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使節団出発

 翌日、クロキはスキルの訓練をするため、街の北東の森のジョルジュの小屋に向かった。

 ジョルジュにスキルの指導を受け始めてから毎日通い詰めており、ジョルジュの小屋に来ることは、既に日課になっていた。

 闘技場でスキルを使おうとしたときの感覚を反芻する。結果的にスキルは発動しなかったが、あのとき確かに、魔素(マナ)を身体に取り込むことに成功した。その感覚を身体に覚え込ませることが、クロキの今の目標であり、それはもう少しで達成しつつあった。


「二週間ほどで帰ってきます」


 汗を拭きながら、クロキは護衛部隊に編成されたことをジョルジュに報告した。


「マナの感覚を掴みつつある今が重要だ。毎日の訓練は欠かすなよ」

「はい。ジョルジュさんはアーミル王国に行ったことは?」

「ああ、昔な。とても乾燥した地域だった。砂ぼこりで視界が遮られて苦戦したな。後は、とても大きな河があったのを覚えている」

「こことは、気候も文化も違いそうですね。少し楽しみです」


 ジョルジュは、「ふっ」と笑うと、小屋の中に入り、また出てきた。


「頼まれていたヤツだ」


 その手には刀が握られていた。


「あ、ありがとうございます」

「こう見えても儂の親父は鍛冶師だったからな、技術は一通り身に着けている。それに、リュウイチロウの刀を直していたのも儂だ。この、『刀』に関しては儂以上に技術を持っている奴はこの世界にはおらんよ」


 クロキは鞘から刀を抜いた。

 銀色に輝く刀身にクロキの姿が写る。この世界に来たときに持っていた状態よりも、はるかに良い状態であった。


「そしてこれも、頼まれていたものだ。リュウイチロウもこんなものは使っとらんかったから、オーダー通りかは知らんぞ」


 クロキはジョルジュから包みを受け取り、中を確認すると直ぐに顔を上げた。


「いえ、完璧です。俺のイメージと寸分違わない出来です。ありがとうございます」


 クロキは、再度深々と頭を下げた。





 その晩、クロキとヒースは翌日からのアーミル王国行きの準備を終えると、リビングでコーヒーを飲みながらくつろいでいた。


 クロキが壁に貼ってある世界地図をじっと見て、指を差す。


「アーミル王国ってどこなんだ?」

「えーと……ここですね」


 ヒースは、大陸の中央の南端。逆三角形の半島を指さした。


「縮尺が分からないが、結構距離があるな」

「そうですね、2,400ケイラード(約7,400キロメートル)くらいですね」


 クロキが立ち上がって、世界地図をまじまじと眺めた。


「どうしたんですか?」

「いや、改めて見るといろいろ気付くな、って。例えば、大陸が、1、2……5」

「ああ、その島、アーミル王国の南にある島も大陸と言われています。地図上の大きさから言えば我々の世界のオーストラリア大陸と同程度かそれ以上ありますからね。あと、その地図には載っていませんが、我々の世界と同じように、南極に氷に覆われた大陸があります」

「じゃあ、全部で7つか。ふむ……」


 モンテ皇国を西端とし、東に向かって伸びる巨大な大陸。

 モンテ皇国の真南にある逆三角形の大きな大陸。

 その大陸の真東、アーミル王国の南に位置する小さな大陸。

 超古代文明が存在したと言われる、モンテ皇国の真西に位置する小さな大陸。

 さらにその西に位置する台形の大きな大陸。

 その大陸とモンテ皇国のある大陸に挟まれた、モンテ皇国のある大陸の東に位置する大陸。

 そして、南極に存在する大陸。


 クロキは地図を見れば見るほど違和感を禁じえなかった。いや、気持ち悪さと言っても良いだろう。


「さあ、明日からの旅に備えてそろそろ寝ましょうか」


 ヒースが大きく伸びをすると、欠伸を一つ。クロキもつられて欠伸が出た。





「さてさて、皆さんご苦労様です」


 城の屋上で、ルースがアーミル王国への使節団メンバーに向かって挨拶をする。

 丸い腹で、生え際が後退したオールバックの中年の男――外務大臣ギブソンが、不満そうな顔で、書記官とともにルースを見ていた。


 冷たい風が頬を撫で、ギブソンは寒そうに丸い体を縮ませている。

 クロキとヒースも軽く身震いをした。


「あのぅ、寒いんでそろそろ出発しませんか」


 クロキが手を挙げた。


「ああ、もうちょっと待ってくれるかい。もう一人……お、来た来た」


 ルースが手を上げた。

 ルースの視線の先を見ると黒いショートカットの少女が走って来る。


「すいません、遅れました」


 息を切らしながら、頭を下げるその少女は、クロキと同じ召喚されてきた日本人――カオリであった。


「いやいや、カオリ殿、このたびは同行していただき誠にありがたい。ささ、顔を上げてください」


 さっきまで不遜な態度であったギブソンが、猫なで声でカオリに近づき、背中を叩いた。


「はい、全力全霊で任務に当たらせていただきますのでよろしくお願いします」


 カオリはそう言って背筋を伸ばして快活に挨拶をした。


「ははは、キミ面白いねぇ。隊長のルースだ、よろしく」


 カオリは、今度はルースに向かって「はい、よろしくお願いします。」と頭を下げた。

 礼儀正しいのは良いが、まあ、何と言うか固すぎる。ヒースは正直どう接して良いか分からなかったが、クロキは面識もあったため、簡単に挨拶をした。


「この間はどうも」

「あ、クロキさん、どうぞよろしくお願いします」

「てっきり知らない人ばかりと思っていたから、知り合いがいて良かった」

「ああ、派閥の関係でメンバーの編成に手間取ったみたいですね。でも、私、フリーなんで。あ、いや、えっと、フリーってそういう意味じゃなくって、どこの派閥にも属していないって意味で、だから、そ……あれ? 私何言ってるんだろ」


 勝手に慌てて顔を赤らめているカオリに、クロキもなんと声を掛けて良いか分からなくなり、黙ってしまった。


「おーい、出発するよ、早く乗ってくれ」


 ルースが声を掛けてくれて、正直助かったとクロキは思った。


 アーミル王国までは空を飛んでいく。ただし、真っすぐ進むとメソジック帝国領内の上空を通過することとなるため、一旦南下し、南の大陸を経由するルート取ることとなっていた。

 そして、肝心の飛空艇を動かす魔術師だが――


「えー、『エア・フライト』を使いこなせる魔術師、正直なところイゴールくんに来てほしかったんだけど、今回のボスが良い顔をしないので――」

「ルース隊長」


 ルースの話の途中で書記官がルースを注意する。

 ルースは咳ばらいをして続ける。


「不肖わたくしがこの船を運びたいと思います。はい、そこ、不安そうな顔をしない」


 あからさまに嫌そうな顔をするクロキをルースは指差した。

 何となくクロキのイメージでは、魔法を使いながら剣を振るう騎士よりも、魔法に特化した魔術師の方が強力な魔法や安定した魔法が使えるイメージがあった。

 加えて、ルースの性格から鑑みて、エア・フライトのような持続性と安定性を必要とする魔法をルースは苦手としていそうなイメージもあったのだ。


「まあ、そういうことなので飛行中の揺れには目を瞑ってください。あと、今回は乗員も多いということもあり、あんまりスピードが出せない上、魔力消費も激しいので、アーミル王国までは三日かけて行きます」


 それは、事前に説明された日程表で全員確認済みであった。ルースの魔力量から、一日当たり六時間の飛行を想定していた。


「ちっ、もっとまともな奴はいなかったのか? 戻ったらミュラー殿に苦情を言ってやるぞ」


 ギブソンの文句を無視して。ルースは口笛を吹きながら飛行の準備に入る。


 徐々に風が飛空艇に収束していく。そして、「エア・フライト」とルースが唱えると、飛空艇は離陸し、南に向かって飛び始めた。

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