続・王都の転生者達
「見つからなかった!? なんで? どういうことよ!」
大袋のクシャナンドラ捜索本部である学園の貴族用サロンの一室に、主人公の大声が響いた。
余裕がないのはわかるけれど、少々品がなくってよ。
「そのままの話よ、うちの領のエスキアにいた事まではわかったけど……宿を出てからの足取りは掴めないし、隣町にもいない。途中で野垂れ死んでたとしても、死体が出るかどうかもわからない。今はこれ以上の捜索は無理よ」
エスキアを領有するワイヤス子爵家の次女である花のシュベンがそう言うと、主人公は頭を抱えて項垂れた。
あーあー、そんなにこねくり回したらせっかくセットしてあげた髪の毛が無茶苦茶じゃない。
「どうすんのよ……クシャナンドラなしで戦争なんて無理ゲーもいいとこ、逃げるしかない?」
「主人公のあなたは絶対逃げられないでしょ、教会の刺客に滅多刺しにされる駆け落ちエンドのこと忘れたの?」
「くそっ! くそっ! 教会の連中を皆殺しにすれば……」
「意味ないわよ、たとえタネット王国の聖教会の幹部共を排除できたって、相手側のイントラ帝国にも聖教会はある。戦争の黒幕が聖教会なこと、あんたも知ってるでしょ?」
「知ってるわよ!! 荘園の麦の値段を釣り上げるための経済戦争なんでしょ! あたしはっ! くそっ!! そんなもののために! そんなもののために……」
ひとしきり喚き散らした主人公は床に蹲って、めそめそと泣き始めてしまった。
かわいそうに、この子は教会とクシャナンドラのお兄様の事を、殺しても殺し足りないぐらい恨んでるんでしょうね……
背中を擦ってあげる、私の大胸筋で泣いてもいいのよ?
「ジャグラスキル、あなたの方はどう?」
「うち? うちの実家は戦いしか知らない家よ? あなた達の家のような情報網とかないもの、何もできないわ」
「たしかにジクマ伯爵家のユニットって、蛮族みたいな見た目のやつばっかりだったものねぇ……」
そうなのよね、なぜかうちの兵って筋骨隆々なモヒカンとかスキンヘッドの頭の人達ばかりなのよ。
いい身体してる殿方が多いのはいいけど、ちょっと私の好みには合わないわ。
やっぱり男は顔が良くないと駄目ね、嫌味なぐらいに鼻が高くて金髪で、爪楊枝が乗るぐらい睫毛が長くないと。
そう考えながらなんとなくサガトラさんの顔を思い浮かべていると、ドアを突き破るような勢いで一人の男が駆け込んできた。
「レガリア! いるか!?」
駆け込んできたのは北の大貴族。
デライン辺境伯家の嫡男である転生者、風のチェストラだった。
「その名前であたしを呼ぶな!! あたしはっ!! 田中真里だ!!」
主人公ったら、チェストラに噛み付くのはいいけど涙で顔がくしゃくしゃじゃない。
拭いてあげましょ、さすがにかわいそうだわ。
ドレッドヘアーのラテン系イケメンのチェストラは、あたしの手に掴みかかってハンカチを噛みながら怒る主人公にも構わず、何かの書状を机に放り出した。
この人元商社マンって触れ込みなんだけど、押しが強いばかりでデリカシーがないのよね。
「クシャナンドラがいればたしかに万人力だが……いないものをいつまでも探してたって、しょうがないとは思わないか?」
「何言ってんのよ!」
「これは我がデライン辺境伯家の寄子達からかき集めてきた、街道整備の委任状だ!」
「街道整備?」
チェストラは「おうよ!」と答えて暑苦しく拳を握った。
「嘆いてたって戦争は起こる、なら正攻法でやるしかねぇだろ! 東西南北に伸びるこの国の主要街道を俺たちの力で整備すんだよ!」
「戦争の時に糧秣を迅速かつ大量に移動できるように、今から備えておこうってわけ?」
「そういうわけだ、せっかく俺たちには便利な異能が備わってんだ。力を合わせれば戦争までにもきっと間に合う。やらない理由はないだろ!」
ジクマ伯爵家の嫡男としてはやらない理由は大アリなんだけど、自家の権益を守って戦争に負けても意味がないのは確かなのよねぇ……
勝ってもしばらくしたらなくなっちゃう国だけど、負けたら私達のほとんどは死んじゃうわけだし。
「チェストラ! それをやれば、あたしは助かるの?」
「君が助かるかどうかはわからんが、どこにいるかも不明なクシャナンドラを探してじっと待つよりはいいんじゃないか?」
「ま、順当すぎるぐらい順当な案だしね、うちは協力してもいいわよ」
「うん、やろう! ちょっとでも勝てる可能性があるなら、あたし何でもやる!」
チェストラは「決まりだ!」と手を叩き、さっそく本部に常駐している遠話の異能を持つ仲間へと指示を飛ばし始めた。
さっきまで泣いていた主人公も、乱れた髪を後ろにまとめて気合満々みたい。
土木作業かぁ……岩のジャグラスキルなんて呼ばれてる私も、多分駆り出されるのよね?
尊い仕事だとは思うけれど、私みたいな貴婦人のやる仕事じゃないわよねぇ。
はぁ……クシャナンドラ、明日にでも見つからないかしら?
なんかわからないですけど、毎日ヘロヘロです