第二十話 樹海を彷徨う
6/24 アイオーサ → アギサと名前を変更いたしました。
―――(メリア視点)―――
王都から出て北に向かい、2日が経った。今、私たちはイロア樹海に居る。その最奥にある聖剣を目指してここまで来た。
聖剣とは、勇者のみ扱うことができる剣のこと。かつて勇者が使ったとされていて、その勇者が死ぬ前に、賢者と聖者の技術も借りてイロア樹海に封印した、と言う。
この場所は、まるで人気がない。まれに出てくる魔工人形はすごく強いくせに、倒すと地面に取り込まれてしまうからお金にならないし、道に迷いやすい。珍しい植物とかがあるらしいけど、リスクが大きすぎて誰も来ない。
ぐるりと見回しても樹ばかりで、足元には樹の根が張り巡らされ、たまに転びそうになる。所々にキノコが生えていて、〔鑑定〕によればどれもまあまあ珍しいらしい。
聞こえるのは、私たちが地面を踏む音だけ。全体的に暗い感じがして、どことなく不気味だ。屍人が出てきてもおかしくない。
「樹海まで来たはいいけど、これは探すのに苦労しそうだね……」
「聖剣を守るため、勇者の魔力でしか倒せない特殊な魔工人形が造られたらしいから、それの近くに聖剣があるはず。だから魔工人形を探す。流石に1体だけってことはないだろうし、それをしらみつぶしに探すかな……」
ソイフォルが〔索敵〕を使い、しらみつぶしに調べる。魔工人形以外に出てくる魔物は、狼系と熊系、彷徨樹系、螳螂系、蜘蛛系。木に化けている彷徨樹系と、木の上で待ち伏せしている蜘蛛系の魔物にだけ気をつけて進んで行く。
「右正面から魔物、3体の群れ!」
ソイフォルの声に反応して戦いに入る。現れたのは 狂狼の群れ。狼系の中級種の中でもかなり強い魔物。顎が強くて、噛みつく攻撃を多用する。噛みついた後、頭を滅茶苦茶に振り回して獲物を噛み千切るからこう名付けられたとか。
飛びかかってくる魔物を横に跳んで避け、下から切り上げる。剣は狂狼の身体に深い切り込みを入れた。痛みで動けなくなっているところに、ソイフォルが魔法でとどめを刺す。
<経験値を入手しました>
ケイディンは斧を振り下ろして、狂狼を一撃で仕留めていた。残った魔物は、一度飛びかかる素振りを見せた。
飛びかかって来たところを切ろうと思い、それに反応して身構える。
ところが狂狼は真後ろを向いて駆け出した。また飛びかかって来るとばかり思っていたから、肩透かしをくらった気分だった。
「「「「えっ? 逃げるの?」」」」
全員の声がそろった。あまりに狂狼の行動が拍子抜けだったから、何とも言えない空気になってしまった。
「……さ、進もう! まだ聖剣は見つかってないしね!」
逃げる敵にかなり身構えてしまったのがおかしくて、その気恥ずかしさを隠すように、努めて明るく、何事もなかったかのように振る舞った。
「うん……? 左に魔物、1体だけだね」
ソイフォルの報告にしたがって左に進むと、全身から鉄のような光沢を放つ細長い体の魔物、鉄螳螂がいた。中級種の魔物だけど、その強さは上級種とさほど変わらない。幸いなことに、あの魔物はまだこちらに気づいていないみたい。
それなら先制攻撃だ。
アギサが〔祈り〕を私たちにかけたのを確認してケイディンと突撃する。2人で鉄螳螂の両脇を抜け、同時に切りつける。身体が回転する勢い、助走をつけて跳んだことによる慣性、〔聖剣〕により威力を大きく上げた剣、さらにケイディンによる反対側からの斧の重い一撃で、鉄螳螂の上半身はほとんど切り離され、皮一枚でつながっている状態になった。
魔力:358/358 → 328/358
そして最後に、ソイフォルの〔岩弾〕、それも〔魔法改造〕で大砲に負けない威力になったもの。それは鉄螳螂の頭に叩きつけられ、そのまま上半身ごとちぎってはねとばしてしまった。
<経験値を入手しました>
ソイフォルが〔亜空間倉庫〕から中級魔力ポーションを取り出して飲む。そして顔を少ししかめる。効果は確かにあるのだけれど、味はどうにかならないのかな。
それから何時間も探したけど、結局目当ての魔工人形は見つからなかった。探索を切り上げて、野営をする。視界を確保するために焚火をつくり、テントを張る。焚火はソイフォルが、食事の準備はケイディンが、テントは私とアギサが担当している。濡れた布で身体を拭いて、装備の点検をして、眠りについて明日に備える。夜の見張りと火の番は、ソイフォル、私、ケイディン、アギサの順に担当する。
特に何事も無く夜は明けて、焚火を消し、朝食をとって、テントをたたむ。そして出発。索敵しながらイロア樹海をさまよう。
ソイフォルの〔索敵魔法〕に引っかかるものはどれも、ただの魔物だった。昼を過ぎて、今日もだめだったか、と思った時のことだった。
「正面に反応。結構強いね」
「はーい……」
けだるげに答えて武器を構える。樹々を何本か通過して、目に入った存在に対しての驚きのあまり、声も出せなかった。
横に伸びた、角ばった頭。その両目は紅く、怪しく光る。岩のように堅そうに見える土色の身体には紅い線がはしっている。そして、不釣り合いなほどに大きい両腕は周辺の樹々など簡単に倒してしまいそうだ。
「〔鑑定〕。……間違いありません、それが神話の魔工人形です!」
アギサがそう言う。
「この近くに、聖剣があるんだね! さっさと行きたいけど……、この感じは、逃がしてくれなさそうだよね……」
ズシン、ズシン、と歩き出した魔工人形のその両目は私たちの方を真っ直ぐ捉えている。私たちの歩きと変わらない速さだ。延々と追ってきそうな雰囲気だし、ここで倒したい。
アギサが〔祈り〕を使う。道中で彼女の〔祈り〕のLvは上がり、使った相手の身体の周りに光の粒が見えるようになった。それは、そのスキルの及ぼす力が強くなった証。聖職者の能力は強力になればなるほど、眩い白い光を伴うようになる。
私は、武器を構えてケイディンと一緒に走り出した。
「〔雷弾〕!」
ソイフォルの正面の魔法陣から電気の球が放たれ、魔工人形に当たるけど、歩みを止める様子はない。
「だめか……。〔水牙〕!」
地面から生えた水の塊は、あれの手足に絡みついた。魔工人形の動きが鈍る。そのすきに切りかかる。
神話では、勇者の魔力、その聖なる力が弱点になるようにつくられている、とされていた。だったら、〔聖剣〕を使った攻撃はよく効くはず。
聖なる力を込めた一撃は、魔工人形の左腕に大きな亀裂をつくった。一方、反対側の腕に切りかかったケイディンは、
「かったぁ!?」
斧の攻撃をはじかれてしまった。本当に勇者の魔力に弱いようにつくられているみたい。
水の塊を振りほどいた魔工人形が、カウンターだとばかりに腕を叩きつけてくる。
「ぐっ……いける、受け止められるぞ!」
ケイディンは正面から、両手で盾を支えて受け止めていたけど、私はそれを避けた。
と同時、地面が爆発した。私は吹き飛ばされてソイフォルたちのいる場所に転がる。
体力:467/467 → 395/467
「メリアさん!? 〔治療〕!」
「〔風弾〕!」
アギサとソイフォルのカバーが入る。
「いったぁ……」
起き上がりながらさっきまで自分がいたところを見ると、魔工人形の腕が叩きつけられた地面が沈み、クレーターになっていた。ケイディンがあの威力の攻撃を受け止めているのが信じられない。無理してるのかな……
すぐにケイディンの元へ向かう。ケイディンは次の攻撃に備えて、盾を構えている。
「〔聖なる一筋の光〕!」
魔力:273/358 → 248/358
走りながら、魔法を右腕に放つ。アギサが使っているものと同じで、魔法陣や詠唱がない魔法だ。
今、魔工人形の意識がケイディンに向かっている。たぶん〔攻撃集中〕を使っているんだろう。自分が意識の外にいることを利用して、一気に近づく。今度は魔力を強めに込めて切る。
「ハァッ!」
かけ声とともに、剣を思いっきり振りぬく。そのまま一回転して、頭を狙って光の刃を飛ばす。
魔力:248/358 → 178/358
剣は白く光る軌道を描いて、魔工人形の腹を通過した。一拍おいて、その頭を光の刃が通り過ぎる。
頭と腹が同時に切断され、
<経験値を入手しました>
<Lvが上がりました>
私たちの勝ちを決定づける知らせが来た。
魔工人形の身体はボロボロと崩れ、地面に落ちてゆく。最後に残ったのは、紅い球。空中にふわふわ浮かんでいる。
【勇者ヨ、我々ヲ脅カス悪ヲ打チ倒ス使命ヲ背負ッタ者ヨ】
声が聞こえる。あの球がしゃべっているのかな?
【コノ先ニアル聖剣ヲ手ニ取リ、ソノ使命ヲ果タセ。聖剣ハコノ方角ニ進ンダ先デ、其方ヲ待ツ】
それだけ言うと、紅い球はまるで水に落ちるみたいに波紋をたてて地面に沈み、それと同時に魔工人形の身体をつくっていたものも地面に沈んでいった。
辺りは静かになった。かすかに風が木々とその葉を揺らしている。
「『コノ方角』って、あっちの方のこと?」
不思議なのは、言葉で「コノ方角」と言われただけなのに、どの方角をさしているのか分かったこと。
「俺もそう思う」
「僕も」
「私も同じです」
全員の意見がそろったということは、この方角に進むので間違っていないということなんだろう。
「行こう」
そう言って私は歩きだした。続いて、他の3人も歩き出す。
次回もまた、メリア視点です。
<〔魔法改造〕と魔術の消費魔力について>
〔魔法改造〕...魔力を追加で消費することで、魔法陣を無視して魔術の効果に変化を加えられる。追加で消費できる魔力には限界があり、〔魔力操作〕のLvが高いほど、効果の改変に必要な魔力量は減少する。
本来魔術の効果の改変は、魔術と魔法陣をある程度理解する必要があり、魔法陣の改変、新しい魔術の作成には精密な設計と計算が求められます。言ってしまえば、プログラミングです。完璧な魔法陣を自作するのは困難で、消費魔力量が多かったり、詠唱が長かったり、思い通りの効果にならなかったり、そもそも魔法陣が作動しなかったり、ということが大半です。
〔○弾〕系...15(〔魔法改造〕での追加消費魔力量の上限:35)
〔○牙〕系...25(〔魔法改造〕での追加消費魔力量の上限:45)
〔索敵〕...40(〔魔法改造〕での追加消費魔力量の上限:60)
〔魔力砲〕...任意の魔力量、消費した魔力に応じて魔法の持続時間と威力が変化(〔魔法改造〕での追加消費魔力量の上限:なし)
<魔物について>
狂狼...体毛は灰色、目は茶色。全長約130cm、体高約70cm、体重約35kg。1~3匹で行動する。顎が発達しており、噛みつき攻撃を多用。食性は雑食で、敵であれば、たとえ同じ狂狼でも共食いをし、仲間であっても、その死体を食べる。
鉄螳螂...鈍い銀色で、金属光沢を放つ外骨格を持つ、刃物と打ち合えるほどに腕の鎌が硬く、鋭利になったカマキリ。体高約3m、体重約75kg。基本的に単独で行動する。繁殖期には、つがいがよく見られるが、メスがオスを共食いすることはない。闘争心が強く、視界に入った生物は手当たり次第攻撃、捕食する。




