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影を斬り裂く狂刃

 ジャックがその場で高速回転し、周囲のものを切り刻む。

 そして、回転を止めると、上空を見上げた。


 クロキをそう簡単に倒すことはできないと考えていた。何かしら策を持っているとは思っていたが、近くにいた兵士を足場にして上空に跳び上がることとは――


 ジャックの予想の範囲内であった。

 いかに高速の鋭い回転であろうと、回転の中心を垂直方向から攻撃されればもろい。クロキならその弱点を当然つくと思っていた。

 ジャックも近くの兵士の身体を足場にして真上に向かって跳び上がった。

 そして、身体を傾けると、刃が地面に触れないように攻撃範囲を狭め、クロキが落下してくるところを狙うように縦方向にツイスト・リッパーを発動させた。

 しかし、ツイスト・リッパーが発動する直前、爆発音とともにクロキの落下速度が加速する。


「なにっ!」


 ジャックが驚く間に、魔法石エクスプロージョンにより加速したクロキは空中でジャックとすれ違い、橋の上に着地した。

 クロキと時間差でジャックが橋の上に落下する。

 ジャックはクロキに刀で背中を打たれ、防刃ベストで裂傷こそないものの、激しい痛み身体の芯に響く。


「か……ああ……」


 ジャックは背中を強く打たれたために呼吸が困難となっていたが、しかしそれでも身体を震わせながら起き上がり、クロキを見た。


 クロキもまた無傷ではなかった。

 紙一重でジャックのスキルを受けずにすれ違うことができるとクロキは見込んでいたが、ジャックが空中でスキルを発動したことにより、脚が地面に接していない分、摩擦がなくなり、ツイスト・リッパーの回転速度が増していたため、クロキは着地する寸前でジャックの斬撃を右脚と胸、そして額に受けていた。

 胸と額の傷は浅かったが右脚の傷は深く、血が溢れてくるのが分かる。だが、ジャックを倒す千載一遇のチャンスを流すわけにはいかない。


 クロキは止血をせず、右足に負担を掛けないよう左足でバランスを取る。

 額の傷から流れる血が左目に入り、クロキは血を拭う。

 一歩、また一歩とジャックとの間合いを詰める。

 攻撃の間合いまで後十歩。

 ジャックの呼吸が戻ってきた。

 ジャックは激しい背中の痛みを堪え、よろつきながらクロキを正面に捉え、ゆっくりと構える。

 その構えは今までのどの構えとも違う、まるでスタンディングスタートのようであった。

 クロキはジャックの構えに気付くと、警戒した。


「スラッシュ・リッパー!」


 しかし、警戒する間もなく、気付いたときにはジャックの姿はクロキの背後。

 刀が真っ二つに砕け折れる。

 クロキの左肩から右わき腹に掛けて深く斬られ、血が噴き出し、クロキは前のめりに倒れた。


「クロキ!」

「クロキさん!」


 ティムが、テオが、ゴードンが、クロキの名を叫んだ。


 2つ目のスキル。

 スキルを2つ持つ者は世界中を探しても両手で数えるほどしかいない。

 それがまさか、異世界から召喚されてわずか2年のジャックが、スキルを2つ持っているなど誰が想像し得たろうか。


 ジャックの2つ目のスキル――スラッシュ・リッパー。

 高速で突進しながら対象とすれ違う間際に回転し、斬り裂く。

 まともにヒットすれば人体を真っ二つにできるスキルであった。

 しかし――


「やろう、咄嗟に反応しやがった……!」


 ジャックは、その手の握るダガーナイフを見ながらクロキを斬った感触を思い返した。

 鎖骨、肋骨を切断した感触はある。しかし、刃は心臓に達していない。

 本来なら即死を免れない一撃であったはずだが、クロキが瞬間的に身体を動かし、即死を避けたのであった。

 だが、クロキの身体からはおびただしい量の血が流れており、いずれ死に至るであろう。


 クロキは自身の顔を紅い血に沈めながら、死を考えた。

 そういえば……いつだったか、いつかもこんな状態になった。

 ここまで血は流れていなかったと思うが……身体は動かず、意識が遠のくこの感じ――そうだあのときだ。

 あのときもそうだ、今、目の前に倒れている兵士のように、仲間たちが倒れていた。

 そして、耳の奥に残る笑い声。

 その声のさらに奥に、懐かしい声がある。


「――」


 ジャックは息を飲んだ。


「おいおい……マジかよ……」


 クロキが脚を震わせながら、刀の鞘を足元に突いてゆっくりと立ち上がった。

 足元に溜まる紅い血は、既に誰がどう見ても致死量に達していた。


「お、俺は……死、なねぇ……か、カミ、ムラをぶっ殺、すまでは、ぜ、絶対に、絶対……に……死んで、たまるかぁっ!」


 クロキが声を振り絞るのを聞きながら、ジャックは動揺しながらもクロキに止めを刺そうとダガーナイフを振るった。

 しかし、ダガーナイフは空を切る。

 カルロスがロープでクロキを捕らえ、引き寄せたのだ。


「おい、誰か! ヒール!」


 カルロスは自分の足元までクロキを引き寄せると、クロキの身体を抱きかかえながら治療術師を呼んだ。


「アンナ、頼む!」


 ゴードンがアンナを呼び、アンナがクロキのもとに駆け付ける。


「邪魔をするなぁ!」


 ジャックがクロキに向かって走り出す。

 しかし、その行く先を火球が遮り、炎の中からティムが現れ、ジャックに斬りかかった。


「てめぇ、何してやがる!」


 怒りの形相で叫びながら振るわれるティムの剣を、ジャックはダガーナイフで受けつつ、距離を取る。


 ティムはジャックに剣を向けながら、顔だけを横に向け、アンナの治療を受けているクロキの様子を確認すると、ジャックに顔を向け直した。


「クロキっ、てめえを倒すのはこの俺だって言ったろうが、ここで死んだらぶっ殺すからな!」


 ティムが鋭い目つきでジャックを睨みつけた。

 その横に、シンジが降り立つ。


「皆さん、クロキさんをお願いします。こいつは、俺に任せてください」


 ティムとシンジがクロキとジャックの間の壁になった。

 さらに城壁の上からテオがジャックに狙いを定め、ゴードンとイゴールもジャックに応戦する構えを見せている。


「くくっ、どいつもこいつも……」


 いらつくジャック。


「どいつも、こいつもぉっ!」


 ジャックがティムとシンジに向かって走り出した。

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