第十一話 猪革命
ボス戦。
林の中の巨大生物の正体を見つけた。奴は、不自然に開けている場所に居た。元々開けていたのではない。それは周りに散乱している樹と魔物の残骸を見れば明らかだ。
金色の体毛と立派な牙は返り血で濡れ、黒い目を獰猛に輝かせている。周囲の木と同じくらいに体が大きく、強烈な威圧感を放っている。
「王猪……!」
大剣や戦斧でないと貫けない皮膚と毛皮、好戦的な性格、そしてその巨体から繰り出される、周囲に甚大な被害をもたらす攻撃が特徴の猪系魔物上級種。
一兵卒に過ぎないCランク冒険者が1人で相手するべき魔物では無い。Cランク冒険者10人、又はAランク冒険者1人なら太刀打ちできるだろうが――
奴は丁度獲物を喰い終わったようで、こちらを向く。
――邪法があれば、一般的なCランク冒険者よりずっと上手く戦闘できる。コイツを討伐する事も、不可能では無い!
奴は、まるでゴミを処分するかのような、おざなりな突進をして来る。
……隠形をしていたにも関わらず、さも当然の事のようにこちらへ向かって来るとは。野生の勘でこちらの場所を察知したのか。取るに足らない邪魔者と認識されているようだ。
俺は〔水螺旋〕を奴の顔目掛けて放った後、横に跳んで突進を避けた。
眼前に差し出された横腹に投げナイフを8本、〔武具支配〕で打ち込む。
魔力:2990/3650 → 2774/3650
しかし、〔水螺旋〕は奴の皮膚を少し抉った程度で勢いを失い、投げナイフは体に浅く刺さっただけで、2本は刃の根本から折れてしまった。
王猪は反撃に驚いたようで、無理矢理方向転換してこちらに駆けてくる。
奴の全身から怒気と殺気とが湯気となって溢れている。
王猪は知能が高いから、また同じように横に避けられて反撃をくらうのを警戒しているはずだ。今度はあえて正面から反撃する。
位置を計算して、〔惨劇〕の棘が奴の頭を突き上げるように。
魔力:2774/3650 → 2714/3650
棘は奴の頭に突き刺さり、それ以上深く刺さらないようだが、そのまま奴の頭を上に持ち上げる。
棘の根本の方からミシミシと軋む音がする。
突進の勢いはそう簡単に止まらないので、奴の頭はどんどん持ち上げられていきながら、胴体はそのまま直進する。
結果、奴は縦に回転し、腹を見せて地面に倒れこむことになった。
奴の胴体に当たって根本から折れてしまった〔惨劇〕の棘を消してから、俺は奴の腹目掛けて猛攻をしかける。
「……〔制限解除〕……」
短剣に魔力を纏わせ、奴の真上に向けて高く跳び上がる。
まずは〔幻斬〕を4発、奴の腹へ。
次に、投げナイフ6本を奴の腹に、折れた投げナイフの刃2本を奴の眼球に、〔武具支配〕で弾丸のように打ち込む。
最後に、手に持った短剣を落下の勢いのまま突き立てる。
魔力:2714/3650 → 2474/3650
眼球への攻撃は失敗に終わったものの奴の腹は大きく裂け、内臓が見えるほど深い傷を負わせる事ができた。
できれば内臓を掴んで引き摺り出したかったが、俺がそうする前に奴は立ち上がってしまった。あのまま内臓をつかんでいれば、巨体に押しつぶされていただろう。
体勢を立て直した奴が鋭くこちらを睨んでいる、この至近距離で。当然、奴の間合いの内側だ。
「しまっ……!」
気付いた頃にはもう手遅れだった。奴は頭の牙を横に薙ぎ払う。俺はバットに打たれた野球ボールのように吹っ飛んでいき、鈍い音をたてて樹に叩きつけられた。
体力:516/516 → 145/516
牙で殴られてあばら骨が、樹に打ちつけられて背骨が折れた。
骨の破片が内臓に刺さり、咳に血が混じる。
〔再生〕による体の修復が始まるが、それでも立ち上がるのには時間がかかりそうだ。
……衝撃で意識が飛ばなかっただけ、良しとしよう。
王猪は俺を確実に仕留めようと、必殺の攻撃を放つ。
奴は1つ力強く吠えると、体に電流を迸らせ、風を纏って突進して来たのだ。
〔嵐の爪痕〕、王猪が使うと記録されている攻撃。威力が極めて高く、周辺への被害も大きい事から、これを発動させる前に討伐するのが定石とされている。
普通ならこの状態は死が確定するが、丁度都合の良いことに、俺には〔空間歪曲〕がある。
体がまともに動かせなくとも、邪法は使える。例え両手足をもがれても、臓腑を全て掻き出されても、魔力の操作に支障は生じない。
真下の空間と向こうの樹の傍の空間とを魔力で裂き、俺は亀裂に落下するようにして移動する。
魔力:2474/3650 → 2274/3650
俺が背中を預けていた樹は、〔嵐の爪痕〕で木っ端微塵になった。
背骨が癒えて、やっと立てるようになる。動くたび痛みがはしる。
しかし大怪我を負っているのは奴も同じ、切り裂かれた腹から血を垂らしている。
奴は視界から突然消えた俺を周りを見回して探す。俺を見つけると同時、奴は突進して来た。
腹からの出血と〔嵐の爪痕〕の反動で明らかに動きが鈍っているようだ。ここで仕留める。
〔精神攻撃〕を奴に。
魔力:2274/3650 → 2214/3650
奴は硬直したが、すぐに立ち直る。
その自分の体勢に意識が向いたのが狙い目。
奴の両眼に折れた投げナイフの刃を〔武具支配〕で弾丸のように打ち込む。
魔力:2214/3650 → 2190/3650
眼球を刺された王猪は、その痛みのあまり、突進をやめ、顔を仰け反らせる。
さっきつけた腹の傷に邪法を叩き込む。
〔惨劇〕の棘の山が無慈悲に奴の傷を抉った。
魔力:2190/3650 → 1590/3650
仕留め損ねないようにかなり多め、いや過剰ともいえるほどの数の棘を出したが、まだ倒れない。
懐に飛び込んで奴の腹の傷にまた攻撃したいが、それを埋め尽くしている〔惨劇〕の棘を抜くと奴の体を固定できなくなる。今でも痛みでかなり暴れているというのに奴を放そうものなら、誰も奴を抑えられず、周囲に甚大な被害が及びかねない。
となると、攻撃がよく効きそうな場所は……また眼球か。それを貫通して脳まで達すれば、致命傷になり得る。
奴の顔に飛びかかった。〔精神攻撃〕で奴を再び一瞬硬直させ、顔に飛びつく。
「……〔制限解除〕……」
これは奴の顔から振り落とされないためと、火力の上昇のためだ。
そして、奴の眼球を魔力を纏わせた短剣で貫く。
魔力:1590/3650 → 1490/3650
短剣は、〔制限解除〕による紫色の電流とともに、一瞬で奴の脳へと達した。
傍から見れば紫色の雷が奴に攻撃したように見えることだろう。それほどまでに、速い刺突だった。
王猪は脳を穿たれたと同時に動きをぴたりと止めた。息の根を止められても、決して地に這いつくばる真似はしなかった。
<経験値を入手しました>
<Lvが上がりました>
<スキルのLvが上がりました>
「虐げられる立場の俺が、王と名の付くコイツを殺す……、まるで革命だ……。いや、俺が真に討つべき王は、コイツでは無い。本当に『革命』というならば、あの野郎の首を獲らなければ……」
死んでもなお王者の風格を見せつける王猪を〔異次元保管庫〕にしまう。コイツを倒しても、氾濫は収まらない。まだ、狩り続けられる。
〔探査〕を使う。勇者一行の正面の魔物が急激に減少している。考えられるのは……メリアの〔聖剣〕、その光の刃か。伝説の通りならかなりの範囲を攻撃できる。魔族はまだ倒していないらしい。
再び気配を消して、奥へと向かう。
やる事は単調。〔雷雨霰〕を乱射して、生き残ったのを仕留めるだけだ。この邪法の最適化も兼ねている。ついでに断続的に〔探査〕を使って勇者一行の様子を確認する。
魔物の群れを発見。小鬼戦士が4体に森狼が6体、互いににらみ合っているようだ。
〔雷雨霰〕を放つ。
魔力:1517/3720 → 1352/3720
魔力の奔流が雷の様に奴らを焼き焦がす。生き残ったもののうち、虫の息のものは踏み抜いて殺し、比較的軽傷のものを短剣で切り殺した。短剣はさっきの王猪との戦いで大分消耗してしまっている。また修理か……
魔力の雷で焼いて、残りは一体ずつ殺す。群れを構成する魔物の数が少なければ、代わりに〔惨劇〕で範囲攻撃。
それをしばらく繰り返して、他の冒険者たちが帰還するのに合わせて俺もディッセルに戻った。
次回、勇者視点。
<魔物について>
王猪...体毛は金色、目は黒色。体高5mで全長8m。非常に好戦的で、殺した獲物の肉を食べて暮らす。〔嵐の爪痕〕という風と雷を纏って突進する攻撃が強力で、それを使われたら必ず隠れること。直撃したらまず耐えられない。森の最深部に稀に現れる。




