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秩序を宿す凶鳥

 イヴァーノは剣で受けたが、強い衝撃にわずかに後ろ足が下がる。

 カルガナは着地すると、間を置かず思い切り力任せに何度も何度も剣を振り下ろし、イヴァーノは始めは堪えていたが、あまりの勢いについぞ膝をついた。しかし、カルガナがひと際大きく振り被るのを見逃さず、薄っすらと腹筋が割れたカルガナの腹部目掛けて剣の切っ先を向けた。

 カルガナは、すかさず盾で剣を受けると、盾を握る手を放し、脚で思い切り盾を蹴る。イヴァーノの顔と胸に盾がめり込み、イヴァーノは吹っ飛ばされた。


「エア・プレッシャーっ」


 アーシアが魔法を唱えると同時に、カルガナの身体に大きな負荷かかり、カルガナは膝をついた。エア・プレッシャーは空気圧を変化させる魔法である。高圧の空気でカルガナは押しつぶされ、呼吸もままならなくなった。

 だが、いつの間にかアーシアの近くを浮遊していた空気の球が爆発し、その衝撃に怯んだアーシアは、思わずエア・プレッシャーを解除してしまった。


「うそ……何で動けるのよ」


 アーシアの視線の先には、口から伝う血を拭うカオリの姿があった。


「生憎ね、毒には強いのよ」


 カオリの使う魔法には治癒効果を持つものはない。だが、バブル・キュアという魔法によって毒を浄化することはできる。



「助かりました」


 カルガナがまた別の盾を拾って、カオリの元に駆け寄った。


「いえ、こちらこそ、お見事でした」

「ありがとう、でも、あの獅子頭の鳥、ちょっと、いえ、だいぶ嫌ね」


 そう、先ほど来、アンズーが何かする度に、カオリの思惑と別の結果になっていた。カオリが思ったとおりの結果であれば、アジ・ダハーカがいくら大きくて多彩な攻撃をしようと敵ではない。


「アジ・ダハーカ!」


 イヴァーノがアジ・ダハーカの名前を叫ぶと、アジ・ダハーカが三つの首でカオリとカルガナに襲い掛かった。

 カオリは空気の球で迎撃しようとしたが、視界の端にアンズーがチラつき思わず躊躇う。


「わたくしの予想どおりなら……大丈夫、カオリはそのまま蛇を」


 カルガナはカオリの躊躇いに気付くと、そう言ってカオリに声を掛け、アンズーに向かって行った。

 カルガナの声は高くもなく低くもなく、それでいて、とても通る声であった。そして、その声は人の感情を動かす力があった。


 カオリは、アジ・ダハーカに突き刺すような視線を向け、自分とアジ・ダハーカの間に空気の球を創り出すと、空気の球をブドウの房のように結合させた。


 アンズーが空気の球に向かって咆哮しようと息を吸い込んだ。だが、カルガナはアンズーに盾を投げつけてアンズーの動きを止め、そして、アンズーに接近し、盾を再び握ると、盾の陰からアンズーの喉に剣を突き刺した。


 それとほぼ同じタイミングで、カオリはブドウの房状の空気の球を破裂させると、アジ・ダハーカに向かって凍気が放たれ、アジ・ダハーカは一瞬にして凍りつく。

 カオリは、最もカオリに近い側の空気の球を破裂させずに残すことによって、凍気の方向をアジ・ダハーカのみとし、カオリもカルガナも凍気の影響を受けることはなかった。


「今度は、上手くいった……」


 カルガナの言うとおり、アンズーの何かがカオリに干渉していたのだ。


 カルガナはアンズーの喉から剣を抜くと、


「なるほど、魔法で象った生物ですか。一滴の血涙もない」


 と言って、綺麗なままの刀身を眺めた。


 カオリがアーシアに薙刀を向ける。


「どうやら私たちの勝ちのようですね。さあ、降参してください。」


 しかし、カルガナは警戒を解かない。


「まだです。クロキは言っていましたね、『奥の手』と……」


 アーシアとイヴァーノがよろつきながら立ち上がる。


「良いわね、イヴァーノ」

「不本意だが、仕方あるまい!」


 二人は揃って顔の前で剣を構え、切っ先をカオリとカルガナに向けた。


「アームド・アンズー!」

「アームド・アジ・ダハーカ!」


 アンズーが風となりアーシアの身体を包み、翼のついた青銅色の鎧となった。

 そして、アジ・ダハーカは炎となってイヴァーノを包み、背中から三つの蛇の頭を生やした黒い鎧となった。


「これが『奥の手』ですか」


 二人の姿を見てカルガナは構えた。


 アーシアが猛スピードで飛びながらカオリに斬り掛かってきた。カオリは薙刀で受け止めながら、周囲の空気の球を操作しようと片手を動かしたが、空気の球は動かない。

 そして、アーシアが鎧の翼を動かして周囲に風を起こすと、風に当たった空気の球は全て破裂して消えてしまった。


「カルガナ様、私も分かりました」


 カオリがアーシアを突き放し、距離を取りながらカルガナに言った。


「あの鳥は、魔法の効力を消し去る能力を持っているようですね」

「ええ、その力が自動(オート)かどうかは分かりませんが、あれに触れたり、攻撃を受けたりした場合に、魔法の効果が消える、と考えて良いでしょう」


 アーシアが笑いながら二人に向かって剣を向ける。


「よく気付いたわね。まあ、気付いたからってどうしようもないけど」


 アンズーはその身に秩序を宿す。その秩序は理を制御し、アーシアの生み出すアンズー以外の魔法を()()()()()()にする。


 カオリとカルガナの背後からイヴァーノから襲い掛かる。カルガナはひらりと身を翻し、イヴァーノの剣を盾で受け止めたが、アジ・ダハーカの鎧のためか先ほどよりもイヴァーノの剣の勢いは重い。


「ならば……」


 カルガナはイヴァーノの剣を受け流し、自身の剣の切っ先をイヴァーノの喉元に向けたが、イヴァーノの背中から生える蛇の首から火炎が放射され、カルガナは咄嗟に盾で炎を防いだ。その隙にイヴァーノが思い切り剣を振るい、盾ごとカルガナを吹っ飛ばす。


 イヴァーノは追撃しようとしたが、カオリがイヴァーノとカルガナの間に空気の球を作り出し、直ぐに爆発させたため、イヴァーノは距離を取った。


 カルガナは体勢を立て直しながらカオリを見た。


「思ったより冷静ですね」


 空気の球を作りだし、即座に属性を発動させることで、アンズーに消し去られることを防ぐ。


「今できることをやるしかないですから」


 カオリは真っ直ぐイヴァーノを見ている。


 カルガナは、アンズーに魔法が効かないことでカオリが怖気づいているのではないかと心配していたが、カオリの言葉を聞き、それが杞憂であったと安心した。

 もともとの性格か、それともこの世界に来てからの経験か、若さに似合わぬその強い意志に当てられ、カルガナは微笑んだ。


「イヴァーノ、休んでんじゃないよ!」


 アーシアが背中の翼をはばたかせ空中へと浮かび上がった。そして、さらに大きくはばたかせると、自分を中心として広い範囲に突風を巻き起こした。


「おう!」


 イヴァーノが再びカルガナに向かってくる。

 カルガナはイヴァーノと剣を打ち合い、その間にカオリがイヴァーノの背後に回り、下から薙刀で斬り上げようとした。しかし、イヴァーノの背中から生える蛇の一つが首を回すと、カオリに向かって雷を吐き出したため、カオリはステップをしながら雷をかわす。

 イヴァーノはカルガナに剣を振るいながら、同時に毒の息をカルガナに浴びせる。カルガナは息を止め、盾で防ぎ、距離を取ると、カルガナの背後からアーシアが斬りかかってきた。

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