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第二十八話 不明な代償

 王都の外まで転移してから、〔制限解除〕を使用してひたすらに走る。人目につかないように樹々の間を移動しているから、足場が良くない。


メリアに渡したペンダントの魔力から、大体どれくらい離れているか分かる。この調子で距離が縮まっていくなら、勇者一行がイロア樹海に入るまでには間に合うはずだ。



 走り始めてから30分。何故か身体中が鈍く痛んできた。ブツッ、と音がしたかと思うと、よろめいてしまった。転ばずに済んだのでそのまま走り続ける。しばらくして、ブツッと音がし、またよろめいた。そして、3回目。その音が鳴った時、俺はガクンとこけてしまった。


 直ぐに立ち上がって走り出す。さっきから鳴っているこの音は何だ? 決まってその後に転びかけていたから、何かに躓いているのか? いや、しかし、何かに躓いたというよりかは、何かが切れる音に近いような……


【ペルシオ、このブツッ、って音は何?】

【お前らにも聞こえるのか。幻聴でも無さそうだ】


じゃあ、一体何の音なん――


 バンッ!


「うおっ」

 派手に転んでしまった。右足が動かなかったのだ。


【どうしたの、はやく立ってよ】

【……右足が動かない……】


 手で持って動かす事は可能だが、足自身の力では出来ない。1分程放っておいたら動くようになった。


 足の筋肉に何か異常が? 音からして、まさか、腱が断裂したのか!? しかし、何故? この身体が損傷しづらく、損傷も直ぐに回復する事はとうの昔に確認した。このような理由で動けなくなったのは初めてだ。


 いや、思考するのは走りながらでも可能だ。メリアに追いつくのが最優先だ。


 体力:520/536 → 519/536

 体力:519/536 → 518/536

 体力:518/536 → 517/536

 体力:517/536 → 515/536

 体力:515/536 → 513/536

 ……


「ゲホッ、ゲホッ」

 咳がやたらと辺りに響く。口を押えた手に、生温い液体の感触が。べっとりと暗い色の血が付いている。呼吸器官か、消化器官から出血しているのか……


 さっきから体力が少しずつ減少しているし、一体何が起こって……


 ……少しずつ? 体力が少しずつ減っていくなど、まるで、〔制限解除〕の副作用のようではないか。


 〔制限解除〕を切ってみる。気を抜けば簡単にスキルの効果は切れる。途端、体力の減少も止まり、恐らく〔再生〕の効果だろう、逆に回復し始めた。本当に、〔制限解除〕が原因だったようだ。

〔再生〕で副作用を打ち消していたのではなかったのか? 以前使用した時は確かに副作用は打ち消せていたはずなのに。


 〔制限解除〕について調べた時、何か見落としていたのか?

「ゲホッ……〔慧眼〕」

――――――――――――――――――――――――

〔制限解除〕...身体のリミッターを強制的に外す事で、普段の数倍の力を出す。ただし、身体には負担がかかり続ける。

――――――――――――――――――――――――

 いや、何も見落としてはいないな。


 身体の不調が出始めたのは、走り始めて1時間が経った頃だ。それまでは、〔再生〕の効果はしっかり出ていた事となる。身体の不調が出始めてからも、比較的短時間で元通りになっていた事から、〔再生〕の効果は阻害されていないだろう。残る可能性は……


 〔慧眼〕では知ることの出来ない情報が存在し、〔制限解除〕の場合、それが「使用時間と共に身体にかかる負担が大きくなる事」であった、という事。


 確かに、研究が完了した邪法について〔慧眼〕で調べても、そこに記載されていたのはその概要だけだった。嘘は存在しなかったが、説明不足であった。特に気に留めていなかったから、今まで気付かなかった。


 血の気が引いていく。俺が今まで使っていたスキルにも、もしや、デメリットがあるのではないか? もし、それが、強力なものだったら……


 いや、これ以上は良くない。この事についての悲観的思考は放棄する。楽観的に考えよう。大丈夫だ、勇者一行が魔王討伐を完了するまでは持つだろう。そこから先は、いくらデメリットが襲ってきても問題無い。


「………〔制限解除〕………ゲホッ! ゲホッ!」


 息をするのが苦しい。肺がやられたのか?

【ペルシオ、ストップ! 今すぐ休んで!】

 近くの樹に寄りかかり、スキルを解く。しばらくこのスキルを使うのは、止めた方が良いかもしれない。



 何処か怪我をしたら〔制限解除〕を解き、しばらくしてまた使用して……そうやって移動を続けた。


「……居た……」

ついに、勇者一行を視界に捉えた。ここからは、〔制限解除〕は解き、〔隠蔽〕と〔隠密〕に注力する。


【うわ、何ココ、オバケでも出て来そう……】

 イロア樹海は、そこに聖剣が眠っているなど、到底信じられない光景だった。樹の影が自分の身体に纏わりつく。鳥のあの軽快な鳴き声は全く無い、勇者一行が草を踏み潰す音と、時折虫が鳴らす警鐘だけだ。樹に絡みついた蔓や、草木の密集具合から、植物たちの日の目を見ない戦争の様子が窺える。



 しばらく勇者一行と距離を空けて追跡していた。刃物が敵の肉を断つ音も、魔術が敵の命を狩る音も、このような陰気な場所ではかき消されない。例え数百メートル離れていても、俺の耳には届く。


 ガン、突然、異質な音がした。硬い物同士を打ちつける音、しかし、剣戟とは違う。これは……岩? 岩を剣で殴っているのか? これほど離れていては樹々に遮られてしまって、何が起きているのかまるで分からない。


探査(ソナー)〕を使うと、勇者一行と、蠢く何かの塊があった。謎は深まるばかりだ、一体彼女たちは何と戦っている?


 これは、この眼で確かめる他無いだろう。賢者に気付かれる可能性は承知の上だ。しかし、それよりも優先すべきは安全確認だ。



 勇者一行は、歪な形をした人型の魔物と戦っていた。土気色の身体は岩で形成されていて、上半身、特に腕が異常なほどに発達している。そして、まるで血管を表しているかのような、紅い線が走っている。眼に白目、黒目などは無く、紅いライトが覗いているようだ。身体が岩で出来た人型の魔物だから魔工人形(ゴーレム)に分類されるはずだ。何処かの絵で、あれを一度見た事がある気がするが……思い出せない。


 奴の容姿はこの樹海の不気味さと嚙み合っている。しかし、どうもコイツは、魔王や四天王の両脇に侍っている方が似合う気がするのだ。


 初めて見たものは、〔慧眼〕で調べるに限る。

――――――――――――――――――――――――

種族:悪魔(デーモン)()岩製魔工人形(ロックゴーレム) Lv:1(MAX)


 悪魔(デーモン)の身体と、岩からつくられた魔工人形(ゴーレム)。2種の素材を用いて作成するため、作成難度はかなり高く、相当熟練しなければ欠陥品しか生み出せない。作成から、相当の年月が経っている。


体力:1012/1012 魔力:1300/1300

攻撃力:231

魔法攻撃力:276

防御力:520

魔法防御力:210

素早さ:87

器用さ:57

スキル:〔魔力操作〕Lv:5

魔法: 〔岩弾(ロックバレット)〕 〔岩牙(ロックタスク)

――――――――――――――――――――――――

 Lv:1(MAX)……? 意図的につくられた魔工人形(ゴーレム)は、生まれたその瞬間から成長する事が無いと聞く。つまりは、そういう事だろう。何らかの要因で偶然生まれた訳では無いようだ。


 しかし、魔工人形(ゴーレム)の素材に悪魔を使うとは……聞いた事が無い。何なのだ、これは。謎を掻き消すべく情報を求めたというのに、むしろ謎が膨れ上がってしまった。


 彼女たちの戦いの方を見る。かなり安定して戦っているようだ。悪魔(デーモン)()岩製魔工人形(ロックゴーレム)の足元には光る魔法陣があり、そこから生えた水の触手が奴の身体を雁字搦めにしている。何だ、あの魔術は。あのようなものは、見た事が無い。オリジナルの魔術か? セーアを出た時には、オリジナル魔術らしきものは誰も覚えていなかったはずだ。


 あれから、今までの間に覚えたとでも? 誰かから教えてもらった、という可能性はほぼ無い。自分の愛弟子でも無い限り、自分が作ったオリジナルの魔術を誰かに教える、という事は基本的に無いからだ。


 では、作ったのか? オリジナルの魔術をつくりだすのは、簡単な事では無い。〔魔力操作〕のLvが一桁程度の熟練度では、まず無理だ。賢者だから出来るというのか?


 伝説で、賢者は、「変幻自在に魔術を操る天才」であると説明されていた。あれは、「魔術の行使に長けており、全ての属性を扱える」という意味だけでは無く、「いくらでもオリジナルの魔術を作り出せる」という意味でもあったのか……


 賢者を、より警戒すべきだ。いつ、何の拍子で隠密、隠蔽を完全無効化する魔術を作り出すか分からない。そうなったらお終いだ。敵の奇襲を事前に察知出来るだろうが、俺が勇者一行を追跡出来なくなる。現在の俺は対抗策を持ち合わせていない。邪法の研究を進めれば、もしかしたら発見できるかもしれないが……


 ふと、思考の沼から自分を引きずり上げると、メリアの華麗な剣捌きが、奴を圧倒しているのが見えた。8年前、村の狩人が放浪狼(ワンダーウルフ)を捌いているのを見て酷く怯えていたあの姿からは想像も出来ない、敵の命を刈り取るためだけに洗練された動きだ。あの光る剣こそが、〔聖剣〕の効果だろう。


 思わず、ため息を漏らしてしまった。但し、暗く青みがかったため息だった。


 光に断ち切られた奴の身体が、崩壊していく。紐を切ったビーズアクセサリーから、ビーズが零れ落ちていくかのようだ。最後まで崩れた奴の身体から、紅い球が浮上した。


【勇者ヨ、我々ヲ脅カス悪ヲ打チ倒ス使命ヲ背負ッタ者ヨ】


 突然、声が聞こえた。このやけに声が反響する感覚……間違い無い、〔念話〕だ。勇者一行の反応からして、彼女たちにも聞こえているのだろう。しかし、一体、誰から? あの紅い球からか?


【コノ先ニアル聖剣ヲ手ニ取リ、ソノ使命を果タセ。聖剣ハコノ方角ニ進ンダ先デ、其方ヲ待ツ】


 そう伝え終わると、紅い球は、崩れた奴の身体と共に、ドポン、と地面に沈んだ。ファンタジーな世界とはいえ、「前世」の常識からあまりにも逸脱した現象を見せられては、その光景を信じられず、かたまってしまう。まるで水面のように地面に波紋が生まれているのが、更なる混乱を呼ぶと共に、さっきの現象が事実である事を否応なしに理解させる。



 勇者一行は、〔念話〕で伝えられた「コノ方角」へと進んでいった。俺も追いかけよう。

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