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無双の狂刃

「ハイプレッシャー!」


 ティムのスキルが発動し、ジャックに向かって残像が斬りかかると、ジャックは回転斬りで残像を消し去り、そして上空を見た。

 ティムが上空に跳び上がっている。それはまるで、ネロス城の堀に架かった橋の上でクロキと対峙したときのよう。あのときは、クロキに完全に見切られた。

 だが――


「クロキ、見ていろ! あのときとは違うぞっ! ハイプレッシャー!」


 真下で見上げるジャックに向かって、空中姿勢のティムから残像が発せられた。


 ティムのスキル――ハイプレッシャーは、以前は地面に脚が付いた状態の決まった構えでしか発動することができなかったが、修練を経て、どんな体勢からでも発動することができるようになっていた。


 ジャックが上空から飛び掛かって来る残像を切りつけ消し去ると、消し去った残層の影からティムが姿を現し、ジャックを斬った。

 ティムの剣はジャックの右腕をかすめ、地面に当たり、金属音を響かせる。

 ジャックの右腕に血が滲む。

 だが、ジャックは左足でティムの剣を踏むと、すかさず右足でティムの左ひじを蹴り、へし折った。


「ぐああ!」


 ティムは、思わず剣を手から離し、苦痛の声を上げる。


「弾岩龍牙!」


 シンジの身体に巻き付く琥珀色の鱗を持つ龍の口から、先の尖った石がマシンガンのようにジャックに向かって放たれた。

 ジャックは不安定なティムの剣の上から降りて石の弾丸をかわし、石が止んだところでスラッシュ・リッパーの構えを取った。


「俺にあらゆる攻撃は通ら……な――」


 シンジの首から血が噴き出る。

 既にジャックの姿は目の前になく、ジャックはシンジの背後で鏡のように自身の瞳を映すダガーナイフの刃を見ていた。


「まぁ、普通は反応すらできないんだけどな。それにしてもお前固いな、首を落とすつもりだったんだが、どういう身体してんだ?」

「ば、かな……」


 シンジは、斬られた頸動脈を手で押さえるが、大量の出血は止まらず立ち眩み、その場に膝をついた。


「さぁ、次はどいつだ、邪魔する奴は容赦しねぇぞ!」


 ジャックの一声に、ジャックとクロキの間にいた兵士たちが道を開ける。

 間に残ったのは、ゴードンとアーノルドだけとなった。


「トルネード・ホーン!」


 ゴードンとアーノルドに向かって一歩踏み出したジャックに向かって、兵士たちの間に潜み隙を窺っていたイゴールが魔法を放った。

 しかし、ジャックは即座に反応し、一瞬の溜めの後、


「ぬるいぬるいぬるいぃいいっ!」


 とツイスト・リッパーを発動させ、その回転とトルネード・ホーンの回転がぶつかり合い、周囲に強烈な風が巻き起こる。

 2つの回転がせめぎ合い、ついにジャックはトルネード・ホーンを受け止め切った。

 そして、間髪入れず、右手のダガーナイフをイゴールに向かって投げつけると、ダガーナイフは兵士たちのわずかな隙間を縫い、イゴールの腹部に突き刺さった。


 ジャックは腰から予備のダガーナイフを抜くと、ゴードンに向かって走り出す。


「ゴードン様! 逃げてください!」


 テオは城壁の上から叫ぶがゴードンには届かない。


「くそっ……」


 テオは大きく弦を引き、ジャックに狙いを定め、深く呼吸をして、弦を離す。

 テオのスキル――ペネトレイトがジャックに向かって放たれた。

 しかし、ジャックは難なくかわす。せめて受け止めるか、斬り払うかしてくれればスキルを使う意味はあるが、こうも簡単にかわされるとテオはジャックに対して全くの無力であった。

 ゴードンを守るため、テオは矢を連射しジャックをけん制するが、スキルではない矢はジャックに斬り払われ、ジャックの歩みを止めることはできない。


「ゴードン、止むを得えん、橋を壊すぞ」


 アーノルドはそう言うと、大きく大斧を振り被り、スキル――グランド・アックスの体勢を取った。


「めんどくせぇなぁ!」


 ジャックは回転し、遠心力で勢いをつけてダガーナイフを投げ、アーノルドの腕に刺すと、一気に距離を詰め、アーノルドの腕に刺さったダガーナイフを掴み、傷口を執拗に抉った。

 そして、アーノルドの苦痛の呻きと表情を堪能すると、アーノルドの身体を蹴り飛ばし、今度はゴードンに向かう。


 ついにジャックの標的となり、ゴードンに一層の緊張が走る。

 ジャックはゴードンとの距離を一瞬で詰めるとダガーナイフで斬りつけた。

 ジャックの攻撃にゴードンは押されながらも、クレイモアや身にまとう重装の鎧で受けながら、何とかジャックの攻撃に耐えている。


「へぇ、思ったよりやるじゃねぇか。だが、まだまだ」


 ジャックが至近距離で回転すると、ゴードンは回転で勢いを増しながら何度も当たるダガーナイフに堪え切れず、ついにクレイモアを弾かれてしまった。そして、がら空きになったボディに廻し蹴りを受け、後ろに倒れる。


「ゴードン様!」


 テオが叫ぶ、もはや矢を討っても間に合わない。

 ジャックがゴードンにとどめを刺そうと前のめりになったそのとき、ジャックが顔の横に浮かぶ手の平大のシャボン玉のような空気の球に気付く。


「あん……?」


 次の瞬間、空気の球が爆発した。

 周囲は騒然とする。周囲の者たちからするとゴードンとジャックがともに爆発に巻き込まれたように見えていたのだ。


 ジャックは爆発で吹き飛ばされはしたが、爆発の瞬間、咄嗟に腕でガードし、ほとんどダメージはなかった。

 一方のゴードンも、陽の光を反射する透明な光の球体に覆われ、爆発の影響を受けずに無傷であった。


「おお、テイラー、遅いぞ!」


 テオが見る城壁の上に、黒いロングヘアをなびかせて立つ眼鏡の魔術師――テイラーが立っていた。

 そして、その脇に立つ、白と濃紺の軽装に身を包んだ、黒いショートヘアーの女騎士。


「カオリ様だ」

「カオリ様が来てくれた」


 兵士が口々に女騎士の名を叫ぶ。


「これで巻き返せる」


 テオがホッとしたように言うと、城壁を囲む帝国軍から叫び声が上がった。

 その叫び声に反応し、ジャックが城門の外の帝国軍を振り向くと、爆発や煙が見える。

 モンテ皇国軍の本隊のうち、先行していた馬車部隊が到着したのだ。


 テイラーがテオに手を振った。

「遅くなってごめんね~、だいぶ押されているみたいだけど、ひとまず本隊のうち、八千到着~」


 メソジック帝国軍はムスティアを取り囲むため三軍に分割しているため一軍の数が少なくなっている上、しかも背後から攻められたものだからたまったものではない。

 戦列を破られモンテ皇国軍本隊のムスティア城への入城を許すのも時間の問題であった。


 テイラーは、橋の上を見やり、状況を把握する。


「ありゃりゃ?」


 クロキが瀕死の重傷を負っていることにテイラーは気付き、心配そうな顔をする。


 城壁の上でメソジック帝国軍を迎撃していたリタは、久々に会ったそんなテイラーの様子を見て、

「姉さん……」

 と唇を噛んだ。

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