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強欲爵ハミルトン

 クロキが驚いて振り向くと、そこには巨体を揺らすハミルトンの姿があった。

 ハミルトンはいやらしい笑みを浮かべながら、静かにクロキを見ている。と思うと突然大きな声で笑いだした。


「ゲハハハハッ、情けないなベルナルド。所詮はまだまだケツの青いガキか?」

「は、ハミルトン様……」


 ハミルトンは地面に横たわるベルナルドを踏みつぶしながらクロキに近付く。200キログラムは超えるであろうハミルトンに踏まれ、ベルナルドは苦悶の声を上げた。


「お前はもう良い、後は俺がやる」


 ハミルトンは軍服姿で、ガントレットとレガースのついたブーツを身に着けているだけで、特に武器は持っていない。


「今日はアレを持ってきていないが……まあ良いだろ」


 そう言うとハミルトンは身体の前で一度ガントレットの拳同士を突き合わせ、その巨体に似合わぬ軽やかさでクロキに迫り、クロキの顔に向かって拳を向けてきた。

 クロキはハミルトンの拳をかわしつつ、腰のホルダーからナイフを取り出し、ハミルトンの大きな腹を切る。軍服が防刃仕様というわけでもないようだ、続くハミルトンの拳や蹴りをかわしながら数度斬りつけた。


「ゲハハ、そんな玩具じゃ、俺の腹には効かんぞ」


 確かに、分厚い腹の脂肪に対しナイフ程度では碌なダメージは与えられない。


 ハミルトンの拳が再びクロキに迫る。

 ハミルトンの格闘術はなかなかのものだが、いかんせんスピードは大したことがないため、かわすことは造作もない。

 クロキは難なく避けた、と思ったが、


「っ!」


 ハミルトンの拳がクロキの顔面に命中し、クロキは吹っ飛ばされた。

 クロキは吹っ飛ばされながらも体勢を戻し、転倒することは何とか防いだ。


 確かに今、かわしたはずだ。なぜ当たる。

 クリーンヒットしたため視界が揺れている。クロキが顔を一度横に振ってからハミルトンを見ると、ハミルトンが再び目の前に迫っていた。

 クロキは、ダメージが回復するまで大きく距離を取りながらかわすこととし、ハミルトンが放つ前蹴りに対してクロキは後ろに下がってかわした。が、また蹴りが腹に当たり、吹っ飛ばされる。


「く……」


 クロキは直ぐに立ち上がり、ハミルトンの追撃を回避し、距離を取った。


 口の中に血の味が広がっている。クロキは唾とともに血を吐いた。


「分かったぜ、お前、関節外しているな」


 かわしたはずが命中するからくり。ハミルトンは、クロキがハミルトンの攻撃を見切った後で関節を外し、腕や脚の長さを伸ばしていたのだ。


「痛くねえのかよ」

「フン、痛いに決まっておろうが、ゲハハハッ」


 ハミルトンは下品に笑いながら拳を振り上げ、クロキに突進してくる。クロキはハミルトンに向かって跳び上がり、前方に回転しつつハミルトンを飛び越しながらハミルトンの首の根元を切った。

 ハミルトンの首から血が噴き出す。


「痛え、痛えなあ……」


 クロキが振り向くと、ハミルトンが傷口を手で押さえながら立っていた。

 左腕が使えないことで浅かったか。いや血の噴き出し方からすると刃はしっかり首に致命傷となる傷を与えている。

 にもかかわらず、なぜこいつはピンピンしているのか。


「ゲヒャヒャヒャ、不思議そうだな、ほら」


 ハミルトンが傷口から手を避けると、噴き出す血の量が徐々に少なくなり、ついには傷が塞がってしまった。


「そういう魔法かよ」


 この世界何でもありだなと、クロキが苦笑いをする。


「『ファットガイスリム』って言うんだ、良い魔法だろ。ゲヘ」


 ハミルトンの腹の傷もいつの間にか塞がっていた。関節を外して攻撃できるのも、ファットガイスリムの効果で腱やじん帯へのダメージをゼロにできるからであった。


「身体も温まってきたし、そろそろ本気で行くぜ」


 ハミルトンが投球フォームのように大きく右拳を振りかぶった。ハミルトンの身体の陰になってよく見えないが、強い魔力を右のガントレットに溜めている。


「ゲハハハっ!」


 ハミルトンは高く跳び上がると、真横に高速回転しながらクロキ目掛けて落下してくる。

 クロキが転がるように回避し、ハミルトンの右拳がクロキの立っていた地面に激突すると、突風とともに周囲の地面ひび割れ地面がめくれ上がる。


 飛び散る石片を浴びながら、クロキは苦笑いせざるを得なかった。


 これは空気系魔法タイフーン・バレット。クロキが魔法石エクスプロージョンを用いてする攻撃と同じ動きであったが、ハミルトンの体重が加わったタイフーン・バレットはクロキの攻撃よりも数段威力が上。


「ゲヒャヒャヒャ、良くかわしたなあ。だが、次はないぜ」


 ハミルトンが再び右拳を振りかぶった。

 先ほどよりも強大な魔力が溜まっていく。クロキはナイフをハミルトン目掛けて投げたが、ファットガイスリムの効果で回復するハミルトンは一向に避けたり防いだりする気配はなく、体勢を崩すことができない。


「それなら……」


 クロキは、動かすことのできる右腕に刀を握り、そして、右腕が身体の前に来るように半身になって構えた。

 大きく息を吸い、そして、吐く。クロキの身体に魔素(マナ)を取り込まれていく。


「ゲハハハッ、行くぞっ!」

「来いっ!」


 ハミルトンが独楽のように高速回転し、地面を削りながら、クロキに向かっていく。

 クロキは、先ほどの感覚を思い出す。後もう一歩、もう一歩でスキルは完成する。

 今、その一歩を踏み出す。

 ハミルトンの拳がクロキの眼前に迫る。


「スキル発動」


 ハミルトンの拳が空を斬った。

 ハミルトンが振り向くと、クロキの姿は背後にあった。


「ゲハ……?」


 一体、何が起こった。

 そう思った瞬間、視界の中のクロキが紅く染まる。

 ハミルトンの首と背中が斬られ、血が噴き出していた。


「『浮葉』と名付けようと思う」


 スキルは成った。

 クロキは無傷でハミルトンのタイフーン・バレットを受け流し、ハミルトンに2撃を与えた。


 クロキは刀を振って刃についた血を払い、刀を鞘に納めると、膝をつくハミルトンを見る。

 ハミルトンから噴き出す血が徐々に治まり、ついには傷が消える。ハミルトンは顔を天に向けながらギョロっと眼だけをクロキに向けた。


「やるじゃねえか」


 そう言ってハミルトンは立ち上がった。

 痩せている。腹は出ているが、明らかに当初よりも一回り、ハミルトンは細くなっていた。


「その腹は飾りじゃないみたいだな……」


 先ほどまで疑問に思わなかったが、治療術(ヒール)で回復をするにしても、体内の栄養やカロリーを消費するのに、こいつは重傷を負ったにもかかわらずどうやって、何を素に身体を回復させたのか。

 それは、身体に蓄えた脂肪であったのだ。

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