第十話 氾濫鎮圧
不定期投稿ですみません。おそらくこれからも不定期になるかと。
町では鐘がなっていた。あれは異常事態を知らせるものだ。勇者一行は既にギルドに戻っている、あちらでも氾濫を確認したようだ。
流石にこの人混みの中で勇者一行が俺を見つけることは困難だろうが、俺は一応気配を消して冒険者ギルドに入る。
「これより氾濫の鎮圧を開始する! 北から来る魔物共を殲滅しろ!」
「オオォォ!」
ギルド内が雄叫びに包まれる。冒険者たちは我先にとギルドから飛び出し、ディーズ丘陵へ向かったていく。勇者一行も例外ではない。
俺も遅れてディーズ丘陵に向かう。目的地は林。流石に邪法を見せるわけにはいかないからだ。幸い、死角から襲われるのを警戒しているのか林の奥へ奥へと深入りする冒険者はかなり少なかった。両手で数えられる程度だ。
俺は人目を避けて奥へ進む。改めて、〔探査〕を使う。
魔力:3555/3585 → 3525/3585
「ざっと数えて範囲内に100? やはり、異常な量だ……。いい経験値になりそうだ」
これ程の魔物の密度なら、魔物同士での殺し合いにより、既に強力な個体、上級種に至った魔物も居る事だろう。だが、言ってしまえば、俺にとって今の状況は目の前に豪華な食事が並べられているようなもの。強くなり、勇者一行を守り抜くための踏み台。ありがたく頂かない訳がない。
流石に全て倒せる訳ではないが、氾濫鎮圧完了までに100体ぐらいは狩りたい。
俺は魔物たちの中に突っ込む。これほどに様々な種類の魔物がいるのだ。少し派手な魔法を使ったところで、魔物が放ったと思われるだろう。
俺は〔雷雨霰〕の為に、魔力を操作し始める。魔力はこのままなら、エネルギーに近しい状態にある。これを圧縮し、外側から魔力の殻で押さえつけ宙に浮かべる。そして、その殻の数ヶ所に穴を開ければ……
同時、辺りは光と轟音に包まれる。術者にはこれらによるダメージが無効化されているのか、目が眩むこともなければ鼓膜が破れることもない。破壊的な空間の中、怪人の目は魔法がもたらした影響をしっかりと捉えていた。
見えたのは、阿鼻叫喚、地獄が現れたようだった。全身を焼かれ物言わぬ炭と化したもの、光と音で目と鼓膜を破壊された様で、うずくまっているもの、体が痺れ、痙攣しているもの。狙った魔物全てがダメージを負った訳ではないが、魔力の奔流が直撃したものは例外なく重傷或いは致命傷を負っている。
魔力:3525/3585 → 3360/3585
<経験値を入手しました>
無事だった魔物は今の魔法に怯え、こちらに近づいてこれないようだ。戦闘不能になった魔物の首に短剣を突き立て、1体1体丁寧に、手前から順番に殺していく。
<経験値を入手しました>
<経験値を入手しました>
……
戦闘不能になった個体を全て殺した直後、森狼が飛びかかってくる。
俺は飛びかかりに合わせ、タイミング良く短剣を上に突き上げる。
短剣は森狼の顎から脳を真っ直ぐ貫いた。
脳まで刺さったのを感じ、すぐに引き抜く。
奴は顎から脳に穴を開け地面へ着地する。
しかし奴は既にこと切れており、着地した直後、倒れ転がる。
<経験値を入手しました>
<Lvが上がりました>
<適正職のLvが上がりました>
周りの魔物には投げナイフで対応する。
8本全ての投げナイフは魔物たちの頭に突き刺さる。
俺はそれらに〔武具支配〕をかけ、一気に引き抜く。
<経験値を入手しました>
<適正職のLvが上がりました>
<条件を達成しました。新スキルを習得しました>
<条件を達成しました。新スキルを習得しました>
<条件を達成しました。新魔法を習得しました>
奴らの頭の赤い噴水を横目に、他の魔物に向かって投げナイフを弾丸の様に射出する。投げナイフは全弾命中。〔武具支配〕を切る。
魔力:3589/3650 → 3477/3650
<経験値を入手しました>
今投げナイフで穿った魔物のうち幾つかはまだ息があるようだが、そのうち失血死するだろう。
現在無傷の魔物は暴れ猪が3体、暗殺蛇と酷似した斥候蛇が2体。
奴らは俺のすぐ近くに居て、さっき〔探査〕を使ってから大きく変化が無ければ、半径100メートル以内には他の魔物は居ないはずだ。
俺は3体の暴れ猪に向かっていく。奴らは時間差で突進をしてくるが、最小限の動きで避け、横腹に向かって短剣を振り抜く。木にぶつかり突進をやめた奴らの目を狙って、突く。
<経験値を入手しました>
残りの2体は、俺に向かって突進をしてくる。が、奴らは俺の直前で止まり、牙を振り上げてくる。1体の牙は短剣で受け流し、もう1体の牙をガッチリ掴み、横に投げ飛ばす。
投げ飛ばさなかった方の暴れ猪の頭に短剣を突き立て、投げ飛ばしたもう1体と向き合う。
<経験値を入手しました>
投げ飛ばされた暴れ猪は未だ立ち上がれていない。投げ飛ばされた拍子に頭を打ち、脳震盪になっているようだ。これは好都合。素早く近づき、無防備に見せられた腹を搔っ捌く。
<経験値を入手しました>
俺が動きを止めたのを見て、斥候蛇たちが襲いかかってくる。その長い体を断ち切ると見失いかねないので、首の付け根を狙って短剣を振るう。綺麗に首と体は別れ、傷口は紅を吐き出している。
<経験値を入手しました>
もう一匹は頭を思いっきり踏み抜く。本来格闘家の適正がないと出来ない様な芸当だが、ここは怪人のステータスに物を言わせる。
<経験値を入手しました>
<経験値を入手しました>
放置していた奴らが失血死したようだ。
奥へ奥へと進み、〔探査〕を使う。より強力な個体は一体何処に?
魔力:3477/3650 → 3447/3650
林の方には巨大な魔物が1体、数多の魔物の群れを越えた先に居る。恐らく、あれはサイズからしてかなり強力な魔物だろう。
しかし、草原の方の反応……流石に魔物の数が多すぎやしないか? 掠める程度しか草原を索敵範囲に含んでいなかったにも関わらず、魔物らしき存在が10体検出されている。
草原の様子が気になった。もう一度〔探査〕。今度は索敵する範囲を草原の方に広げる。勇者一行に気付かれる可能性を考慮し、〔虚構〕による偽装工作も欠かさない。
魔力:3447/3650 → 3347/3650
ここら一帯の地形情報、生物の位置などが一気に脳にインプットされ、頭は割れそうなほどに激しく痛んだ。
半径数キロメートルもの範囲の事を一気に調べたのだ、あまりの情報量に脳が悲鳴を上げるのも当然だ。
大量の魔物の群の後方に、5体の固まった群れがある。その中央の存在はピーキットと似た形状だ。おそらく魔族だろう。周りの4体の魔物は護衛のようなものか。これらは勇者一行に倒してもらおう。今の彼女たちでも十分に戦えるはずだ。
俺はそう判断して、林の奥へ向かう。道中、習得したスキルと魔法を調べる。おそらく数日前に目を通した手帳に書いてある魔法の内の幾つかがまともに使えるようになったのだろう。
「〔慧眼〕」
――――――――――――――――――――――――
<スキル>
〔識魂〕...魂を認知できるようになる。どの感覚から認知されるかは人によるが、大抵は視覚を以って認知できるようになる者が多い。人に死体を操り、魂を操る死霊学を研究する者には必要とまでは言わずとも重要なスキルであり、死霊学に関して造詣の深い者は、大抵このスキルを所持している。
〔魂狩り〕...行き場の無い魂を奪取、保管しておくことが可能になる。死霊学の1分野である霊魂学に携わる者には必須のスキルである。
<魔法>
〔付喪術〕...魂同士の合成、物体への魂の付与を行う。魂を付与された物体は「付喪」に変化し、魔物のように振る舞う。
消費魔力:魂同士、または物体と魂の反発力に応じて変化
〔眷属化〕...対象の魂に働きかけ、眷属にする。眷属となった対象は、術者の力に応じて強化されるが、術者に意図的に害を及ぼす行為は出来なくなる。術者は眷属に「制裁」を下すことができる。「制裁」は眷属に耐え難い苦痛をもたらす。「制裁」は術者の意志で開始、終了させられる。
消費魔力:術者の魂を基準とした対象の魂の相対的な強さに応じて変化
〔水螺旋〕...錐揉み回転する高圧の水流を生成し、対象を削り取る。
消費魔力:中
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魂に関係するものが多い。〔死霊使役〕という文字を見て、死霊学について学び始めたのが功を奏したようだ。
<新魔法〔付喪術〕を習得しました>
<新魔法〔眷属化〕を習得しました>
<新魔法〔水螺旋〕を習得しました>
魔物たちの鳴き声が聞こえる。奴らはすぐそこに居る。早速新邪法の実験台に。
〔水螺旋〕……その名と説明からして、魔力の液体を発射する邪法だろう。〔幻斬〕と同系統だが……
魔力の液体化を、もっと訓練しておけば良かった。
察知される限界まで魔物たちに近づく。魔力を凝縮して固体化、そして柔らかくしていって……、水流が、ここから見える魔物たちを一直線に貫くように、捻りながら押し出す。
生み出された水流は清流のように透き通った水色で、光を反射しながら魔物たちに向かって行く。
魔物たちにそれが当たった瞬間、透き通るような水色は、鮮烈な赤色に染まった。
己が持つ暴力性をあらわに、魔物たちを食い破らんとし……そうして、1体目の魔物を貫いた直後、パッと水流は霧散した。
魔力:3347/3650 → 3227/3650
<経験値を入手しました>
やはり、駄目だったか。この邪法を使う為には、今の俺では至近距離まで近づく必要がある。このままでは実用性も何もあったものでは無い。余裕が生まれたらこれの訓練をするとしよう。
魔物の死体から何か人魂のようなものが抜け出て、その場にとどまっている。〔慧眼〕を使うと、それが魔物の魂であることが分かった。魔力の糸を伸ばしてそれを捕まえ、〔異次元保管庫〕の中へと送り込む。
研究材料として、集められるだけ集めておこう。
魔物たちはさっきの奇襲に動揺しているようだ。
俺は隠れていた木の陰から飛び出し、正面にいる暴れ猪に切りかかる。
同時に、〔武具支配〕で投げナイフを弾丸のように周囲の魔物に向けて射出する。
持っている短剣と射出した投げナイフは寸分違わず魔物たちの脳天を貫いた。
魔力:3227/3650 → 3161/3650
<経験値を入手しました>
辺りを見回すと、9体生き残った魔物が居た。全員〔惨劇〕で仕留める。
地面から突き出た棘は魔物の頭蓋を地面に縫い付けた。
魔力:3161/3650 → 2981/3650
<経験値を入手しました>
魂によっては、死体から出てこないもの、上へ上へと浮上し、消えてしまうものもあった。回収できたのは10パーセントぐらいだろう。どのようなものを回収したのかは、後で改めて確認しよう。
この奥に抜きんでて強い魔物が居るはず。さあ、是非とも俺の糧になってもらおう。
「中ボス戦」の開始だ。
<魔物について>
毒蛇...全身緑色の、全長80cmの蛇系の魔物。噛む力が弱い代わりに毒が強力で、噛まれれば出血毒が体中にまわり、体内出血、失血などで死に至る。




