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第三十九話 疑似パーティ

 折角当事者が集まったのだから、この事を聞いておこうか。

「先日捕縛したあの魔族らと、その顛末はどうなった? 俺の関与を仄めかしてはいないか?」

「あの後、4人の魔族を縛り上げて冒険者ギルドまで運んだよ。もちろん、君の事について何も言っていない。ただ……」


「ただ?」


「押収した物品のうち、パペットコマンダーが現場に4つあったんだけれど、パペットスティレットがどこにも見つからなくて……」

 パペットスティレットが無い? ノストルギア伯爵邸から出て来た暗殺者から回収して、伯爵への尋問に使い、そして回収したところまでは確かだ。その後、……


 …………


【ペルシオ……あれ、渡し損ねていませんでしたか?】


 俺は空間を裂き、異次元を展開した。逃走しようとしていると思ったのか、俺を引き留めようとする2人をよそに、その中を探る。


 〔武具支配(ドミネートアームズ)〕による魔力の糸がその闇から引きずり出したのは、紛れも無くその短剣だった。4本とも全部ある。


「何だ、君が持っていたのか……。でも、どこでそれを?」

「議会の平民代表を狙っていた者から取り上げたものだ。対応先が件のパペットコマンダーなのは間違い無い」


 ノストルギア伯爵が関与している事まで言及すると、曖昧な発言で誤魔化すよりもかえって怪しまれるだろう。


「すまなかった。あまりにも急いでいて、渡し損ねていた」

「いや、いいんだよ。こんな危険物を漏らさず回収してくれただけで」

 寛容な奴だ。小言の1つすら言わないとは。


 暗殺者が使っていた鞘ごとパペットスティレットを4振り男に渡した。


「武器を浮かせられるのか……それも魔法なのかな」

 そう言いながら、男はそれを背中の黒い布袋にしまった。あれも、マジックバッグなのだろう。


「これで、正真正銘、この依頼は片付いたわけだ」

 男が安堵の笑みを浮かべる。

「じゃあ、僕らは今からパペットスティレットをギルドに渡してくるけど、君はどうするつもり?」


 あの王城に居る勇者一行の位置を観測して、異常が発生していないか見張っている……とは、口が裂けても言えない。


「商店を見て回ろうと考えている。装備品を購入したくてな」

「両腕ないのに大丈夫なの? 私がついて行こうかしら?」

「別段、補助は要らない。魔法で代用できる」

「パペットスティレットを浮かせたあれかい?」

「その通り」


「わかった。えーっと、じゃあ、ギルドに行く前に、僕たちの拠点の場所を教えておくよ。連絡を取りたいときに必要だろうから。ついてきて」


 できれば、万が一の事態を考えてここから離れたくはないが、ここで同伴を拒むのも不自然だろう。


 ペンダントの魔力から意識を逸らさないようにしながら、俺は2人について行く事にした。



 連れられて、やって来たのは一軒家の前だった。ノストルギア伯爵邸には見劣りするものの、冒険者個人が持てる家宅としては、中々の良物件だろう。どうやらこの冒険者2人は、相当に裕福らしい。


「ここが、私たちの家よ。ここを拠点として活動してるの」

「購入してから相当に長い時間が経っている訳でもないが、買ったばかりでも無さそうだ。どれくらい前からここを拠点に?」

「大体、7年くらい前からかしらね」

 2人は、30代前半に見える。そうなると、25、6歳ぐらいの頃にこれを購入したのだろうか。



「それじゃ、僕たちはギルドに行って来るから。用が済んだら、ギルドに来て。今後の活動について話し合いたいから」

 そう言い残して、2人は冒険者ギルドへと向かってしまった。



 ペンダントの魔力が、動き出した。俺は急いで王城へと向かい、付近の屋根に登った。ちょうど、勇者一行が城門を出るところが見えた。


 特に、何かを奪われた様子は無い。むしろ、彼女が持っている剣の鞘が、金色のそれに変わっていた。複雑な紋様やシンボルが描かれているようだが、ここからはよく見えない。あの聖剣専用の鞘だろうか。あれを渡すために、国王が勇者一行を呼んだとしたら、納得がいく。



 俺は屋根から路地裏へと飛び降りた。さて、2人が仕事をしている間に、俺も用件を済ませよう。


 さっき口にした、装備品を購入したいという主旨の発言は、咄嗟に出たとはいえ嘘では無い。破損した投擲武器の補充及びアップグレード、〔武具支配(ドミネートアームズ)〕で操作するためのその他刃物類、魔族との戦闘中に腕ごと失った肘当て、ポーション類の購入。これからの戦いに備え装備を整えておきたい。



 王都の商店街、そこに武具屋はあった。


 やはり王都というだけあって、ディッセルの武具屋とは規模が違う。品数は倍以上、品目数は3倍以上ある。入口には看板娘と思しき若者が居て、若者特有の活気を振りまきながら客を集めている。店の奥からは金属を槌で叩く音と、薪或いは炭をバリバリと喰らい燃え盛る炉の音がしていて、若干ながら熱気も流れて来る。手前が武具屋、奥が鍛冶屋となっているのだろう。


 投擲武器はやはりここでもまとめて置いてあった。弓矢、短剣が置いてあるスペースの付近にあり、狩人の適性を所持する者はここだけで武器を揃えられるようになっている。


 種類ごとにまとめてある投擲武器を吟味していく。やはり、苦無や手裏剣は無い。この世界に存在する事までは確定しているのだが、何処にも見当たらない。未だ西洋には伝わっていないのだろうか。


 投げナイフしか、適したものが無い。投擲槍も候補に挙がったが、これは柄の長さから取り回しが悪い。


 少し、高価なものを買うとしよう。現在所持しているものでも一般的な魔物を狩るのには使えるが、魔族に代表される強力な魔物を攻撃するには力不足だ。簡単に弾かれてしまい、まともにダメージを与えられない。


 さて、宙に浮かせて振り回す為の武器は……。俺はぐるりと店内を見回した。


 数多の刃物が煌めくこの場所で、1つのものが俺の目を引いた。


 目線の先には、鈍く重く日光を反射する大剣があった。〔武具支配(ドミネートアームズ)〕で振り回す武器として申し分ない。更に、弾丸のように射出した際の威力も期待できる。大剣ほどの重量と切れ味とがあれば、着弾時の衝撃は大きくなり、もしかしたら魔族の皮膚をも突き破れるかもしれない。


 問題は、持てるかどうか。試しに〔武具支配(ドミネートアームズ)〕を使ってみると……、持ち上がらない。

 様々なものを試して、自分が浮遊させ、振り回せるような品を2振り、購入することとした。軽くするほど威力は落ちるが、そもそも取り扱えなくては元も子も無い。


 火力の底上げとして、空中で振り回すにしても射出するにしても、〔魔纏〕を更にかける事ができれば更に良いのだが……これは、後々研究、訓練するしかない。


 次は防具。行動を阻害しない事を前提に、都合の良い肘当てを探す。


 以前身に付けていたのは革製だった、が、金属製の肘当てを購入しても良いかもしれない。今なら、軽量の金属、それも肘に限定した防具であれば、動きを阻害する事は無いだろう。


 適当な鉄製大剣2本と良質な鉄製投げナイフを6本、そして鉄製の肘当て1セットを空中に浮かべ、店主を探す。


 店の奥に、体躯の小さく、しかし筋肉の詰まった男が居た。岩小人(ドワーフ)だ。一部の地域を除き全世界に分布している種族で、金属や石等の地下資源の加工に長けている。伝説や神話に登場する武具の3割は岩小人(ドワーフ)が創ったと記述させている事からも、その技量の高さが分かるだろう。


 彼は鍛冶場からそのまま出て来たような恰好だから、この店では鍛冶師が交代制で接客を担当しているのかも知れない。


「これらの品の購入を頼みたいのだが……」

「へぇ~っ、お前さん、〔念力〕が使えんのか!」

 〔念力〕とは、そこそこ有名な先天性のスキルだ。後天的に獲得した、という話はほとんど聞かない。書物の中にも事例が記載されていたかどうか……。その効果は、モノに触れずにそれを動かす、というもので、その汎用性は非常に高い。極めれば、1人で軍隊を相手できるようになるとまで言われている。現に、その鬼神の如き領域に達した有名な冒険者がいるから、これは誇張表現ではないだろう。その能力の一部を模倣してつくられたのが、〔武具支配(ドミネートアームズ)〕なのだろうか。


「買いたいもんは、大剣2本に、投げナイフ6本に、肘当て1セットね。金貨6枚と、銀貨50枚と、金貨2枚だから……、合計、お代は金貨8枚と銀貨50枚だ」


 俺はマジックバッグから代金を取り出した。


「カネ出すのまで〔念力〕使うんか。徹底してんねぇ~。いいかい、坊主。〔念力〕の練習すんのもいいが、たまにはちゃあんと手使えよ。でねぇと、いざって時に手が使えなくなんぞ?」

 男は俺が渡した貨幣を数えながら、そう言った。


 本当は、手が使用不可であるから〔武具支配(ドミネートアームズ)〕を行使しているのだが、それを言うべきではないだろう。裏の無い善意は大人しく受け取るに限る。


「忠告、痛み入る」

「かぁ~っ、全く、かたいねぇ。教典だとか古い演劇の登場人物じゃあないんだから、そんな言葉づかいしなくてもいいだろうに。……これで、ちょうど金貨8枚と銀貨50枚。ほい、毎度あり! がんばれよ! たまには肩の力を抜きな!」



 武具屋を出て、薬屋に入った。購入する品は、上級魔力ポーションと中級体力ポーションを3つずつだ。代金は金貨4枚と銀貨50枚。ディッセルに比べると、幾らか物価が高くなっている。


 冒険者ギルドへと向かう。少々時間がかかってしまった。流石に、まだあちらの用事は完了してはいないと思うが、それはあくまで予想だ、急ぐに越した事はない。

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