行軍は楽そうだね。野営地を構えるのも簡単。まるで隠れる場所が無いから、奇襲なしの正面戦闘しか起きなさそうだ」


「魔物も全然見かけないし――」

 向こうで、何かが跳ねた。

「――ごめん、今の言葉は忘れて」


 何かが跳ねた場所には土煙が立っていて、地面には小さな穴が空いていた。


「地面に潜るタイプか。えーっと、名前は……」

掘進物(ディガー)系、だろ」

「そう、それ。じゃあ、ケイディンが注意を引いて、僕が足止めする作戦で」


 ケイディンはうなずいて前に出て、私たちは反対に後ろに下がった。ソイフォルは杖を構えて魔法陣をつくり始めている。


「〔攻撃集中〕!」

 わざわざ声に出してケイディンがスキルを発動する。私たちへの合図のためだ。もう〔要塞〕も使って防御力を上げているに違いない。


 地面を掘り進む小さな音が周りから聞こえた。でも、何か音が重なっているような……


「1匹じゃねえな。10匹だ」

 ケイディンがぴしゃりと言った。それと同時に、土をはね上げて10つの影が彼めがけて跳びかかる。


「見え見えだぜ。オラァ!」

 彼が斧を振り回して1回転し、アッパーカットでもするように盾を上に振り上げると、8匹の魔物は上空に勢いよく打ち上げられた。残りの2匹は彼に斬られて地面に落ちている。


「〔火弾(ファイアバレット)〕、〔火弾(ファイアバレット)〕、〔火弾(ファイアバレット)〕、〔火弾(ファイアバレット)〕……」


 ソイフォルは事前に準備した魔法陣を使った後、矢継ぎ早に魔術を乱射した。空中の小さい的を次々と火球が飲み込んでいくけれど、いくつかはその火球から逃げ切った。


「〔聖剣〕」

 撃ちもらしは、私が狩る。


<経験値を入手しました>


 戦いが終わると、ケイディンは倒した魔物をつまみ上げた。

「コイツ、何だろうな。小さい身体、小さい目、細長い紐みたいな尻尾、スコップみたいなかぎ爪……掘進物(ディガー)系なのは間違いないだろうけど……」


「〔鑑定〕……。えっ、これが掘進群衆(ラブルディガー)? いくら何でもやせすぎだ」

「この辺りに全く魔物がいないから、食べ物が無かったのかな」


 戦争が始まってから、多くの魔物がここから姿を消したという。この魔物たちは、逃げずにここに残っていたんだろう。こんなに、何もないところで。……自分たちも逃げれば良かったのに。


 ケイディンが魔物の死体を次々と〔亜空間倉庫(インベントリ)〕にしまっていく。

「さ、進もう。ここでゆっくりする時間はないから」

 ソイフォルの言葉にうなずいて、私たちはまた足を動かし始めた。



 しばらくして、足が止まる。道が切れたからだ。私たちの前に地面はない。地上と同じように荒れ果てた崖があり、日陰になっていてどうなっているのか分からない底の方から、ぬるい風が私の前髪を触っていく。

「これが、イーラ渓谷……」

【多少風化した程度で、かつての面影が残っているではないか。……懐かしいものだ】

 そう言うサル―ティスさんの声は明るげだ。

【ここより崖にそって進めば、洞窟が見えてくるであろう。そこからなら、人間(ヒューマン)でも降りられるだろう。……崩落していなければの話だが】

 私たちは、足を左に向け、歩き出した。



「ここからなら、降りられそうですか」

 ソイフォルが指差した先には洞窟の入口があり、段々になった岩がその暗闇から顔をのぞかせていた。伸びてゆく影に呑まれているけど、確かにそこに、下へと続く自然の階段があった。


【そうだ、間違いない。崩落の危険にだけは気をつけよ】


 洞窟の中は確かに暗い。

「これをこうして……〔光弾(ライトバレット)〕」

 ソイフォルが魔法を使うと、私たちの周りをふよふよと光球がただよい始めた。


「これで、明るくなったかな。アギサが持っている松明じゃ遠くまで照らせないし」


 アギサはさも何でも無かったかのように松明をしまい、右手でつくりあげていた魔法陣を握りつぶして消した。気まずそうに目を背けている。


「さ、進みましょう。時間がありませんし。もう少ししたら日も暮れるでしょうし、ここで野営する事も考えて動きましょう」


 さっきまでの雰囲気を隠すように彼女は言って、私たちに進むよう促した。


 あらためて奥の方を見ると、火の消えた松明が壁にかけられているのに気づく。

「松明がどうしてここに……」

【大昔に、ここは採掘場として使われていた。その名残として、今でもこのように人が居た痕跡が残っている。渓谷の底を探索しているうちに、捨てられたツルハシが見つかるやも知れぬな】


 洞窟にも、本当に何も無かった。魔物もいなければ、植物もいない。上下左右ぐるっと見回しても、岩、岩、岩。コケすら生えていないから、視界に全く変化がない。


「この辺りは、『不毛の地』という言葉が似合いますね」


 ぐねぐねと、ただ道にそって洞窟を進んでいると段々、方向感覚がなくなっていく。そうしてやっと洞窟から出た頃には、すっかり日も暮れていた。時間の感覚もなくなっていたみたいだ。


 引き返して、野営の準備を始める。担当はいつも通りだ。


「以前、ここでは何が採れていたのですか?」

【魔晶だ。テラの魔晶と、イグニスの魔晶が特産品だった。魔晶をたんまり乗せた馬車が1日に10つもここから走り出し、取引先で食糧や銭、武器や道具を積んでここに戻って来る。ただの採掘場とは思えないほどには栄えていたとも】


 魔石よりもより大量で高密度の魔力が固まってできたのが魔晶だ。黄金と同じかそれ以上に希少で、すごく強力な魔法が込められたアクセサリーや、戦争の兵器にしか最近は使われていないんだっけ。


「昔は、どういう風に魔晶を使っていたんですか?」

【大体は、お主らが想像する通りの我のような武具や道具、装備の素材として使われる事が多かった。他の使い道としては、魔法使いが予備の魔力としてよく携帯していたぐらいか?】

「魔力の回復に使うのですか!? それは、なんというか、贅沢ですね」


【2000年前には、魔力ポーションなどというものは無く、代わりに魔石や魔晶から魔力を取り込み回復するのがメジャーであった。贅沢というよか、それ以外に手が無かったというべきだ。当然かさばる上、魔力を操作できるだけの技量と余裕がなければ、魔力を取り込めぬ】

「へぇ……」

【魔力ポーションはそれらの点を完全に克服している。小型の瓶に入れられ、魔法を放ちながらでも、敵から逃げながらでも飲んで魔力を回復できる。お主らは、良い時代に生まれたな】


 「良い時代」か……


「本当に今を『良い時代』にするには、魔族を退けなければ。その為に、勇者様と、私達がいるのです」


 それはそうだけど、でもその先は? もし私たちが魔王を倒したとしても、1000年後ぐらいにまた攻めてくるかもしれない。かつての勇者と魔王がそうであったように。そうしたら、また同じことの繰り返しだ。


 それじゃ、何も良くならない。魔族が私たちを攻める理由を永久に無くさないと、何も変わらない。


 私が、勇者が、やるんだ。魔族と私たちが手を取り合って暮らせるように、私が変える。

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