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第二十一話 力の差

―――(メリア視点)―――


 樹海の中を歩き続ける。辺りの雰囲気が暗いのは相変わらずだけど、進むべき方向が分かっただけでもかなり気が楽になる。魔物を倒しながら進むのも変わらない。


 突然、

「ソイフォル、どうしたのですか? そんな難しい顔をして、たまに後ろの方を振り返っているではないですか」

アギサがそう問いかけ、それに反応してみんな立ち止まる。アギサたちは私とケイディンより後ろにいるから、ソイフォルの動きは見ていなかった。

「……いや、僕の勘違いかもしれないんだけど、〔索敵(サーチ)〕で、たまに後ろの方で、かすかに反応があるんだよ。でも、後ろには誰もいないし、勘違いかなって」

「本当に誰かいるなら、ずっと後ろをつけられてるってことでしょ。心当たりなんてないんだけどな……」

「魔族……? 俺たちの後をつける奴なんて、それぐらいしかいなさそうだな」

ケイディンの一言で、みんなの雰囲気が険しくなる。


「……魔族! あなたがここにいることは分かってる! 出て来なさい!」

 叫んでみたが、反応はない。木と葉が揺れる音がするだけ。普通に考えれば、勇者パーティがそろっている中にのこのこ出て来る魔族なんて、そうそういない。

「いてもいなくても、これじゃ出ないよね……」

「魔族じゃなくて魔物かもしれないし、そもそも僕の勘違いかもしれない。一応、ケイディンが後ろに来て、万が一の時は攻撃を防いでくれ。僕は後ろにやや強めに〔索敵(サーチ)〕を使うことにする」


 また歩きだすけど、今の私たちは、言いようのない不安感でピリピリした空気をまとっている。


 本当に魔族がいたとして、なんで私たちをつけているんだろう。ここには私たち以外いないから、殺そうと思えばいつでも私たちを襲える。それなのに襲わないのは、他に目的があるからだと思うんだけど、その心当たりがない。聖剣が狙いなのかとも思ったけど、聖剣は勇者にしか抜けない様に封印されているから魔族にはどうすることもできないだろうから、それは違う。でも、それ以外にこのイロア樹海に何かあるわけでもない。考えれば考えるほど、魔族の目的が分からなくなる……。


「右前に反応が1つ。多分また魔工人形(ゴーレム)

普段より暗い声でソイフォルが報告する。彼もまた、同じことを考えていたんだろうか。少し奥へ進むと、そこには、数時間前に倒したものと全く同じ魔工人形(ゴーレム)がいた。


「〔氷牙(アイスタスク)〕」

「もう、倒し方は分かっているから……」

ソイフォルの魔法に合わせて、攻撃しに行く。ケイディンが後ろからついて来るのを確認して、私は魔工人形(ゴーレム)の右腕に向かう。左腕はまたケイディンが受け止めてくれるだろうけど、私が担当する右腕はそうはいかない。だから、振り下ろされる前に……


 魔力:208/358 → 158/358


「ハァッ!」

 〔聖剣〕で強化した一撃を叩き込む。放たれた光の刃は魔工人形(ゴーレム)の腕をきれいに斬り、その腕はボトリ、と地面に落ちた。胴体にも傷がついたみたい。ケイディンはしっかりと残った腕を受け止めている。


 後は胴体を壊せば、と思った時だった。

「2人とも、魔工人形(ゴーレム)から離れてください!」

「メリア、ケイディン、魔工人形(ゴーレム)から離れろ!」

 アギサとソイフォルの、かなり切羽詰まった様子の声が聞こえた。走って魔工人形(ゴーレム)から離れると、すぐ後ろからボコ、という音がした。振り返ると、何本もの岩でできた牙が地面を食い破って突き出ていた。たぶん、魔工人形(ゴーレム)を中心に描かれた魔法陣の魔術、これが原因だ。

 岩の牙が消えるまで近づくことができないから、ここから〔聖剣〕の光の刃を放とうとしていると、魔工人形(ゴーレム)が上半身をケイディンの方に向けた。胴体が縦に割れ、中からあの紅い球が現れる。


 魔力:158/358 → 88/358


 嫌な予感がした私は、魔力をためたと同時、〔聖剣〕の光の刃を放つ。急いで放ったそれはしっかり魔工人形(ゴーレム)を仕留める。でもその直前に、紅い球は魔法陣をつくり、何か魔術を使っていた。あれが倒れると同時、ケイディンは地面から生えた岩の牙に突き上げられ、ドカッ、という音と一緒に宙を舞った。

「ケイディン!」


<経験値を入手しました>

<Lvが上がりました>


 ケイディンがドスン、と地面に落ちた。魔工人形(ゴーレム)を倒したことは分かったけど、それよりもケイディンの方が心配だった。ケイディンの傍には既にアギサが着いて、治癒魔法をかけている。ソイフォルもそこにいて、ケイディンのけがを探している。岩の牙は既に全部崩れてなくなったので、私もケイディンの元へ行く。


【勇者ヨ、我々ヲ脅カス悪ヲ打チ倒ス使命ヲ背負ッタ者ヨ】

 魔工人形(ゴーレム)の紅い球からまた声がするけど、適当に聞き流す。

【コノ先ニアル聖剣ヲ手ニ取リ、ソノ使命を果タセ。聖剣ハコノ方角ニ進ンダ先デ、其方ヲ待ツ】

 さっき倒した魔工人形(ゴーレム)のそれと同じ内容だ。「コノ方角」は私たちの進行方向だった。


 治療を受けたケイディンが起き上がる。

「すまねぇ、心配かけた。大丈夫、地面に叩きつけられた時の衝撃が思ったより強くてな。いや、まさか下から来るとはね……。盾構えてた俺がバカみてぇだ」

 前に、私が暴れ猪(アングリーボア)にはね上げられた時と同じ状態になっていたみたい。骨が折れた様子もないし、たぶん大丈夫。


「なんか、魔工人形(ゴーレム)が強くなってない? さっきのは魔術を使わなかったのに……」

「聖剣に近づいているからではないですか?」

そう言われると納得する。王城の見張りの兵よりも近衛兵の方が強いのと同じみたい。


 中級魔力ポーションを〔亜空間倉庫(インベントリ)〕から取り出して飲む。


 魔力:90/367 → 290/367


 他のみんなも体勢を整えたのを確認する。そうして歩き出そうとした時の事だった。

「後ろに反応! あの魔族だ!」

ソイフォルの声に反応し、後ろを向く。その直後、後ろから金属が擦れるような音がした。振り返ると、そこには親指くらいの太さの真っ黒な棘が3本、地面から生えていた。

「えっ……」

「メリア、上だ!」

動揺を隠せないまま上を見ると、確かに人の形をした何かが跳んでいた。と同時、周囲からジャキン、と音がした。見ると、私たちを囲むように棘が生えて、私たちを閉じ込めていた。


 軽い音を立てて魔族は地面に着地した。その姿は、一言で言えば「不気味」だった。体格は普通だけど、その上に羽織った黒色の外套はボロボロで、血が染み込んでいる。フードで隠れて顔は口ぐらいしか見えない。ハータマーズにはあった角が無いように見えるけど、もしかしたらフードに隠れているのかもしれない。

【ふむ、この先に聖剣があるのか。道案内をどうも】

 彼のこの話し方は、魔工人形(ゴーレム)の紅い球のそれと一緒だ。どこからともなく声が聞こえてくる感じの話し方。

「お前は何者だ。聖剣に何をするつもりだ!」

【貴様の名前は……確かケイディンだったか】

「なんで俺の名前を……!」

【情報というものは案外容易く漏れるものだ。それと、敵にされた質問に素直に答える訳ないだろう】

そう言って彼は私たちに背を向け、聖剣があるはずの方へ歩きだした。

「〔氷弾(アイスバレット)〕」

ソイフォルが小声で魔術を発動する。魔法陣から放たれた氷の弾は棘でできた柵の間をすり抜けて、彼の背中に向かっていく。不意打ちが当たった、と思ったけど、それは彼の背中に当たる直前にその場で止まってしまった。

 

【甘いな】


ちらりと振り返って彼がそう言う。フードが一瞬揺れた時、真っ赤に光る目がちらりと見えた。それと同時、氷の弾は向きを180度変えて、ソイフォルが放ったよりも速くこっちに飛んできた。


 返って来た氷の弾は地面を抉る音を立ててソイフォルの足元に当たり、粉々になってしまった。彼はまるで何事もなかったかのようにまた歩き出す。


 彼の姿が見えなくなったと同時、私は息を大きく吐いた。いつの間にか息を止めていたみたい。あの目、ペルシオの目と似ていた気がする……そうでもないか。似ていたのは目の色だけだ。彼はあんなに濁った目をしていなかったし、纏う雰囲気はあんなに禍々しくなかった。

「ソイフォル、大丈夫?」

ソイフォルは、さっきからずっと無言で目を見開いて、自分の足元にある、彼が放った氷の弾がつくった穴を見つめたままだ。

「ソイフォル?」

ソイフォルは全く反応しない。

「ソイフォル!」

「わっ!」

背中を思いっきり叩いて呼びかけて、ソイフォルはやっと反応した。

「大丈夫?」

「あ、あぁ……」

「……あの魔族は何なんだ……? ディーズ丘陵の時の魔族よりも全然強いじゃないか……」

 彼がハータマーズよりかなり強そうなのは、戦わなくても分かっていた。私たちはまだ彼とハータマーズの2人しか知らないから、どっちが魔族として普通の強さなのか分からない。でも、いつかは彼ぐらいや、それ以上に強い魔族と戦うことになる。

「まだまだ強くならなきゃね……」

「クソッ、全然壊れねぇ! メリア、ソイフォル、話が終わったなら手伝ってくれ!」

ケイディンがガンガンと斧を棘に打ち付けながら言っている。アギサは杖を棘の間に挟んで、てこのようにして動かせないか試している。落ち着きを取り戻したソイフォルは、色々な魔術を使って棘を壊せないか試している。私も剣を振って見るけど、まるで歯が立たない。ならば、と剣に魔力を込める。


 魔力:292/367 → 262/367


 振るった剣は、ガキン、と音を立ててはじかれてしまった。これでだめなら、もっと魔力を込めれば……!


 魔力:262/367 → 62/367


「ハァッ!」

キィンと音を立てる剣を棘に向かって振るう。剣が棘とぶつかってガリ、と音を立てた。さらに剣から光の刃が出て、棘とぶつかってゴリ、と音を出した。今までのそれとは全く違う音に、ついに棘が壊れたんじゃないか、と期待する。


 光の刃が消えると、そこにはまだまだ平気そうな顔をした棘の柵があった。辺りには棘の破片が転がっているけど、到底通れそうにない。

「はぁ、はぁ……これだけ魔力込めたのに!?」

「噓だろ……」


 気が滅入るけど、ここから抜け出す手段があるだけまだいい方だ。そう自分に言い聞かせて、〔亜空間倉庫(インベントリ)〕から取り出した中級魔力ポーションを飲む。そして、また大量に魔力を剣に込めて斬る。


 ポーションで魔力を回復して、〔聖剣〕で攻撃。1回、2回、3回と繰り返した時だった。〔聖剣〕で魔力を込め続けた剣に、ピキッとひびが入った。剣を振った時、剣身は何本かの棘と一緒に砕けてしまった。


「あっ……」

 〔亜空間倉庫(インベントリ)〕から予備の剣を取り出す。さっきまで使っていたものと全く同じ形と重さのその剣に、私は魔力を込めていく。魔力はゆっくり込めるほど物を壊しづらくなる。さっきも戦っている時に比べてゆっくり魔力を込めていたけど、今度はそれよりももっとゆっくり、丁寧に。


 何度も何度も殴りつけ、人が1人通れるくらいのすき間ができて、同時に剣も壊れてしまった。日は傾きはじめていて、オレンジ色の光がわずかに樹海に差し込んでいる。


 私たちは走り出し、聖剣の元へ急いで向かった。あの魔族がまだいるんじゃないか、まだ間に合うんじゃないか、という針ほどの望みにかけて足を動かした。

また次回もメリア視点です。

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