第十九話 未然防止
さて、暗殺者たちを誘拐したまではいいが、どうやって情報を絞り出させるか。……それよりも武装解除が先か。
奴らの武器は、腰の後ろに提げていたスティレットだった。十字架のような形状で、白銀の刃には紫色の溝が螺旋状に彫られている、何とも禍々しい見た目の短剣だ。
「〔慧眼〕」
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パペットスティレット……刺した対象の精神に干渉し、これと対応するパペットコマンダーを通して対象を意のままに操る能力を持つ短剣。
鋭利さ:20
硬度:60
特殊効果:〔精神操作〕
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ただの禍々しい短剣ではなかった。その奇怪な見た目が気になり興味本位で調べただけだが、面白い情報が手に入った。これについても話を聞くとしよう。
奴らは暗殺者だ、服に、場合によっては体内にも暗器を仕込んでいるだろう。それらをどうするか。全て取り除くことは不可能に近いし、時間がかかり過ぎる。どうにか別の手段で、暗器を使えなくさせたい。
そこで俺は一つ、良い案を閃いた。奴らの手の腱を切れば良いではないか、何も暗器を取り除くことに躍起になる必要は何処にもない。足の腱も切って逃げられないようにするのも忘れてはいけない。
失血死しないよう、最小限の傷で手足の腱を切断する。1人の右上腕にオロクロスで切り込みを入れると、
「ギャアァ!」
痛みで目覚めて暴れ出した。しまったな。失神して1、2分しか経っていないため、これ程度ではまだ起きないと思っていたのだが。〔精神攻撃〕で落ち着いてもらおう。
魔力:3250/3795 → 3190/3795
「ア、ァ……」
良し、はやく残りの腱を切ろう。
全ての腱を切られてから、奴は正気に戻った。
痛みで失神から復活する辺り、他の奴らも同様、浅く失神しているのかもしれない。それならばなおさら、急いで手足の腱を切り、逃げられないようにするべきだろう。順番に切ると目を覚まさせてしまうから、〔武具支配〕で同時に切る。弾丸のように回転させず、そのまま打ち出す。
「ガッ、アアァ!」
「グッウアァ!」
「アアアァ!」
奴らの悲鳴が森に空しく響く。
「叫んでも誰も助けに来ないぞ、ここは王都から少し遠い森の中だからな」
「ヒッ……。何なんだ、なんなんだよお前はぁ!」
「俺のことはどうだっていいだろう。それより、今から言う質問に答えてくれ」
「この、悪魔が!」
「……悪魔? まぁ、いい。それで、質問だ。お前らは、何故議会の平民代表を襲った? それと、この短剣は何だ? 一体誰からの物だ?」
「……俺は何も知らない!」
「答えないか、そうだよな。どうしたら答えるだろう。……そうだ、こうしてみよう」
俺は1人の右足にオロクロスを突き立てる。
「アアァァ! やめろ、やめろ!」
「お前がはやく答えればそうしよう」
「俺たちは本当に何も知らないんだ!」
まだ白を切るか。仕方がない。コイツは見せしめとして使おう。
【オロクロス、棘を生やせるだけ刃に生やせ。単純な形でいいぞ】
【3、2、1、それっ!】
掛け声と同時、オロクロスから無数の棘が生える。奴は痛みに泣き叫ぶが、それを無視してオロクロスを引き抜く。そしてオロクロスをそのまま顔面に叩きつける。奴はうめき声のような音を出してから、沈黙した。
<経験値を入手しました>
「死の直前まで白を切り続けるとは、たいした奴だ。さて、はやく質問に答えてはくれないか? 用事は手早く済ませたいんだ」
【……初めてにしては、手際いいね?】
【相手の嫌がる事を徹底的に為すだけだからな】
【ペルシオ、あっちの暗殺者が何か言おうとしてますよ。それと、コイツらを尋問した後、私が返り血を浴びやすいように殺して下さいね! たっぷり血を吸いたいのです!】
【……わかった】
スクロアルマの狂気に気圧されながら、俺はスクロアルマが示した方の暗殺者を見る。
「俺たちが情報を話したら、解放してくれるか?」
取引を持ちかけてきたか。この形勢でそれをするのは事態を甘く見過ぎではないか、とも思ったが、情報を引き出せる予感がしたため、
「ふむ……。それは考えておこう」
と曖昧に答えた。
俺の返答を聞くなり、奴は希望にすがるように、
「俺たちは、ノストルギア伯爵の部下だ。『これで、平民代表らを刺して来い』と命令された! その時、その短剣も渡された。他は本当に何も知らない!」
と捲し立てた。
「成程、情報提供をどうも」
そういって俺は、情報を話した奴の前まで、歩いていき、止まる。
「は、はやく解放してくれよ!」
俺はその台詞に深く頷く。
1拍置いて、奴を勢いよく斬り裂いた。
「なん、で……」
<経験値を入手しました>
「おい、話が違うぞ!」
俺は話を無視してオロクロスを振るい、次々に奴らを仕留めていく。
<経験値を入手しました>
<経験値を入手しました>
「暗殺を試みるということは、最悪こうして全滅するリスクを受け入れるということ。舌を噛むなり毒を飲むなりして自害すると思っていたが、その覚悟すらなく情報を吐くとは……」
【うわぁ……】
【助けるという約束をした覚えは無い。約束破りだけはしないと誓っている】
俺は暗殺者の亡骸を〔異次元保管庫〕の中にしまいながら呟く。
「さて、これで最悪の事態が起こるのを食い止めたわけだが……」
【伯爵邸に泊まっている勇者たちは大丈夫なの?】
【全くもって信用ならなくなった。それに、伯爵から訊き出したい事項が幾つかできた。戻るぞ】
と意志を伝えたところで、あることを思い出した。
【……しまった。奴らを〔眷属化〕の実験台にすれば良かった……】
気付いても既に手遅れだが。
【そう言えば欲しいって言っていましたね、実験台。ギルドマスターに言ったあれは、ただの思いつきではなかったのですか……】
過ぎてしまった事は仕方がない。今は兎角、素早く戻らなければならない。あの伯爵がパペットスティレットを持っている可能性がある以上、勇者一行を放っておくことはできない。
〔空間歪曲〕は、視界の届かない場所、遠く離れた場所への移動は酷く不正確なものになる。まるで使い物にならないので、リスクを考慮すると使うべきではない。
その代わりに、〔制限解除〕で身体能力を強化して、森を駆け抜けて王都まで移動する。
【わぁ、速い速い!】
紫電を纏い、バチバチという放電の音と共に森を駆け抜ける。〔虚構〕を使っているため、周囲に音は聞こえておらず、光も見えていないだろうが。7分ほど走り続けて、王都に着く。流石に速いな、自分が突風になった気分だった。
王都の壁に飛び乗り、中に侵入する。西から入ったから、このまま直進すれば良いはずだ。〔制限解除〕はまだ切らない、ノストルギア伯爵邸の前に着くまで走る。
夜の王都を風の様に駆け、伯爵邸の前に着く。もう信用ならない。伯爵邸の扉の正面に立つ。そして、〔虚構〕と〔探査〕。
魔力:3130/3795 → 3030/3795
誰も1階に居ない、皆寝ているようだ。昼に比べ、明らかに人の目が減っている。今のうちに侵入しよう。俺は〔虚構〕を掛けた〔空間歪曲〕で移動し、屋敷の1階の床に足を付けた。
魔力:3030/3795 → 2760/3795
勇者一行が寝ているのは2階、階段を上って右手の奥にある部屋。伯爵がパペットスティレットを所有していることが判明した以上、他の危険な代物を所有する可能性に留意するべきだ。流石に彼女たちが居る部屋の何処かに仕込んでいるとは思えないから、そこに踏み入るつもりも無い。
彼女たちが居る部屋に侵入しようとする不審な輩が来た時のためドアの横で待ち構える。出来る限り気配を消している為、存在に気づかれないと思うが。
そのまま一晩中立ち続けたが、ついに誰も来なかった。杞憂に終わったが、それでも彼女に何事も無くて良かった。
部屋から出て行く勇者一行を屋敷から見送り、ペンダントの魔力で彼女たちが王都を出たことを確認してから、俺は次の仕事に移る。さぁ、伯爵よ。何故勇者を招いたか、勇者に何かするつもりなのか。吐いてもらおう。
次回は、メリア視点に移ります。
6/11 ミリア→メリア キディミナス→ケイディン アヨーサ→アイオーサ と名前を修正しました。




