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第三十七話 双

――(メリア視点)――


 空が赤くなり始めた頃、やっとレカニンまで戻ってきた。聖剣を手にしたあの日から数日経つけれど、特にトラブルは起こらなかった。


「おや、勇者様、その剣……手に入れたのですね。さぁ、どうぞ。お通り下さい」

 門番は快く私たちを通してくれた。


 ノストルギア伯爵邸に戻ると、あの執事と伯爵が出迎えてくれた。何となく、伯爵がやつれている気がする。忙しいのかな?


「よくぞ、お戻りになられた。そして、その腰に提げているその剣……、それが、聖剣でしょう? いやはや、本当に神々しい。――さあ、さぞお疲れの事でしょう」


 伯爵がそう言うと、執事が屋敷の扉を開けた。


「国王陛下より、『明日、是非とも勇者殿御一行とお会いしたい。賜与したいものがある』との御連絡がありました。陛下は謁見ではなく、プライベートに会って話をする事をお望みのようです」

「わかりました」



 借りている部屋に戻る。

「はぁぁ~、やっと戻ってきた……」

それと同時に身体からどっと力が抜ける。


「国王陛下が『賜与したいもの』って何だろうね……」

「鞘……とか?」

私は、自分の腰の左を見る。そこには、所々に汚れがついた金属製の鞘と、剣身のはみだした聖剣サル―ティスがあった。


「まさか、鞘に収まらないとはね……」

 剣身がはみだしたままだと危ないから、もうちょっと長い鞘が欲しい。


「でも、僕らが欲しいものをくれるわけじゃないから」

「サル―ティスさんが作られた時に、一緒に専用の鞘も作られたんじゃなかったか? だったら、もしかしてデピス王国がその鞘を持ってたりして……」

「……なるほど、それは一理ある」

「ま、ここであれこれ考えたところで貰えるものは結局変わらないし、分からないけどな」



 数日ぶりのベッドはすごく寝やすかった。野宿する時よりもずっと深く眠れた。



 夜が明けて、身支度をして、朝食をとって。


「行こうか、王様に会いに」



 屋敷を出て、西にずっと進んで行く。それにつれて、レカニンの中央にある王城がどんどん大きく見えてくる。


「でかいな……」

目の前にある門は金属製で、いかにも重そうだった。両側に立っている門番も、すごく強そう。


「すみません、勇者一行なのですが、今、国王陛下とお会いする事はできますか?」

「勇者様御一行ですね。身分を証明できるものは?」

私たちは冒険者ギルドカードを見せた。

「はい、間違いないですね。すみませんね、お手数をおかけしてしまって。どうぞ、お入りになってください。少し奥まで進めば、陛下の居るところまで案内する者がおります」

 ギギギ、と重い音を立てて門が開いた。城内へと続く道は、その両側をきれいな花壇で飾り立てられていた。


「近くで見ると、やっぱり城は大きいね。……あの人が、案内してくれる人かな?」

 奥に、メイドらしき女性がいる。


「勇者様御一行ですね? ここからは、私がご案内いたします」

そのメイドについていって、城の内部へと入る。


 中はシャンデリアやロウソクできらびやかに照らされている。使用人が行き交い、たまにそれに混じって貴族がいる。床には赤いカーペットがしかれ、廊下の両側には見るからに高そうな絵やガラス窓、切り花を差した花瓶がある。


 この高貴な感じ、やっぱり苦手だなぁ……



「この部屋に、陛下がいらっしゃいます」

そう言うと彼女は、ドアをコンコンと叩いた。

「陛下、勇者様御一行をお連れしました。入ってもよろしいでしょうか」

「うむ。入るがよい」


 彼女はドアを慣れた手つきで開け、私たちを中に招き入れた。


 豪華な装飾品に囲まれた部屋の中央には四角いテーブルがあり、その両サイドにソファがある。右側のソファの両サイドに、近衛兵らしき人物が2人立っている。ひと目で強者だと分かった。本当は、近衛兵の振りをした騎士団長とかなんじゃないかな。そしてその兵の間に男が座ってこちらを見ている。厳しく、優しく、そして勇ましいオーラを纏っている、間違い無い、この人は王様だ。


「はじめまして、勇者殿御一行。そこに座ってくれたまえ」

「はい」

 手で示された方へと座る。

「わざわざ時間をとってしまってすまない。しかし私は、これが諸君にとって有意義なものになると確信している。まずは礼を述べさせていただきたい。先日ディッセルで発生した氾濫(オーバーフロー)、勇者殿があの場にいて、早急に魔族を討伐したからこそ、被害は小さく済んだのであろう。君たちの勇気に感謝する、勇者殿御一行」

「恐縮です」

 私たちは、誰かのために戦っている。あの魔族を殺したから、こうやって被害は小さくなって、感謝されている。敵とはいえ私たち人間(ヒューマン)とあんまり変わらない他人を殺して、喜ばれている。……本当に、よかったのかな……喜ばれていても、これは正しいことなのかな……



「さて、本題に入るとしよう。といっても、今日勇者殿御一行を呼んだのは、賜与したいものがあるためだけではない。先日、ディッセルで発生した氾濫(オーバーフロー)について、知っていることを教えていただきたいのだ。ディッセルの冒険者ギルドマスターからある程度の情報は得ているが、いかんせん情報不足でな。特に、魔族についての報告を頼む」


 ソイフォルが答えた。

「……まずは、魔族が魔森狼エビルフォレストウルフを4体従えていたこと。次に、魔族に近づくにつれ、魔物の密度が上がっていたこと。共食いをしていましたから、完全に魔族の制御下にあったわけではないでしょうね。そして、魔族は氾濫(オーバーフロー)を起こした後、勇者に見つかる前に逃げるつもりだったことぐらいですね。それ以外は……すみません。早急な討伐だけを考えていたので」


 そんなことはない、と国王は首をゆっくりと横にふった。


「それで十分だ。魔族は何か特殊なものを持っていたか?」

「おそらく、特に何も。身体の何処かに隠していた可能性はありますが」

「となると、個人でそれほどの技術を持っていると考えるのが自然であろう。その魔族は、何か重役についているように見えたか?」

「いえ、単独で行動してはいましたが、どこかの部隊の一員程度だと思います」


「交戦してどうであったか? その魔族は強力であったか?」

「一般の魔物に比べればかなり強いと思います。従えた4体の魔物と連携して攻撃するものですから、こちらは非常に戦い辛かったです。ただ、魔族の中であの魔族がどれぐらい強いのかは、分からないです。私たちの魔族との交戦経験はまだ少ないので」

「なるほど……では、同じように魔物を従えて戦い、かつ君たちが倒したものよりも強い魔族がいる、と考えた方が良いだろう」


 ハータマーズが、何百体もの魔森狼エビルフォレストウルフ魔工人形(ゴーレム)(ドラゴン)を従えてこちらに向かって来る様子が、ありありと目に浮かんだ。


「う……あんまり想像したくはないですね」


「大丈夫だとも。勇者殿御一行と、その聖剣があれば、何者でも打ち倒すことが出来るだろう。我々の希望が、及び腰になってはいけないぞ?」

「そう……ですね」


「失礼します。お茶をお持ちしました」

さっきのメイドが慣れた手つきで紅茶をテーブルの上に5つ、置いていった。


「ところで、君が腰につけている剣、それが聖剣かね? 鞘からはみ出してしまっているようだが」

 国王が目線でサル―ティスさんの方を指した。

「ちょうどよい鞘を持ち合わせていなくて……」

「そうか、ならば、私からの贈り物をきっと喜んでくれることだろう」


 そう言うと、国王は指を鳴らした。その音は部屋中によく響いて、どこから音が出ているのか、耳だけでは分からないぐらいだった。あれ、もしかして、この感じ……


 私たちは同時にサル―ティスさんの方をチラっと見た。指が鳴ってすぐにドアが軽くノックされ、何かを大切そうに真っ白な高級布につつんで持っている執事があらわれた。


「おや、気づいたかな? 流石は勇者殿御一行」

 感心半分、面白さ半分の笑みを浮かべている。

「これは、音を魔力に乗せてよく響くようにしているのだよ。〔念話〕というスキルを聞いた事はあるだろうか?」

「ええ、一応……」

「あれは、この技術を応用したものだ。実際に魔力に乗せるのを、『心の声』に変えるだけ。無差別に魔力を広げれば演説が、特定の人物にのみ魔力を送れば密会ができる便利なスキルだ」


 執事が国王に目配せをしてから、布を取り外す。


 鈍く金色に光る、金属製の筒。その表面には、鐘と、割れた一対の角の絵が彫られている。


「これって……」

「そう。その聖剣の鞘だ。今ここで、その聖剣をこれに収めてみてくれたまえ」


 身体の正面に聖剣を持ってきて、今まで使っていた鞘から抜き取る。そして、新しい鞘を手に取って、ゆっくりと聖剣を差し込む。


 金属同士がかすかに擦れあう音がして、最後に、チンッと鍔と鞘が鳴った。まさに、聖剣をしまうためだけにつくられた鞘。何もかもがぴったりだ。


【懐かしいな……】

「素晴らしい……」


 国王の口から、感嘆の声が漏れる。


 執事は、いつの間にか去ってしまっていた。


「ありがとうございます」

私は、もとあった鞘を〔亜空間倉庫(インベントリ)〕でしまって、聖剣用の鞘を腰に提げた。

「満足していただけたようで何よりだ。しかし、〔亜空間倉庫(インベントリ)〕と言ったか。何とも便利な魔術だ」

「ええ、本当にこれには助けられています」



「この後、勇者殿御一行はどうするつもりかね?」

「明日、東の四天王、穿山の討伐のためにイルへと旅立つつもりです」

「イルか……、ここからはかなり遠いな。馬車は予約しているのか?」

「いえ、これから探すところです」

「それなら丁度よい、私がイル行の馬車を手配しよう」

「いいのですか?」

「勿論構わない。明日の正午までには用意できるだろう。それと、分かっているとは思うが、イルに着いたら、そこに配属されている魔族対策部隊の隊長に会いに行きたまえ。君たちを援護してくれるはずだ。では、馬車が手配できるまで、王都を楽しんでくれ。救世主にも、休息は必要なものであるからな」

「お気遣い、ありがとうございます」


 近衛兵の1人が、壁掛け時計をちらりと見て、国王に何か耳打ちした。

「何?」

 続いて、国王の視線が壁掛け時計の方にさっと動き、またさっと視線を戻した。

「もうこんな時間か。私はじきに別の用事があるから、これでお開きとしよう」

「そうですね。用事に遅れてはいけませんから」

「気をつけるとしよう。リオダリ、彼女たちを見送りなさい」

「はい、承知しました」

 国王の右にいた近衛兵が、ゆっくりとドアに向かって歩いていく。


「では、勇者様御一行、行きましょうか」

 そしてその人はドアを開け、私たちに先に出るよう、ジェスチャーで促した。

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