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第二十二話 伝説を手に

―――(メリア視点)―――


 走り続けて何分たったんだろう、開けた場所に出た。そこで見た光景に、私は思わず息をのんだ。


 ここから空が見える。辺りにはすねぐらいの高さの草が広がって、ゆらりゆらりと風になびいている。広さはフィルディータ王国の王城の謁見の間より少し狭くて、狭いとも広いとも言えない。


 じめじめした樹海とはあまりに異質なこの空間、その中央に聖剣があった。聖剣は苔むした岩に垂直に刺さっていて、そこから見える剣身は、つるに巻き付かれながらも夕暮れの光を反射して神々しく輝いている。剣の鍔と柄は鈍い金色を放ち、まさに伝説に出てくる通りの見た目だ。そして……


 そして、大量の血。草は紅く染められて、日光を反射してキラキラと光沢を放っている。辺りを見回せば、木々にも血が飛んでいる。血が乾いていないから、まだこれが新しいものだとすぐに分かった。


【若人らよ】

また、どこからともなく声がする。でもあの魔族の声じゃない。もっと、老人のような、年老いた声だ。

「どこ?」

【我は此処にある聖剣、銘はサル―ティスだ】

「聖剣!?」

「聖剣が会話できるなんて、伝説には一言も……」

 伝説に詳しいアギサが知らない、と言うのだから、本当に聖剣がしゃべるなんてどこにも書いていないんだろう。

【我は〔念話〕という能力を用いて会話しておる。これは自身が選んだ対象の脳内に直接会話を送り込むスキル。それ故、他の者には無言であるように見えたのであろう】

「あの魔族はどこへ? それともまだここに?」

【魔族?】

「えっ? ほら、あの……フードを被って、血が染みついたボロボロの外套を着ているあの魔族のこと!」

【……あぁ、あ奴のことか。あ奴は既に何処かへ行ってしまった】

「あの魔族は何をしていったのですか」

【いや、何も。あ奴は遂に何もしていかなかった】

「では、ここはなぜ、こんなにも血にまみれているのですか」

【…………それは……あ奴が此処に来てすぐに魔族と闘ったからだ。此処に魔族が潜伏していたのだ】


 魔族が、他の魔族と戦う……? というか、この場所に魔族が隠れていたの? もし、あの魔族が私たちを足止めしなかったら、私たちはそれに気づかず……


「危なかった……あの魔族が先走って助かった。でも、どうして、魔族同士が戦いを?」

【…………我にも良く解らぬが、恐らく、今の魔族共は一枚岩ではないのだろう】


【本題に移ろう。そこの茶髪の娘、お主が勇者だな】

 色々と納得いかないところがあるけど、それをひとまずのみ込んで、私は一歩前に出る。

「はい。私が、勇者。名前はメリアです」

【そうか、メリアか。さぁ、メリアよ。我を手に取り、使命を果たせ!】


 私は聖剣の前に立ち、柄を両手でつかむ。そして、真上に引き上げようとする。でも、全然動かない。


「……抜けない……?」

【しまった。言い忘れていた。己の魔力を〔魔法剣〕の要領で込め、そして引き抜くのだ。そうしなければ抜けないよう、封印を施してある】


 しっかり聖剣をにぎって言われた通りにすると、聖剣の刺さっているところから、青白い光が漏れだした。


【もう一度、引き抜いてみよ】


 スーッ、と擦れる音を立てて静かに聖剣は岩から抜ける。持ち上げて気づいたのだけれど、この聖剣、すごく軽い。見た目の重さのイメージと実際の重さの違いに頭が混乱する。


【我を振るってみよ、メリア】


聖剣を上に構えて、真っ直ぐ振り下ろす。素振りの形だ。聖剣はヒュン、と軽い音を立てた。


 やっぱり、この聖剣は軽い。


 前の剣とは重心が違うのか、まだ少し違和感があるけど、しばらくしたら無くなるはず。


【綺麗な剣筋だ。良き師を持ち、相当に鍛練を積んだのだろう】

「ありがとうございます、聖剣さん」

【我のことは銘で呼べ。我が銘はサル―ティスだ】


【メリア以外のお主らの名は何だ?】

「賢者のソイフォルです」

「守護者のケイディン、です」

「聖者のアギサです。サル―ティス様、どうぞ、よろしくお願いいたします」

【む? 1人足りぬな。たいてい、勇者は他の4人の仲間と共に魔王を討ったものだが……】


「それについては、旅の途中で1人を仲間に加えるよう、陛下から仰せつかっております。ご安心ください、先代のときのような、悪意ある者を仲間に加える真似はいたしませんから」

【……邪法使いの事か。『悪意ある』か……、それに我らはあ奴が継いできた邪法を……】

 聖剣の声はどこか後ろめたさを感じている様子だったけど、

【いや、この話は止そう。これを訊き忘れておった。現在、魔王軍はどうなっておるのだ?】

 すぐに話題を切り替えた。確かにこの樹海の中にずっといれば、外の状況なんて分かるはずもない。

「大陸の東西南北それぞれに魔王の四天王が侵攻してきています。私たちは、フィルディータ王国から出発して、東から反時計回りに大陸を移動して四天王を倒していくつもりです。そして、四天王を全て倒した後、海を渡って魔王を倒しに行きます」

【フィルディータ王国? それは何処だ?】


 そうか、フィルディータ王国は400年前に始まったから、聖剣は知らないんだ。


「大陸南東にある国で、私たちの出身国です」

【南東から出発して、左回りに大陸を移動する、と。……む? 宝玉の回収は何時だ?】

「宝玉……? アギサ、宝玉って何?」

「いえ、私も知らないです」


【……インヴィクタらが情報を隠蔽したようだな……。……宝玉というのは、我が持つ力の一部を分け与えた球体だ。魔力で我と繋ぎ合わせることで、その分け与えた力を再び我が行使できるようになるのだ】


 先代の勇者が隠した?


「ということは、今はまだ完全体じゃないって事?」

【左様。このままでは、魔王にこの刃が届く事は無いであろうな】

「その宝玉はどこに?」

【1つは大陸の東、イーラ渓谷の底にある。1つは大陸の北から北西にかけて横たわるペルマーネ山脈に。1つは南東の海食崖にあるアゴニア洞窟に。侵入者から宝玉を守るため、勇者にしか解けない封印をしてある。そこに、かの勇者たちの所持品の一部も残してあったはずだ】

「3つあるのか……そういえば、宝玉にはどの力を分け与えて、今のサル―ティスさんには何の力が残っているのですか……?」

【イーラ渓谷の宝玉には魔法を打ち消す力を、ペルマーネ山脈の宝玉には聖剣を通すことで勇者のみが使える魔術の魔法陣を、アゴニア洞窟の宝玉には聖剣を使用している者の身体能力を一定時間大幅に上昇させる魔術の魔法陣を分け与えた。今の我には、魔族により深い傷を与える能力しか残っておらぬ。それ以外は、魔力を素早く多く込められる、やたらと軽くて良く切れる剣だ】


 そう言った後、思い出したかのように、言葉を付け加えた。

【そうだ、我を〔鑑定〕系スキルを通して見てみよ】

「「「「〔鑑定〕」」」」

――――――――――――――――――――――――

聖剣……遥か昔の勇者が使用したとされる伝説の剣。長い時を経ているが、その輝きと切れ味はさして衰えていないように見える。


銘:サル―ティス

鋭利さ:525

硬度:1200

特殊効果:〔造られた魂〕 〔念話〕 〔魔族殺し〕 〔重量補助〕 〔魔力接続:主〕

――――――――――――――――――――――――


 鋭利さと硬度の数値にびっくりしてしまった。市販の鉄製の剣はたいてい、鋭利さ:30、硬度:60ぐらいなのに、その何十倍もの数値だ。

「『鋭利さ:525』に『硬度:1200』!?」

ケイディンもその数値の高さに目を丸くしている。

【『鋭利さ:525』……? 長い間、砥がれぬままであったから、劣化しているのか……】

 これでも昔と比べると数値が低くなっているらしい。


 日はとっくのとうに沈んでしまって、この場所は今月明かりに照らされている。この風景もまた、神秘的でいいなぁ……この大量の血がなければもっと良かったけど。


「野営をするところを探そう」


 さすがにこの血だまりのすぐそばで寝るのはムリだ。みんなもそう思っているようで、ちらちら振り返りながら、聖剣が刺さっていた場所を後にする。

次回、ペルシオ視点に戻ります

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