第四十話 移り行く舞台
俺の目の前には、その大きさとデザインから街中でかなり目立つ建物があった。武器を背に担いだ者や、杖を片手に持ち三角帽子を被った者等、冒険者が大量に出入りしている。ここが、王都の冒険者ギルドだ。
中に入り、2人を探す。ここから見える範囲には居なかった。ならば、未だ用件は完了していないのだろう。
建物の壁際により、ぼんやりと2人を待つ。
「冒険者ランク昇級試験の申し込みはこちらからお願いします!」
奥で受付が声を張り上げている。その声を聴いて、ぞろぞろと冒険者が声の方へと歩いて行く。
あの試験は、春夏秋冬それぞれの時期に1回ずつ行われる。手っ取り早く冒険者ランクを上げて、受けられる依頼を増やしたい冒険者にとっては、非常に重要なイベントだ。
但し、試験を受けなければ昇級できないという訳では無く、冒険者としての活動の実績が認められるとギルド側から昇級の打診が来る。俺は後者の手段で冒険者ランクをEからCまで上げた。俺に、あまり冒険者としての地位は不要だったからだ。
視線を正面に戻した。猫人の格闘家、牛人の戦士等の獣人、そして森人の冒険者がやたらと目につく。大陸北部では全くと言っていいほど見ないからだろうか。
視線を移し、今度は依頼掲示板に掲載された依頼を眺める。購入した武具の鍛練に、と受諾する依頼を吟味するためだ。掲示の上を視線が滑っていき、やがてある所で留まった。その依頼は、「イルまでの行商馬車護衛依頼」だった。驚いた事に、出発は明日の午前だ。これを使わない手は無い。
視界の端に、2人が写った。どうやら、無事にあの短剣を納められたようだ。
俺は2人の方に歩み寄っていった。
「あれ、もう買い物は終わったの?」
すぐに俺に気付いた女は、そう声を掛けた。
「ああ。そちらも、仕事が上手く終わったところだろう?」
偶然空いていた近場のテーブル、冒険者同士の交流用に用意されているもの、についた。
「今後はどうするか、君は何かアイデアがあるかい?」
「勇者一行の後を追い、魔族狩りに勤むつもりだ」
「魔族狩りねぇ……」
反応を見るに、気が乗らない、という訳では無さそうだ。
「どうして、勇者の後を追うの?」
「勇者一行は、我々にとって対魔族の切札だ。彼女たちが四天王の砦に到着すれば、戦況は現在の拮抗状態から大きく変わるだろう。無論、こちらが攻勢だ。となれば、国家は冒険者にも戦争への加担、つまり魔族の討伐を奨励するはずだろう? つまるところ、ビジネスチャンスだ。好機が訪れる」
「けっこう危険そうだけどね……」
「こちらには魔族との戦闘データがある。対策さえできれば、身体的に恵まれた人間を相手するのと大して変わらない。それに、冒険者という職業自体、命知らずの代名詞のようなものだ。今更、恐れる事は無い」
「因みに、勇者たちはいつここを出そう?」
「彼女たちはかなり生き急いでいる。既に聖剣の回収は完了したようだから、今日か明日にでも出発するだろう。目的地は……おそらく、ここから最も近い四天王砦がある、イルだと予想している」
「イルか……遠いね。歩いて2週間ぐらいか。馬があるなら1週間以内に着くけれど、借りるにしても、あれは管理が大変だし……」
「その移動についてだが」
俺は立ち上がり、2人を依頼掲示板まで連れて行き、そしてこう言った。
「あそこにあるだろう? 丁度良い足が」
―――(メリア視点)―――
王様との面会の後、夜が明けて。私たちは今まさに王都を出ようとしているところだった。
目の前には紋章が描かれた金色の馬車と、2体の健康そうな筋肉のついた馬がいた。御者はもう馬車に乗って、色々準備を進めている。
これが、王様に手配してもらった、イル行の貸し切り馬車だ。本当は馬車の護衛依頼を探して、それでイルまで行くつもりだったんだけど……
私は、何とはなしに、聖剣の鞘をなでた。サル―ティスさんによれば、この鞘もただの鞘じゃなく、勇者の魔力を吸い上げてため込み、辺りにまく事ができるんだとか。ただ、使い方が難しいし、ちょっと危ないから自分が良いと判断するまで使わないように、とも言われた。
「さぁ、準備が出来ました。どうぞ、お乗り下さい」
馬車の中は、ちょっと豪華に見えるイス4つが、2つずつ向かい合わせに並んでいた。とりあえず座ってみると、弾力のある生地が、私の身体をやさしく受け止めた。
「馬車の椅子が……硬くない!?」
馬車のイスは、だいたいがものすごく硬い。その硬さのせいで、馬車の揺れがじかに身体に伝わって、お尻や腰が痛くなる。
「馬車に乗る冒険者は、魔物ではなく尻の痛みとの死闘を繰り広げながら、目的地へと向かう」
だなんていう定型文が冒険者の間に定着しているほどに、馬車の揺れと硬いイスの連携攻撃は強すぎる。
でも、このイスの座る部分は柔らかい。馬車から伝わってくる衝撃をやわらげるクッションになっているんだ。
「椅子、柔らかいでしょう?」
「ええ、本当に、柔らかいですね」
「この馬車には、揺れや衝撃を軽減するための仕掛けを色々と施しています。快適な旅となる事をお約束します。ただし、護衛はお願いしますね」
「さぁ、出発します、よっ!」
御者はそう言って、手綱を引いた。それに合わせて、2頭の馬が走り始める。私たちの、次の戦場へと。
第一章、完ッ!
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。引き続き、ペルシオたちの物語をお楽しみください。




