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地下闘技場

「へぇ、どのような?」


 ドゥエンが食いついた。

 マーゴットの眼が艶やかに光る。


「なぁに、あんたらの腕を見込んでのことさ。まあ強制じゃないからね、興味がないんだったら――」

「まずは話を聞かせてもらいたいね」


 マーゴットの言葉を遮り、食い気味にドゥエンが聞いた。

 マーゴットはチンピラの持つ灰皿にタバコを押し付けると、立ち上がり、


「じゃあ、場所を変えようか。着いてきな」


 と顎で店の外を指し示した。





 マーゴットに連れられ、クロキとドゥエンは街の外れにある大きな平屋の建物に入った。

 外見とは裏腹に内部は豪奢な装飾に彩られており、建物の中央に造られた大きなホールでは、薄暗い中でスポットライトが中央のステージを照らし、着飾った女性が歌を歌っていた。そのステージを取り囲むようにテーブルとソファが並べられ、上流階級と思われる男女が座って酒を嗜んでいる。


 クロキとドゥエンの前を歩くマーゴットは、ホールには入らず、廊下を突き進む。そして、角を曲がると、強面の男が壁に寄り掛かって立っていた。

 その男はマーゴットを見ると、直ぐに背後の壁を押した。すると、壁がドアのように開き、地下に続く階段が現れた。

 マーゴットはクロキとドゥエンを振り向くと、目で付いてくるよう合図をして、階段を下り始めた。


 階段はろうそくの灯に照らされるのみで、薄暗く足元は覚束ない。

 しばらく下ると階段が終わり、平らな廊下となった。


 ふと、廊下の先から歓声が聞こえてくる。マーゴットについて進んでいくと徐々に歓声が大きくなり――


「これは……」


 クロキは目の前の光景が信じられず、呆気に取られた。

 廊下の出口は観客席であった。そして、観客席は円状に配置され、観客席が囲む中央の低くなったスペースで二人の男が戦っていた。


 男たちは鎧を着ており、片方は剣を、片方は槌を握っている。

 二人はしばらく武器を打ち合っていたが、剣の男が槌の男の力に押されはじめ、ついには槌に頭を砕かれ倒れた。

 勝負が決したらしく、観客席から歓声が沸き起こる。


「へえ、この国にも武闘場があるんですね」


 ドゥエンが観客席や中央の闘技場を眺めていると、マーゴットがクロキとドゥエンを振り向いた。


「東の国にもあるのかい? ここは、あたしら裏の人間が主催する地下闘技場さ」


 中央の闘技場にまた新たな闘技者が入場し、観客が湧き経つ。そして、会場の一か所に設置された掲示板に闘技者のオッズが表示された。


「そろそろ何か変わったことが必要だと思っててね、東の国からきた異国人と、異世界からきた異邦人。盛り上がること間違いなしさ」


 マーゴットは闘技場を背に両手を広げ、目を見開きながら笑う。


「先に条件を聞きたい」


 クロキが切り出した。


「条件なんてないさ。相手はこっちが用意する、あんたらはただ戦えばいい」

「何回戦えば良い? 死ぬまで、なんてのはごめんだぜ」

「意外と強気だね、これはあたしの譲歩だってのを忘れないどくれよ。ただまあ、あたしもそこまで悪い人間じゃない。あたしの利益が3万になるまで、さ」

「テラ銭は?」

「テラ銭? あたしらの儲けのことかい? 11ペルケント(%)さ。ちなみに3ペルケント(%)が勝利した闘技者の取り分。これをあんたらが放棄するならあたしらの取り分を14ペルケント(%)で計算するけど?」


 クロキとドゥエンは顔を見合わせ、うなずいた。


「それで良い」

「よし、契約成立だね。さあ、この二人を闘技場まで案内して差し上げな」


 マーゴットの指示で、手下がクロキとドゥエンに付いてくるよう指示をした。





 闘技場に続く通路で、クロキとドゥエンは前の闘技者の試合が終わるのを待っていた。


「いやぁ、巻き込んでしまって申し訳ないです」


 ドゥエンは頭を掻きながら、ウォーミングアップをしているクロキに謝罪した。


「いやいや、俺にだって原因の一端はあります。ドゥエンさんこそ、名も知らない店員のためにここまでするなんて」

「理不尽には抵抗するのがポリシーでして。弱い者いじめは元来好かない質です。それに、付いて行けば強者と戦える臭いがしました」


 そう言ってドゥエンは鼻を指さした。


 闘技場で歓声が上がった。どうやら前の試合が終わったようだ。


「さて、そろそろですね……」


 クロキが身体を起こし、首に手を添えて首を左右に倒した。





「姐さん。オッズです」


 観客席の一等高い場所。ビップ席から闘技場を見下ろすマーゴットに、部下がオッズと賭け金の総額が書かれた紙を手渡した。


「4万かい。思ったほどいかないねぇ」

「デビュー戦はよっぽど話題性がない限りはこんなものでしょう」

「ふうん……いや、やっぱり物足りないねぇ、何か良い案はないかい?」

「そうですねぇ、ああ、それじゃあ、こういうのはどうでしょう」


 手下がマーゴットに耳打ちするとマーゴットはふふんと笑い、


「面白いじゃないか。試しにやってみな」


 と手下に許可を出した。





「あー、二人とも、上着を脱いでもらおうか」


 係の手下がクロキとドゥエンのもとへ走ってきた。

 二人は顔を見合わせる。


「どうしてだ、今までの試合ではそんなことはしていなかったと思うが?」


 クロキが聞くと、係の手下はしどろもどろに答えた。


「あー、いや、どうも、あんたらの試合はそういうことになったらしい」

「そんな話を聞いた覚えはないが――」

「良いじゃないですか。上着があろうがなかろうが同じことです」


 クロキの言葉をドゥエンが遮り、ドゥエンは上着を脱いだ。

 上着を脱ぐと、ドゥエンはさらしを巻いているほかは、上半身には何も身に着けていない。

 ドゥエンに合わせてクロキもしぶしぶ上着を脱いだが、腰に付けたホルダーも外すよう言われ、ホルダーも外した。

 クロキが上着を脱いで黒いタンクトップ姿となり、引き締まった身体が見えると、ドゥエンは感心した様子でクロキの身体を眺めた。

 そして、ドゥエンは自分の荷物から包帯を取り出すと自分の手に巻き、余った包帯をクロキに差し出した。


「腕から手に掛けて巻いておくといいです。多少の斬撃なら防ぎますし、噛みつかれても肉を持っていかれない。そして、手に巻いておくと脱臼を防ぎます」


 だが、クロキは手下に渡した腰のホルダーから黒いテーピングテープを取り出すと、当然知っている、という顔で腕と手に巻き始めたので、ドゥエンは、失礼しました、といったような顔で胸に手を当てて頭を下げた。


 クロキとドゥエンが闘技場に入場すると歓声が上がる。

 二人ともここに立つのは初めてであるにもかかわらず、前の試合と同じくらいの歓声が上がったため不思議に思っていると、アナウンスが入り納得した。


「さあ、次の試合は、2級闘技者ハイド兄弟と、本日初参戦、東の果てから来た異国人ドゥエン、アーンド、異世界から来た異邦人クロキだぁぁぁ! そして、今回まさかのハンディキャップ戦! いつもどおり武装したハイド兄弟に対し、ドゥエン、クロキ組は自分の武器の持ち込み及び使用が禁止となりますっっ!」


 ひと際大きな歓声が上がる。

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