一方的な友情
「くそ、スプラッシュ!」
ベルナルドが水系魔法スプラッシュを唱えると、ベルナルドの周囲に水流が発生し、大きな水柱が空中に向かって噴き上がる。
ベルナルドはその水流を突き破り、レヴィアタンの胴体から降りた。
クロキの奇襲から身を守ろうと、ベルナルドは咄嗟にスプラッシュの水流に身を隠したが、スプラッシュが終わり、水流が消えた瞬間に攻撃を受けた場合、防ぎきる自信がなかったのだ。
ベルナルドは地面に着地すると目を凝らしレヴィアタンを見上げる。
レヴィアタンの背の上で、腕を組んだクロキが月をバックにしてベルナルドを見下ろしていた。
グイードがやられるのも頷ける実力。だが、魔法もスキルも使えないと見え、そこに勝機があるとベルナルドは考えていた。また、レヴィアタンの動きも読まれているが、二対一であることには変わりはない。
「さあ、来い!」
ベルナルドが叫ぶ。
レヴィアタンの水の鞭をかわし、クロキがレヴィアタンから飛び降りた。
「アイス・ニードル!」
ベルナルドが左腕をクロキに向けると8本の氷柱がクロキを襲う。クロキは、走りながら正面から向かって来る氷柱をかわし、打ち砕いていく。だが、背後に気配を感じ、後ろを見ると、レヴィアタンがクロキに向かって大きく口を開けていた。
「レヴィアタン!」
ベルナルドの掛け声とともに、レヴィアタンは激流を吐き出した。
「ちぃっ」
クロキはワイヤーを使い、近くの建物の屋根に上る。だが、激流はその建物をも飲み込んだため、クロキは屋根から屋根へと飛び移り、激流の射程範囲外へと逃れた。
「うおおおっ!」
スプラッシュを利用し、ベルナルドが大きく跳び上がり、そして、クロキの位置を確認すると、空中でクロキに向かって剣を向けた。
「アイス・ロック・フォール!」
クロキの頭上に巨大な氷の塊が出現する。クロキは屋根から飛び降り、氷の塊を回避したが、クロキがいた建物が氷の塊によって破壊された。
「ウォーター・フォイル!」
ベルナルドが着地すると同時に魔法を唱えると、クロキの周囲を囲むように水の壁が発生する。
水系魔法ウォーター・フォイル。対象を取り囲むように水の壁を創り出し、水の壁に対象が触れた瞬間、対象を水の球が包み、身動きを取れなくする。逃げ道は真上のみだが、クロキの周囲にはもはや高い建物はない。激流で残った建物もついさっきアイス・ロック・フォールで破壊した。
もはやワイヤーを使って逃れることもできない、魔法も使えないクロキにとってこの状況は詰みである。
ベルナルドは勝利を確信した。しかし、
「知っているぞ、この魔法」
クロキはそう呟き、腰のホルダーから魔法石を取り出した。
水の壁がクロキに向かって徐々に半径を縮めていき、ついにクロキのいる中心部に達すると、大きな飛沫を上げて一つの球体となった。
「よし……」
ベルナルドは剣を2、3度振りながら、クロキを突き刺そうと水の球に近づいて行った。
「……っ?」
だが、水の球の中にクロキはいない。一体、何が起きている。ベルナルドは水の球を見ながらたじろいだ。
そのとき、地面の中から手が現れ、ベルナルドの足首を掴む。
「な、何っ!」
地面の中からクロキが飛び出し、脚を引っ張られバランスを崩したベルナルドの顔面に左のブーツを直撃させた。
口の中を切り、血を垂らしながらふらつくベルナルド。朦朧とする頭では状況の理解はできない。
クロキの使った魔法石は、パリガーサで購入した土系魔法エルセ・ダガー。効果は土に潜ること。ウォーター・フォイルの効力は土中には及ばないことを認識した上で、クロキはこの魔法を使ってウォーター・フォイルの回避に成功したのであった。
「土遁の術ってか?」
クロキは、落ち着いた様子で身体に付いた土を払うと、刀を構えた。
「く、くそっ、ス、スプラッシュ!」
ベルナルドはふらつく身体で、咄嗟に自分とクロキの間に水柱を発生させ、飛沫の力で自分の身体を吹っ飛ばし、無理やりクロキとの間に距離を取った。
「お、俺は、あんたを倒して、グイードの借りを絶対に返す。……アームド・レヴィアタンっ!」
ベルナルドが高く剣を掲げると、レヴィアタンが幾筋もの水流となり、ベルナルドに纏わり、青い鎧となった。その鎧は、フェニックスに翼が、マンティコアにサソリの尻尾があったような特別な意匠はない。見たところ、何の変哲もない鎧であるが、強い魔力を宿していることは、魔力を持たないクロキにも感じられた。
ベルナルドが仲間のために戦う姿勢に、クロキは思わず、
「大層仲が良いんだな。だが、グイードとか言ったか、あいつは自分の手柄のことしか考えていなかったぜ」
と皮肉っぽく言った。
クロキの言葉にベルナルドは苦笑する。
「はは、グイードらしいな。だが、それがどうした。グイードがそういう奴だってのは昔から知ってる。そうであってもグイードが俺の仲間であることに違いはない」
ベルナルドは孤児であった。
ベルナルドが15歳になったとき、独りで生きていくためには軍隊に入ることが一番安定していると考え、軍に入隊した。そこでグイード、イヴァーノ、アーシア、ミルコと出会った。
グイードら4人も孤児であったため、ベルナルドを含め5人は意気投合した。
5人は年齢も近いということもあり、同じ部隊に配属され、同じ任務をこなしていたが、あるとき、実績と魔法の素養を見込まれ、5人で独立したチームを作ることとなった。
そして、異邦人の指導を受け、全員が幻獣を生み出す固有魔法を習得し、幻獣を操るベルナルド隊が誕生したのであった。
7年間。ベルナルドたちは7年もの間、寝食を、そして生死を共にした。
ベルナルドは4人に対し、家族以上の絆を感じていた。
「いいぜ、来いよ、エゴイスト。全て受けとめてやる」
エゴイスト。例えほかの4人にどう思われようと、ベルナルドは一方的に底なしの友情を与えるだろう。
愛すべきエゴイスト。
クロキはベルナルドに一切の負の感情を抱いていなかった。
ベルナルドは、慈しむような眼でクロキが自分を見ていることに気が付いた。
「あんたも、俺と同じなのか?」
「仲間の仇……お前の気持ちは痛いほど分かる」
「あんたも……? 仲間を?」
「ああ、全員……カミムラに殺されちまったよ!」
クロキは憤怒の形相でベルナルドに向かって走り出した。
カミムラの名前を聞き、ベルナルドは一瞬戸惑いつつも、クロキの刀を受け止め、二人は斬り合う。
ベルナルドのパワーとスピードが先ほどと比べ物にならないほど上昇している。鎧の効果であろうか。
「スプラッシュ!」
ベルナルドが3度目のスプラッシュを唱えた。だが、その水柱の大きさは先ほどまでのものとは全く別のものといってもいいほどに巨大であり、クロキは水柱に吹っ飛ばされた。
「アイス・ニードル!」
クロキ目掛けて氷柱が飛んでくるが、この氷柱もクロキが今まで経験したアイス・ニードルよりも大きく、数も多い。そして、速かった。
クロキは防ぐのは困難と判断し、氷柱を足場にしてかわすこととしたが、最後の一本に脚を掛けたとき、脚を滑らせバランスを崩した。




