第二十五話 何奴
何故気付かれた!? 邪法の使用に気付いて居場所まで特定されたのか……。一応、気配は消していたというのに。こうも肩を掴まれては気配の有無も何も無い。
路地裏の奥の方で、全く人が居なかったのが不幸中の幸いか。
前に跳んで剣2本分以上、数値で言えば2メートル弱ほど、2人との距離を離す。向かって右側に居て、俺の肩を掴んでいたのは男の剣士。向かって左側の女は、杖を持っていることから魔法使いだろう。男は軽そうな鎧を身に付け、女はローブに身を包み、魔女らしい三角帽子を被っている。
その2人の立ち姿だけで、相当の実力者である事は直ぐに分かった。2人は何時でも、俺を攻撃できる。
「何故、俺に気付いた?」
「そりゃあ、僕は人の気配を感じとるのが得意だからね、そこら辺の隠形じゃあバレバレだよ」
隠形を見破る類のスキルを持っているという事か……? 話しぶりからして、邪法の事には気付いていないのかもしれない。路地裏で隠形しているのがばれた、というのもあまり良くない事だが、邪法の事がばれるよりかは随分ましだ。胸を撫でおろすが、すぐに疑問点に至る。
「では何故、俺と接触しようと? そんな怪しげな奴に声をかけるなど、普通ではない」
「普通はね。でも私たち、依頼を受けていて。王都路地裏に出没する怪しい集団の調査。特徴は、目深にかぶったフードに黒い外套」
男の代わりに女が答える。どうやらそのような集団が居るらしい。
「集団……? 俺は1人ではないか」
それに、この外套は黒色と言うより、赤黒い色を……いや、血が付いた黒色の外套だな。その点については弁明のしようが無い。
「そう。だから、君の仲間の居場所を教えてくれないか?」
恐らく、ここで首を縦に振らなければ、戦闘が始まる。俺は姿勢を一切変えずに、感覚を研ぎ澄ませて不意打ちに備えた。
「人違いだ。そもそも、レカニンの怪しい集団の事など今初めて聞いたぞ」
冒険者ギルドでも魔物を討伐する類の依頼しか見ていなかったから、この無知に関しては俺の落ち度かもしれない。
「しらを切るか。じゃあ、しょうがない、ちょっと手荒に行こうかな」
「前みたいに加減を間違えて殺さないでね? アッシュ」
【ペルシオ、何か勘違いをされてますよ! どうするんですか!】
【応戦しながら考える】
男が剣を握って間合いを詰めると同時、女が杖を動かして空中に魔法陣を書き上げる。2重の円に、円同士の間に書かれた文字、これが魔法陣の特徴だ。魔力によってつくられたため、光っている。
魔法陣が書きあがって
「〔火弾〕」
と女が小声で唱えると、中心に近い方の円から火の塊が飛んで来る。しかも俺の背後に向けて、だ。
これだと、男の剣から逃れようと後ろに引けば丁度それに当たってしまう。男は剣を腰の右に構えている。横に薙ぐつもりなのだろう。
後ろにも、横にも逃げられない。残る選択肢は、
【オロクロス! 丁度良い、ソードブレイカーの試用だ】
【任せて!】
オロクロスで、男の剣を受け止める事。邪法が邪法は見られると不都合に繋がりかねないから、使わずに済むなら使わない。背中の鞘からオロクロスを抜き、男の剣と打ち合わせる。
ガキィン、と派手な金属音。
コイツ、かなり一撃が重い。
ソードブレイカーとしての運用のために生やした棘のせいで、衝撃を逃がせない部分が大きいのかもしれないが、腕がビリビリする。この攻撃を受けられるのは10回までか?
鍔迫り合いをするつもりは無いようで、男は直ぐに剣を引こうとする。しかし、その前にオロクロスを捻るように動かして剣を絡めとる。
「何っ!?」
急に捻られて、腕や手首に負担がかかっているだろう。それでも彼は上手く対応して、オロクロスから剣を抜いた。同時、足元から火が昇る。反射的に後ろに跳びのくと、魔力で描かれた魔法陣がそこにあるのが見えた。
体力:536/536 → 506/506
おそらく元凶であろう女の方を見る。目を丸くしているのが分かった。
戦いばかりに思考を割く訳にはいかない。どうやって人違いである事を納得させるかが問題だ。
【オロクロス! これからしばらくは、ソードブレイカーの棘を生やしてくれ!】
【はいよっ!】
ガキィン、と男の唐竹割りを受け止め、棘で絡めとって捻る。
話に出てきた「怪しい集団」を彼らに突き出せばそれで済むが、今のところそれらしき団体は発見していない。一般に誤解を解くなら対話を続けるのが正解なのだろうが、この2人は果たしてこちらの話を聞く気はあるのか?
【逃げるか……】
【?】
【誤解を解くのが面倒で、時間の無駄だからだ。今すぐにでも魔族の捜索に戻りたい】
【怪しい集団、というのが気になるのですが】
【関係ない事だろう。余計な事に首を突っ込むつもりは――】
【その不審者集団が、探している魔族の事だったら?】
食い気味のスクロアルマの台詞を聞いて、目から鱗が落ちた。関係ないからと言って思考の外に締め出してしまい、見落としていた。
そうだ、あくまでノストルギア伯爵にパペットスティレットを売った魔族が1人であるだけで、ここで暗躍している魔族が1人とは限らない。それどころか、軍が派遣している部隊である以上、複数人居る方が自然だ。
視野が狭まっていて良くないな。そうなれば、この2人は決して厄介な奴らではない、重要な情報源だ。
となれば、たとえ2人が話を聞かなくても、口を噤んでも、情報を引きずり出してやる。
男の横なぎと女の〔炎弾〕を捌く。今までは剣を受け止めるだけだったが、今度はそのまま鍔迫り合いに持ちこみ、剣を封じる。こうなるとより強い力が腕にかかるので、右腕を左手で掴んで、両腕の力で押し返す。
両腕をもってしても気を抜いたら最後、体勢を崩されそうだ。
「なぁ、アンタら」
この状態で女に魔術を放たれると危険だ。大きめに声を出して会話内容に注意を向けさせる。
「何だ!」
「その『怪しい集団』とやらを探しているのだろう? それについて、もっと詳しく教えてくれ」
「はっ?」
一瞬だけ、剣からの押す力が弱まる。混乱するのも無理はない。2人からすれば、敵が敵についての情報を欲しているように見えるのだ。
「なんで調べた情報を本人の前に言う必要がある?」
魔族を探している事を言ってしまおうか……いや、情報を出すのなら小出しにして興味を引こう。できる限り少し、ほんの少しだけの情報をだ。
もしその「怪しい集団」が俺が探している魔族と違ったなら、手伝わざるを得なくなり、時間を多くとられる。だがそのリスクを差し引いても、この行動には価値がある。
「もしかしたら、俺が探している奴らと同じかもしれないと思ってな」
「……んん? 別の派閥があるのか……? いや、でも、そんな情報は……」
男は剣を構えたまま後退り、小声でぶつぶつと独り言を始めた。
あちらからの俺の認識が、「自分の情報を欲する敵」から「敵を探すのに協力する可能性のある、敵かもしれない何者か」に変わったのだろう。
「数日前にノストルギア伯爵に接触した事までは調べがついているが……」
「……」
2人は思案している様子だ。
「で、どうだ? 情報提供をしてくれるか?」
男は答えない。
「アンタ、アンタはどうする?」
女に声を掛けると、
「信用ならないけど、敵の敵は味方って言うし……」
承知したと見ていいだろう。
「では、情報を」
「……その集団は少し前に目撃されたの。それで――」
「ちょっ、カターフェシ!?」
男が女を止めようとすると、女は男の傍に寄っていって、
「勘違いで攻撃をう……のに、怒……ろか協力するっ……出すのよ? もう、なんか怖いの……の人! ここで『いやだ』なん……ら何するかわかっ……ないわ!」
と内緒話をした。この怪人の聴力のおかげで、途切れ途切れではあるものの聞きとれる。
「それで?」
「ええと、それで……数は5人くらい、体格は平均的、陽が落ちた後によく出歩く。服装はさっき言った通り黒いフード付きの外套、よく出没するのが王都の中央から南にかけて、丁度ここら辺ね。でそれと、似た服装をした人がノストルギア伯爵邸の正面の門から出てきたって言う噂もある」
ノストルギア伯爵の、あの商人についての証言と一致する。2人と俺は同じ集団を探している可能性が高い。
「あと、これはホントかどうか怪しいんだけど……もしかしたら、その集団の種族が――」
「「魔族かもしれない」」
「――んだけど……。えっ?」
【スクロアルマ、感謝する! お前の言う通りだった!】
【どういたしまして】
ここまで情報が一致すれば間違いない。
「アンタらが探している集団と、俺が探している奴は間違いなく同一の存在だ」
これで、恐らくこの辺りに魔族が居る事は分かったのだが……この2人についてはどうすれば良い? この後すぐに2人から離れてしまえば、不審がられるどころか敵と判断されるに違いない。となると、俺はこの2人を連れて魔族を捜索しなければならない訳だ。つまり、見られてしまうため、戦闘に邪法は使えない。もどかしいし、魔族を制圧できるかどうかが怪しくなる。この2人分、戦力が増強されたから大差無いと考えるべきか……?
「じゃあ、君も怪しい集団探しを手伝ってくれるかい? 協力してくれる人は多いに越したことはない」
「この流れで断る奴が居るのか? これも何かの縁だ、力になろう」
誰かが話している会話に割り込むように発言するのは、
「○○○○――」
「××」
とします。
○○が割り込まれる側、××が割り込む側です。




