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第二十七話 御用だ

 俺が奴らの背後を取るように駆け出すのに合わせて、2人も動き始める。


 男はゆっくりと近づいていく。そして、魔族の肩にそっと手を置いて、

「君、ちょっといいかな?」

「ウワァ! なんだ!」

奴らは飛び退き、懐から武器を取り出した。


 あの近づき方は誰でも驚く。しかし、その後の武器を構える行動は、本当にやましい事が無い限りしない。2人はああやって黒か白か判断しているのだろう。


 魔族らは両方、意識が2人の方に向いている。背後への注意が全く無い、どうぞ背中を攻撃してください、と言っているようなものだ。


 手前の1体の右腕を掴み、そのまま後ろに思いっきり引っ張る。


 倒れ込んだところで、左腕を右足で踏みつけ、首筋にオロクロスを突き付ける。


「〔水弾(アクアバレット)〕」

 やはり小声で女が魔術を行使する。その魔術で残った魔族の体勢が崩れ、すかさず男が地面に引きずり倒す。


 ……ピーキットに比べると、かなり弱いな。彼が強い方だったのか?


 眺めていると、

「吹き荒べ!」

捕まえた魔族から声がすると同時、右腕に激痛。辺りに血が飛び散る。


体力:536/536 → 477/536


【ペルシオ、血が出てます!】

スクロアルマの袖の部分が何ヶ所も破け、そこから腕に裂傷があるのが見えた。このような現象を起こせるのは、魔法以外存在しない。首の皮膚が少しだけ切れるよう、オロクロスを強めに押し付ける。

「……魔法を使うな。次に抵抗すれば命は無い」

「腕をちぎるつもりでやったのに……」

これで、全員無力化完了か。


「いいか、今から真っ直ぐ貴様の拠点まで帰れ。いいか、真っ直ぐだ」

奴は首を縦に振った。右足を奴から離して、左腕を投げるように引っ張って立ち上がらせる。

「行け」


 チラ、と2人の方を見れば、そちらも話を終わらせて、アジトに向かうようだ。


「君、腕は大丈夫かい?」

袖をまくって見れば、傷が浅くなっているのが見えた。出血は勿論止まっている。スクロアルマの方も、修復が始まっているようだ。まるで動画をスロー逆再生するかのように、ゆっくり穴が塞がっていく。

「あぁ、大丈夫だ。気にしなくていい。それより、奴らの拠点だ」



 奴らが向かったのは、あれから更に南に進んだ路地裏の一角。〔探査(ソナー)〕で中を探ると、中に奴らと同じ魔族が居るのが分かった。机の上には4つの球があるのも分かった。


「中に2人居る。部屋の中央にはパペットコマンダーが4つ」

「この2人よりも強い人の気配がするね……」


 ドアノブに手を掛ける。……回るが、戸は開かない。

「合言葉を」

そう来たか。

顔だけ2人の方に向ける。

「少々派手に行くぞ?」

見た限り、これは何の変哲も無い木製品だ。


 ドアに対して右半身が前に来るように立つ。右足を身体に引きつけながら上げる。狙うはドアノブ、そこに全体重の乗った踵をぶつけてやれば良い。


「……〔制限解除〕……」


 腰の捻りも、軸足の踏ん張りも使って、右足を撃ち出せば、木製のドア程度、面白いように割れる。


「知らないな、合言葉など」


 バキン!


 戸が勢い良く開き、その正面に立っていたらしい魔族がよろけるのが見えた。魔族の腹を蹴って奥へと押し込み、侵入する。足音で、後ろから2人と確保した魔族らが入って来るのが分かった。


 7人が入るにはこの空間は少し手狭だ。味方の攻撃に誤って飛び込むなどして同士討ちにならないよう、十分に注意する。

「君、この人たちは生かしておいてくれ! 後で冒険者ギルドに突き出さなきゃいけないから!」


「穿て!」

 蹴り飛ばした魔族から声がする。まずい、魔法が来る。岩の塊を横に避けると同時、

「〔水弾(アクアバレット)〕」

 女がそれに魔術をぶつけて相殺したらしい。

「生きていれば良いのだな?」


 要は、生け捕りにさえすれば良いのだ。四肢が使い物にならなくなっていても文句は言われないだろう。相手は魔族だ、生け捕りにすると言えども下手に手加減出来ない。生け捕りにする過程で手足を破壊せざるを得なくなるかもしれない。


 2人は入口の前に陣取っている。ならば俺は後方の奴を相手するべきか。


 投げナイフを2本手で投げて、距離を詰めてオロクロスを振るう。


 奴は器用に爪で投げナイフを弾き、オロクロスも受け流した。


 受け流された勢いで蹴る。腕でガードされた。


 足を入れ替えて足払い。少し奴がよろめいた。


 ここで畳み掛けようとし、紫色の電流が身体の周りでより強く暴れ出す。オロクロスを勢いよく突き出すも、奴は強引に回避した。


「貫け!」

 無理な体勢で奴は大量の氷の矢を生み出した。


 天井は低い、パペットコマンダーが乗った近くのテーブルは防御に使えそうにない、邪法は使うわけには行かない……


【すまない、スクロアルマ、お前で防御する!】

【今までずっと使ってきたのに、今更言うのですか? 私はれっきとした防具ですよ!】

 身体を右に捻り、顔の前に左腕を掲げ、氷の矢を防ぎ漏らさないようにする。


 体力:520/536 → 430/536


 既に修復が始まっているが、スクロアルマは穴だらけになってしまった。俺の身体もそうだが。攻撃を受けた面が熱いのか冷たいのか良く分からない。しかし、動かせない程の傷では無い。何なら右半身はほぼ無傷だ。


 右手で奴にオロクロスを突き立てようとする。


 危険を感じ取っていたのだろう、素早く奴は顔の前で両腕を交差させた。


 だが、これは本命の攻撃では無い。オロクロスの方の威力はほどほどに、右足で奴の膝を蹴る事に注力する。

「ぐぉっ……」

 関節を狙って蹴ったのだが、痛がってはいても折れている様子は無い。

 意識の逸れた腕にオロクロスを突き立てる。


 中々に肉が固い。


 棘を生成させてから無理矢理引き抜こうと考えていたが、それを取り止める。

【手当たり次第に棘を出して、その後直ぐに引っ込めてくれ】

【刺したまま引っこ抜かないんだね? わかった】


 メリメリ、と音がして、奴の傷口から血が這いずり出てくる。


 肘打ちをしてその反動でオロクロスを引き抜くと、堰を切ったように血が溢れ出した。


 貧血で気絶してくれれば楽なのだが、そう上手くはいかない。

「っ……凍てつけ!」

 たちどころに奴の傷口が氷に覆われる。血を吸って赤みを帯びた氷だ。


 裏拳を奴の側頭部目掛けて振るう。狙うのは気絶だ。奴は間一髪で避けた。


 反撃として、怪我を負っていない右腕がこちらに伸びてくる。反撃できそうに無いので後退して回避する。


 奴の左腕は胴体にだらんとぶら下がっている。あの様子だと、左腕はまともに動かせないのだろう。狙うならそこか。


 一瞬で距離を詰める俺に合わせて、奴は爪を振るう。


 体勢を低くしていたから、反撃しやすい位置に右腕が来る。


 手首を掴み、オロクロスを突き立てる。


 更にそこから一本背負いの要領で床に叩きつける。


 今度はピーキットの時のようにはならなかった。警戒して手をすぐ放せるようにしていたが、杞憂に終わった。


 奴の両手足、人間の身体なら腱があるはずの部分を切りつける。次に、頭部を殴る。失血、脳震盪、腱の断裂、どれでも良い。コイツを行動不能にしろ。


 奴はぐったりした様子だ。息はしているから、殺してはいない。


<経験値を入手しました>


 2人の方は……終わったか。魔族を縛り上げたところのようだ。男は魔族のフードを取った体勢のまま、硬直しているように見える。

「コイツはどうすれは良い?」

「本当に魔族だったのか……って君、何でそれで立ってられるんだい!? ハリネズミみたいになってるじゃないか!?」


 ……早く矢を抜こう。氷の矢が外れると、ジク、と血が漏れた。刺さったままの部分は再生していないようだ。スクロアルマの穴は直り始めている。身体に刺さった物は抜かない方が良い、という「前世」での知恵は、この身体に関しては役に立たない。


「後は任せた。俺は用事があるので失礼する」

「……!? 君は協力者なんだから、僕たちと一緒にギルドに行ってくれないと困る」

「何故?」

「何故って……事情聴取をしなきゃいけないからだよ」

「『此度の依頼は、2人で達成した。協力者は居ない。』そういう事にしてくれ」


「いや、ちょっと待って……それに……ほら、2人で4人を運ぶのは大変だから」

 そう言って、男は4人の魔族を指差した。

「連行する人数を減らせば良いだろう? 見せしめに何人か殺せば、生きている奴は大人しく白状する」


 戸外で捕縛した2人の魔族が、ビク、と肩を震わせた。

「……どうしてそんなに嫌がるんだ……連行しようとしているわけじゃないんだよ?」

 協力者として2人と共にギルドへ向かうのを拒むのは、1秒でも早く勇者一行の元へ辿り着くためだ。それに、ルイード教信者に俺の行動を認知されたくない。


「火急の用事だ。人命が掛かっている。いいだろう? 別に俺が居なくとも、齟齬は生じない」

「『火急の用事』……何か、僕たちに協力できる事は?」


 協力を申し出ているのか? 「火急の用事」の詳しい内容も聞かず、協力すると言い出すなど、ただのお人好しか。


「無い。足手まといだ。強いて言えば、ソイツ等を、しっかりギルドまで連行する事だ」

 突っぱねるような口調だが、これで良い。そもそも、2人は俺の事を完全に信用してはいない筈だ。これで、2人が俺の事を友好的でない存在だと認識してくれれば……



 ……良い事を思いついた。確か、男は初対面の俺を集団の1人だと思い込んでいた。その集団が魔族である事を今の彼は知っている。どのような魔法を使うのかも、分かっているはずだ。


 俺が使う魔法は何だ? 邪法、詠唱も魔法陣も要らない魔法。仕組みこそ大きく違えど、傍から見れば、魔族が使うそれと大して変わらない。ここで邪法を見せれば、俺が魔族、つまり敵であると思い込ませることが出来るのでは?


「では、さらばだ」

 使うのは〔空間歪曲(ワープ)〕。俺は早く移動出来る上に、空間に亀裂が生まれ、更にそこから唸り声がするのだから、2人からすれば不気味で仕方がないだろう。

俺は正面に〔空間歪曲(ワープ)〕の亀裂を生成する。

「「えっ……!?」」

 困惑の声を聴きながら、亀裂に跳んで入る。次の瞬間、上向きの風が身体を包む。……否、これは、俺が落ちて行っているだけだ。

「あんな魔法、見た事が無い……。詠唱も無ければ、そもそも魔法陣も……」


 もう一度、〔空間歪曲(ワープ)〕。足元の空間と転移する空間を裂いて繋げ、進行方向をきっと見据える。向かう先は、北の方角。イロア樹海のある方へ。

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