意外な遭遇
シュマリアン共和国は、アーミル王国からは2つの国を挟んで西にあり、メソジック帝国から見て内海を挟んで東隣に位置する、広い面積を持つ国である。
シュマリアン共和国にもアーミル王国に存在するものと同程度の歴史のある古代文明が存在し、その遺跡群も健在であったため、強い希望によりヒースもクロキとともにシュマリアン共和国に行くこととなった。
ギブソンはあからさまに嫌な顔をしていたが、ルースの計らいにより、アーミル王国へのモンテ皇国使節団は、シュマリアン共和国の首都テルビアを経由して帰ることとした。
クロキが首都テルビアに着き、ルース、カオリらに別れの挨拶をすると、ルースは「もうクロキくんとは同じ部隊にはならないようにしたいな」と笑って手を振りながら飛空艇で飛び立って行った。
こうして、クロキはアーミル王国への使節団護衛の任務を終え、シュマリアン共和国での新たな任務に着くことになった。
テルビアでは、クロキと同じシュマリアン共和国内での情勢把握任務を受けたモンテ皇国の騎士と落ち合うこととなっており、待ち合わせ場所はテルビアの西区にある宿であったが、待ち合わせ時間までは幾分か時間があったため、クロキとヒースは待ち合わせの宿の近くの食堂で遅めの昼食を取ることとした。
店内は広めで、テラス席もある。テラス席には観葉植物も置いてあり雰囲気も良い。クロキは、モンテ皇国の騎士が早く来ても対応できるように、宿が見えるテラス席に座った。
店員が運んできたのは、小麦粉の生地で肉、野菜、山羊のチーズを挟んだ料理。まるで、元の世界のケバブサンドのようなその料理にクロキとヒースが舌鼓を打っていると――
「「あっ」」
アーミル王国の街でシャールークと出会ったときと同じ反応。ただし、今日の相手は、何とゴードンとその仲間たちであった。
「クロキさんじゃないですか。なんでこんなところにいるんですか?」
「マジマジ~、ヤバいよ~、これって運命じゃない?」
ゴードンとアンナがハイテンションでクロキとヒースのテーブルに駆け寄ってきた。
「お、おう……元気そうだな」
さしものクロキも圧倒されてたじろぎながら、カイゼルから任務を受けたことを話した。
「皆さんはどうしたんですか? は……まさか我々と落ち合う騎士とは……」
ヒースがゴードンらに聞くと、アーノルドが答えた。
「ああ、いや、俺たちは紹介所で受けた依頼で来たんだ」
「こんな外国まで? それはなかなかの報酬でしょうね」
ヒースがニヤリと笑う。
「まあ、俺たちもそれなりの実績を積んだからな」
「ちなみに、どんな依頼ですか?」
アーノルドはリタと顔を見合わせて困ったような顔をした。
「それが、依頼者の希望でな、依頼の完了まで依頼の内容は秘密にすることになっててな……」
「それは、穏やかではないですね。依頼はこの街で終わりですか」
「あー、それも……」
アーノルドが手でバツを作る。
「でも、今日はこの街で自由にしてもいいことになってるんで、今晩は一緒にご飯食べましょうよ。アーミル王国の話も聞きたいです」
ゴードンが目を輝かせながらクロキを見るので、クロキは断れず、思わず承諾してしまった。
クロキとゴードンらが楽しそうに会話をしていると、ふと、
「すまないが、君が無魔力者のクロキだね」
と、いつの間にかゴードンらの背後に立っていた男がクロキの名を呼んだ。
わざわざ名前の前に無魔力者とつける点が気になったが、クロキは正直に答えた。
「そうですけど、あなたは?」
男はムッとした表情をした。
「宿の者に聞いたら食事に出たと聞いたので、散策がてら探しに来たのだ」
クロキは名前を聞いたつもりだったが、その男は名を答えず、終いにはため息をついた。
男はクロキと同じくらいの年齢で、茶色の長めの髪をなびかせていた。その鎧にはモンテ皇国の紋章と、もう1つ――
「に、兄さん……」
ゴードンが振り返って言った。その表情を声は驚きに満ちている。
「ん? ゴードンか、久しぶりに会ったと思ったら、こんなところで一体何をしている」
その男は、ゴードンの兄――ギルバートであった。ギルバートの鎧にはモンテ皇国の紋章とは別にもう1つ、ゴードンの鎧にもついているものと同じ家紋でついていた。
「わ、私は、依頼を受けて……」
「なぜそんなことをしている。そんなことをしている暇があったら訓練をするべきではないか?」
「そ、それは……兄さんこそ――」
「俺が質問をしている。なぜ冒険者気取りで依頼などを受けているんだ?」
ゴードンの言葉を遮って、食って掛かるようにギルバートはゴードンを問い詰めた。
「そ、それは……」
ギルバートの詰問にゴードンが言い淀んでいるのを見かねて、クロキが割って入る。
「あー、ええと、ゴードンのお兄さん? 俺に用事だったんですよね。あなたが今回の任務の隊長ですか?」
ギルバートがゴードンからクロキに視線を移し、改めてクロキの顔を見た。
「ああ、俺はギルバートという。……なぜ俺が隊長だと思った?」
「こんなところで話すのも何なんで、宿に――」
「他人が質問をしているときはきちんと答えるべきではないか? なぜ、俺が隊長だと思った」
クロキに被せるようにギルバートが詰問をしてきた。そもそも、クロキの「ギルバートが隊長か」という質問にギルバートは答えていない。この瞬間、クロキのギルバートの印象は、心底面倒くさい奴と認定された。
「ああ、ええと、あなたの立ち居振る舞いが部隊を率いている様子であったし、俺を探しにいらしたってことは、隊長が隊員を探しに来たのではないかと思ったのです」
クロキはとりあえず適当にそれっぽいことを並べてみた。この手のごまかしは、元の世界での業務上、必要なスキルであった。
ギルバートは目を細めてクロキを見ると、「まあ、良いだろう」と言って、頭を掻きながら宿に向かって歩き出した。
「ゴードン、お前も来い、グレイスがお前に会いたがっている」
ギルバートが振り向かずゴードンに命令をすると、ゴードンは、
「ね、姉さん! は、はい!」
と、若干声を裏返しながら慌てて返事をして、クロキらを置いてギルバートを追いかけた。
情勢把握任務を受けた部隊の待ち合わせ場所の宿に入ると、クロキとゴードンの二人は、宿の最上階に位置するギルバートの部屋に連れて行かれ、ほかの者はホテルのロビーで待つこととなった。
ギルバートの後に続いて、クロキが中に入る。スイートルームとでも言うべき広さと豪華さのギルバートの部屋には、今回の任務のメンバーと思われる軍服を着た五人の男女がいた。
クロキに続いてゴードンが入室すると、一人の女騎士がクロキを押しのけてゴードンに駆け寄る。その女騎士はゴードン、ギルバートと同じ茶色い髪を三つ編みにして肩から前に降ろしていた。とても穏やかな表情。常に微笑んでいるかのような優しさに満ちている。
「ああ、ゴードンちゃん、大丈夫? 元気にしてた? 怪我はない?」
「ね、姉さん。ちょっ……人が見ているだろ」
その女騎士は、ゴードンの姉――グレイスであった。




