第三十八話 旅は道連れ
<ユーザーネームが進化しました>
カタカナから漢字になり、更には下の名までつきました。苗字の読み方は変化していないです。
――(ペルシオ視点)――
勇者一行が、何故か王城に向かっていった。表情を盗み見る限り、悪い理由では無さそうだが……本当に大丈夫か? 国家規模で勇者一行を騙そうしているのなら、目も当てられない。
門番が門を開け、彼女たちは奥へ進んで行く。予め屋根に登っておいて良かった、そうでなかったら門に入られた時点で見えなくなるところだった。
メイドが待っていて、何かを話している。武器を取り上げる事なく、奥へとメイドについて歩いていった。
武器を取り上げずに……? あぁ、そうか。武器を取り上げても、魔法という攻撃手段が存在する以上、そもそも武装解除自体が無駄なのか。前世の感覚で考えていたから、引っかかってしまったのだろう。
さて、これで勇者一行の姿が見えなくなった訳だが、どうしたものだろうか。俺は国家というものを信用していない。王城内部、特に勇者一行の周辺の情報を探りたいが、〔虚構〕と〔探査〕を併用して、王城内の実力者に魔法を使った事がばれない保証は無い。ルイード教のみならず、デピス王国とも積極的に敵対するつもりはないため、魔法で調査するのは得策では無い。
幸い、ペンダントからメリアの居場所は分かるので、これを頼りに状況を判断するしかない。異常なほど長時間同じ場所に留まっていたり、或いは逆に城内をあちらこちらへ移動しているようだったら、問題が発生したと考え、王城に侵入するべきだ。メリアの命は、俺と1国との関係よりずっと重い。彼女の命に危険が及ぶようなら、王国との敵対も辞さない。
3分経過。安心はできない。何時でも飛び出せるよう、王城近くの路地裏に潜伏する。
【また、目を光らせてる……、気にしすぎじゃないの?】
【いくら心配しても、しすぎる事は無いだろう? 常に厳戒態勢で、一体何が悪い】
ペンダントの魔力の位置の動きとここから見える王城の様子とを照らし合わせ、間取りを考察している時だった。
背後から衣擦れの音。
【【!?】】
咄嗟に振り向くと、そこに居たのは、数日前に共に魔族を捕縛したあの2人だった。
「一体何してるんだい、こんな所で」
見つかった。
俺が逃げようとしたのを察知したのか、俺が空間を裂くよりはやく、男は俺の左腕を掴もうとした。
「待って、逃げないでくれ!」
勿論、今の俺に左腕は無い。逃がさないよう、ガッチリと腕を掴むつもりだったその手は、スクロアルマの左袖を握りつぶした。
「話があるんだ、僕たちと、仲間になってはくれないか?」
「一体、どういう風の吹き回しだ」
と問うと、男は快活に口角を上げ、
「そりゃ、君に興味を持ったからさ!」
と答えた。
「詠唱も魔法陣も使わない魔法を使う人なんて、魔族以外に初めて見たんだ。それに、君からは何か運命めいたものを感じたからね」
魔族だと思わせて、敵対させる作戦は失敗したようだ。逆に興味を持たれるとは。それに、「運命」か。大仰な言葉を使うものだ。
「なるほど。それで、パーティを組む事で俺にメリットがあるのか?」
「人数が多い方が、何もかもがやりやすいよ。犯罪者を捕まえるだとか、強い魔物を倒すだとか……情報を集めるのだって、そうだ」
一理ある。だが、そのメリットがパーティを組む事によるデメリットに勝るかどうか。
断ってしまおうか? そもそも、俺が2人と共に行動するメリットが……
いや、ある。
魔族狩りに巻き込んで勇者一行の負担を減らすことができるかもしれない。それに加えて、両腕が無いがために出来ない事を補助してもらえる可能性もある。〔武具支配〕があるとは言え、不便なものは不便だ。
俺は思考の舵を反対方向にきった。
パーティを組むリスクをどうすれば潰せるか? 懸念事項は、裏切りと……
「アンタらは、ルイード教徒か? 或いは、親しいルイード教の関係者は居るか?」
「僕らは違うね、無宗教だ。1人ぐらいは知り合いにルイード教徒が居るかもしれないけど……でも、どうしてそんな事を聞くんだ?」
「俺はルイード教徒が嫌いだ。俺はルイード教の奴と協力するのは御免だし、向こうも俺と関わるなど、願い下げだろう」
「ルイード教徒と仲が悪い……」
「パーティを組み共に行動するにあたって、こちらが提示する条件を呑んでくれれば、俺は喜んでアンタらの仲間になる」
「条件……何だい?」
心底不思議そうに男が尋ねる。
「俺が魔法を使える事を口外しない事。長期に渡る俺の単独行動を認める事」
「……魔法が使える事を隠すのかい?」
「そうだとも。俺の魔法は切札という側面が強い。だから、あまり周知されたくない」
俺が邪法を復活させた事がばれると、間違い無くルイード教から聖騎士団やら何やらが俺の捕縛あるいは討伐のために送られてくるだろう。
この話は俺にとっては棚から牡丹餅が降って来るようなものだからできれば逃したくは無いが、だからといって己の身を不必要に危険に晒すのは愚かだ。
「なるほど、そういう事か。じゃあ、2個目の条件はどういう事?」
「冒険者以外の仕事で頻繁に単独行動する事がある。日付が変わらぬ内に戻って来る事もあるが、数日かかる事もある」
「あの時の『火急の用事』みたいに?」
勘の良い奴だ。
男は大きく1つ頷いた。
「条件を呑もう。えーっと、名前は……」
「好きに呼んでくれ」
万が一にも、自分の名と特殊な魔法とを結び付けられたくない。今はルイード教徒と命を懸けた鬼ごっこをしている場合ではないのだ。
「本名を知られたくないってとこかな? それ以上は詮索しないでおくね」
本当に、トントン拍子に話が進む。あまりにも円滑すぎる、何か裏があるのではないか? 本名を明かさなくて正解だった。
「じゃあ、よろしく」
男は右手を差し出した。おそらく、俺に合意の握手を求めているのだろう。
「よろしく頼む」
俺は右手を出して、その手を掴もうとした。
だが、俺の右手は男の手を掴むどころか、スクロアルマの袖から姿すら見せずにすり抜けていく。
……また、右手の欠損を忘れたのか、馬鹿者。
慌てて腕を引き戻し、男の右手に腕の先端を当てる。
「そう言えば、後ろにいるアンタは一切口を挟んでいないが、良いのか?」
何事もなかったかのように話を続ける俺を、男が制止した。
「ちょっと待って。腕、見せて」
握手の直前の不自然な動きと、握った手の感触から、異常を察したのだろうか。迫り方がまるで保護者のようだ。そこまで気にする事でも無いだろうに。
俺は右腕を軽く上に掲げ、重力に任せて袖を下げる。
黒い布から覗いた腕は、途中から無くなっており、その断面からは繊維が伸び始めている。互いに複雑に絡み合っているようだ。
あの時より、少し腕が長くなっているように思える。なるほど、欠損した部位はこうやって繊維が絡み合って再生していくのか。
「どうなってるの、それ」
「見れば分かるだろう? 欠損した」
声を震わせる男と、いつの間にか近くに来ていた女に、俺は淡々と答えを突き付けた。
「数日前はちゃんとあっただろ? 右手でダガーを振り回していたじゃないか。何があったんだ? ……まさか、『火急の用事』ってやつで?」
かなり狼狽している様子だ。仲間にしようとしたり、怪我の事を気にして問い詰めたり……普通、出会って数日の他人の事をここまで深く関わろうとするだろうか。
不審だ、裏があると考えるべきだろうか。……或いは、本当にただのお人好しか?
「正解だ」
「頼ってくれても、良かったじゃないか。そんな怪我をするほど危険なら、なおさらだ」
「アンタらがあの場に?」
魔王には為すすべも無く殺されるだろうが、魔族らとは善戦できたかもしれない。
「確かに、手を借りた方が良かったかもしれないな。――ただし、もしそうしたら、今頃アンタらは死んでいただろう。流石に、俺は出会って数時間の人間を意図的に命の危険に晒すような真似をするほどの外道では無い。だから、俺はあの時助力を断った」
あの場に2人の死体が残っていたら面倒事を招いただろうし、選択は正しかったはずだ。
「いや、でも……」
言い淀んで、男は黙ってしまった。
メリアは、俺が2人と話している間、あの場所から全く動いていない。ペンダントに込められた魔力が明確な証拠だ。
男はハッとしたように顔を上げ、俺の左腕に視線を送る。
「もしかして、左腕も?」
「外套の左袖を握りつぶしていたというのに、気付いていなかったのか。肩口からバッサリと切り落とされているはずだ」
「それって、貴方、もう両腕が使えないって事じゃないの!?」
女が初めて口を開いた。
「そうなるな。ルイード教徒共が聞いたらさぞ喜ぶぞ」
「どうやって生きていくのよ、それ……パーティうんぬんどころの話じゃないじゃない……」
「腕はじきに再生する、それに、魔法で腕の代わりも戦闘もできるから、冒険者稼業や生存は可能だ。ただ、多少不便になるのは確かだから、今回のパーティ編入の打診は、渡りに船だと感謝している」
後々再生すると分かっている以上、義手を購入する必要も無いだろう。
「本っ当に、パーティを組もうって話しかけてよかった……」
男が、ため息交じりに小声でそう呟いた。




