疾風の射手と岩鎧の拒絶
「はは……事情ってそういうことかい。良いねぇ、そういうの嫌いじゃないよ」
そう言いながらルースが腕を振ると、ルースの周りに大きな風のうねりが巻き起こる。
「それじゃあ、ここから全力だ」
飄々としたルースの視線の中に、微かな威圧感を感じ、クロキは思わず身構えた。
マーゴットの名前叫び気合を入れ直したハワードが、再びドゥエンに斬りかかる。
「うぉぉっ!」
ドゥエンは手で印を結ぶような仕草をすると、ハワードの足元の地面を隆起させ、転倒させようとしたが、ハワードはジャンプをしてかわしながらドゥエンに向かってバスタードソードを振り下ろした。
ドゥエンは身体を真横に動かしてかわす。
ハワードの剣は地面を砕き、深く突き刺さったため、ドゥエンはハワードに向かって拳を向けようとしたが、またもやハワードから放たれた衝撃波で吹き飛ばされた。
ルースは剣を抜き、身にまとった風とともに、クロキに斬りかかる。
風で巻き起こる砂ぼこりで、クロキは目を開けていられない。
クロキはルースに接近し続けることができず、たまらず距離を取る。
するとルースは、自身の剣を真横に構え、手をかざした。
刀身の上に風が収束し、5本の風の矢が形成される。
「ゲイル・シューター!」
クロキに向かって風の矢が放たれる。クロキは走りながら矢をかわし、かわしきれない矢はナイフで切り払った。
ルースは空気系魔法トルネードを唱え、自身を包む風から複数の竜巻を生成すると、クロキと自身の間に配置した。そして、じわじわとクロキとの距離を詰めながら、再び刀身の上に風の矢を形成し、放つ。
クロキはこれ幸いと、竜巻を壁にするように竜巻の陰に隠れた。しかし、風の矢は竜巻を貫通し、クロキはかわしきれず、矢はクロキの肩をかすった。
嫌な予感がする。
クロキは他の竜巻を確認すると、それらの竜巻からクロキに向かって風の矢が飛んで来るではないか。
身をかわし、何とか矢を避けようとしたが、矢は脚や背中をかすめ、血が滲む。
ルースの固有魔法ゲイル・シューターは、単に風の矢を飛ばすだけではない。
風の矢は他人の空気系魔法の干渉を受けない。また、それだけではなく、ルースの唱えた空気系魔法であれば、威力を増幅することも、矢の軌道を変えることもできるのであった。
「さあて、いつまでかわし続けられるかな?」
ルースが唇を舐め、クロキに照準を定めた。
ドゥエンはハワードの攻撃をかわしつつ、隙を見てはカウンターを当てていく。フルプレートに覆われたハワード自身にダメージは与えられないが、フルプレートは確実に歪んでいった。
ついにハワードが初めて距離を取ろうとしたが、ドゥエンはすかさず距離を詰め、休む間もなく追撃した。
ふと、ハワードは背後の気配に気づき、後ろを振り向くと、そこにはいつの間にかクロキがいた。ハワードに接近すればルースは風の矢を思うように撃つことができないと踏んで、クロキはハワードの背後に移動していたのだ。そして、ドゥエンとともに鈍重なハワードから倒す、そう考えていた。
「マーゴットぉっ! 俺のっ! 愛をっ! 見ていろっ!」
ハワードが突然叫ぶ。
すると、周囲の地面から砂や石が浮かび上がり、フルプレートの上からハワードを覆う。ドゥエンと同じ、土系魔法アームドロックだ。
そして、ハワードは一瞬身構えると再び叫んだ。
「受けよ、リジェクトっ!」
その瞬間、ハワードを覆う砂岩の鎧が弾丸のように四方八方に飛び散った。
クロキとドゥエンは咄嗟に距離をとったが、無数に飛んでくる石をかわしきることはできない。ショットガンのように襲う石が二人の身体に突き刺さる。
そして、ハワードはバスタードソードを大きく振りかぶり、地面に倒れるクロキに向かって振り降ろした。
クロキは転がりながら間一髪かわしたが、バスタードソードは深く地面に刺さると、バスタードソードが刺さった所から一直線に、クロキに向かって地面が爪のような形状で大きく隆起し、クロキはその隆起に巻き込まれ、傷を負った。
一方、ルースはドゥエンに向かって風の矢を放ち続けている。
ドゥエンはアームドロックにより砂岩で覆った腕で風の矢を打ち落とすが、属性の相性が悪いため、手を覆う岩が削られ、手の甲が傷つく。
「思ったよりもダメージが少ないみたいだねぇ」
ビップ席から見下ろすマーゴットが呟いた。
ハワードのアームドロックからのリジェクトのコンボを初見でかわすことができるものは今まで皆無であった。
このコンボで致命的なダメージを与え、とどめを刺すというのが定石であったが、クロキとドゥエンのダメージは致命的とは言い難い。その証拠に、今、マーゴットの眼下で、二人はハワードとルースの追撃をギリギリでかわしている。
もちろんそのことには当のハワードも気付いていた。
そして、その理由も。
クロキとドゥエンは、リジェクトで飛び散る石をかわしきれないと見るや、ハワードに脚を向けてうつ伏せで地面に伏せたのだ。
これによって、飛び散る石が急所に命中する確率を下げ、しかも、ドゥエンは脚部を岩石で覆い、クロキは鉄板の入ったブーツによって脚部へのダメージも最小限に抑えていた。
ハワードは内心驚愕していた。
そして、これまでこの闘技場で戦ったどの闘技者よりも二人は脅威であると認め、手を緩めることなく攻撃を繰り出していた。
ルースは、ハワードの様子を見て畳みかけるタイミングと思い、風の矢を放っていたが、ふと違和感に気付く。
まさか、ハワードは追い詰めているのではなく、追い詰められているのでないか。
「ハワードさん、一度体勢を立て直した方が良い!」
ルースのアドバイスを聞き、ハワードは再び身体を砂岩で覆う。そして、リジェクトの体勢に入ろうとしたとき――
「ドゥエン、今だ!」
「はい! 吹散花!」
ドゥエンはさらしから椿の花を取り出すと、ハワードに向けた。
椿の花弁が幾重にも増えながら、ハワードに向かって舞い散り、ハワードは思わず花吹雪に目が眩む。
その隙に、ドゥエンは地面に両手を付け、「隆驀地!」と唱えると、ハワードの足元が隆起し、ハワードがバランスを崩した。
そして、クロキは横に回転しながら、ブーツの踵に仕込んだ魔法石エクスプローションの爆発で加速しつつ、ブーツのつま先をハワードの膝の横にめり込ませると、比較的装甲の薄い膝関節はクロキの一撃で砕け、ハワードは膝を庇うようにバスタードソードを地面についた。




