第07話
結局三日間は何事もなく過ぎ、俺たち三人と商人のオッサンの幌馬車は無事にワイヤス子爵領のエスキアへと到着したのだった。
結構な距離を旅してきたはずなのだが、所詮は田舎町から田舎町に移っただけ、見える光景はほぼほぼコロナドと同じだ。
「いやー、何事もなくて良かったなぁ」
「そうだねぇ。そういやおじさんはワイヤスまで行くんだろ、ここからどうするの?」
「ああ、この町にもうちの店の支店があるから、そこで人手を借りてくのさ。ワイヤス領内ならたいして危険なこともないしな」
「そうなんだ」
「ヘックス商会は結構色んな町に支店があるからさぁ、冠婚葬祭で装飾品や儀礼品なんかが必要になったらぜひ寄ってくれよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
この三日間でひたすら話して結構仲良くなった商家のおじさんとは、エスキアの冒険者ギルドの前でお別れとなった。
依頼の完遂で貰った報酬三十枚は約半分をリーナさんに渡して、残りは俺たちのものだ。
「リーナさん、これ、分け前です」
「待ってくれよ、今計算するから」
リーナさんはいつものように地面の土に式を書き付けて計算をし始めた。
俺は別にこうされる事でリーナさんに信用されていないなんて思わない。
彼女には自分なりのやり方があって、冒険者にとってそれを守るということはとても大切なのだ。
悪い習慣というものは変えなければまずいが、良い習慣を変えるという事も、同じぐらいまずいのだ。
「うん、合っているようだ」
「ではこれを」
「よしよし」
彼女は銀貨を財布に入れ、それを懐へと大切にしまい込んだ。
「リーナさん、これからどうするんですか?」
「また明日の朝からギルドの入り口に立つ」
つまり、またいつもの口上でパーティを募るつもりなんだろう。
最初こそ面食らったが、リーナさんのやり方は常に正しい。
腕っぷしがいくら強かろうが、一人で行動する冒険者というものはあまりにも無力だ。
単独行動中に怪我をすれば重傷でなくても死ぬ確率がグンと高くなるし、獲物を狩ったとしても町へ運ぶこともままならない。
彼女が固定パーティを組まない事も、彼女にとってはそれが良い習慣なのだろう。
「俺、しばらくワイヤス領内の町を回って商売をしてからもっと西に向かおうと思うんですけど、護衛ということで一緒に来ませんか?」
「報酬は?」
「その月の稼ぎの一割ってとこでどうですか? もし儲け無くても最低銀貨八枚は出します」
「少し待ってくれ、考える」
「わかりました」
リーナさんは腕を組みながら曇りかけの空を見上げ、先の計算をし始めた。
信用のおける彼女が一緒に来てくれれば安心なんだが、無理強いはできないしな。
じっくりと考えてくれ。
「クーシー様、あたしは銀貨何枚っすか?」
「お前は飯代も宿代も装備代も俺持ちだしな、月に銀貨二枚ってとこだな」
「銀貨二枚って何が買えます?」
「そこらのパンなら腹がはちきれるぐらい買えるけど、一度に買うなよ、腐るぞ」
俺はサボイの手に皮の巾着に入れた銀貨二枚を握らせた。
銀貨十枚もあれば、平民の三人ぐらいなら切り詰めながらだけど生活していけるんだ。
銀貨二枚なら毎日食い歩きしてもまぁ一月は持つだろ。
「腐る前にクーシー様に預けるっす」
「パンぐらいならそこそこ持ってるから買う必要ないって」
俺はサボイにアイテムボックスから取り出した、分厚いサラミの挟まったサンドイッチを手渡した。
「やったっす!」
食料や水なんかも割とコツコツ貯めてるんだ。
いつ何があるかわからないからな。
「クーシー」
「あ、はい」
さっきからずーっと考え込んでいたリーナさんはようやく答えを出したらしい。
彼女は俺の顔の前に、右手と左手で三本ずつ指を出した。
「六枚だ。食事、宿込みならば銀貨六枚でいい。もちろん商売が上手くいったら遠慮なく一割は貰うぞ」
「いいですよ、そんなにいい宿には泊まれませんけどいいですか?」
「雑魚寝でなければ構わん」
「わかりました、じゃあリーナさん、これからよろしくお願いします」
「いいだろう」
俺と彼女はグッと握手を交わし、さっき渡したサンドイッチを食べきったサボイがその上に手を重ねた。
「これでリーナさんも一緒のパーティっすね!」
「ああ、しばらく世話になろう」
よしよし、これで信用できる護衛は確保できたな。
こないだコボルドにアバラをやられて改めて思ったが、俺はやっぱり荒事に向いてないんだ。
なんとか商売で財を成して家でも買って、冒険者なんかしなくても生きていけるようにならなきゃな。
このままズルズル冒険者を続けてたら、次はコボルドの体当たりが首にでも当たってあの世行きだろう。
「あ、そうだ。今日はパーティの人が増えためでたい日なんですから、どこか食べに行きましょうよ」
「そうだな、旅の間は落ち着いて飯も食えなかったし、ちょっといい店にでも行くか」
アイテムボックスから財布を取り出して中身を確認する。
まあ今日ぐらいは豪遊しても構うめぇ。
そうして意気揚々とエスキアのメインストリートへと向かおうとした俺達の前に、その男は音もなく現れた。
「人の子、その財布今どこから出した?」
目が覚めるような美貌、透き通るような薄緑色の髪、シミひとつない白磁のような肌……
そして人間よりも長い、尖った耳。
その男は、どこからどう見ても世界樹の民だった。
Fusion360全然わからん




