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三度目の戦い

 血飛沫に反応した一瞬、瞬きをした一瞬であった。

 そいつは既に、クロキの眼の前に詰め寄っていた。


「さぁ、続きをしようぜ……」


 浮かび上がるような白い軍服に身を包んだ男。ブロンドの髪が揺れ、前髪の間から左目の眼帯が覗く。

 クロキにとっては、三度目のジャックとの対峙であった。


「ジャック、お前も来ていたのか!」


 ジャックが振るうダガーナイフをクロキは刀で受け止める。


「お前がいるということは、カミムラもいるんだな」

「今は、カミムラ様はどうでもいいだろ!」


 クロキが目つぶしの入った卵を投げるが、ジャックはダガーナイフで斬り払わずにかわす。目つぶしと同時に、クロキは投げナイフを放っていたが、ジャックはその場で高速回転し、ナイフをはじき返した。


「今は……俺を見ろっ!」


 ジャックは、横から割って入ってきたモンテ皇国兵の攻撃を一瞥もせずにかわし、兵士の首をダガーナイフで切ると、兵士の首から血が吹き出る。

 その血はジャックの白い軍服に紅い模様を付けた。


「誰の邪魔も許さねぇ、今は俺とお前の、二人の時間だ。ハハハ……」


 ジャックは高らかに笑いながら、クロキに斬りかかる。

 クロキとジャックは、目にもとまらぬスピードで切り結んだかと思うと、縦横無尽に橋の上を駆け回りながら刀とダガーナイフを打ち合い始めた。

 欄干の上で、空中で、兵士の肩や頭を足場に跳び回りながら。


 クロキにとって、ジャックとは2か月ぶりの邂逅であったが、ビルの屋上で戦ったときと比べて技の鋭さが増していた。

 しかし、ジャックにとっては2年である。この時間は思った以上に長い。


 クロキは、眼帯をしているジャックの左目の死角を狙い、左側から攻撃を仕掛けようとするが、ジャックは右目のみでの戦いを完全に身に着けており、そこは弱点ではなかった。

 この2年間のジャックの修練の証であった。


 クロキとジャックの実力は完全に拮抗していた。勝敗はおそらく紙一重で決まるだろう。だが、クロキはその紙一重をものにする自信、いや実感があった。

 このままいけば、きっと自分がジャックに致命傷を与える、そう思っていた。


 そして、ついに均衡が崩れる。

 クロキの左手に巻かれた包帯が長く解かれ、一瞬ジャックの視界を遮る。ジャックは包帯の排除と防御を一体に行うため、その場で回転して包帯を切り刻んだ。そして、制止し、攻撃に転じようとしたとき、ジャックはバランスを崩し、その場によろけた。

 ジャックの片足にワイヤーが巻き付いていた。

 クロキは、ジャックが回転している間に、ワイヤを投げ、脚に絡ませていた。

 ジャックはワイヤーにダガーナイフの刃を当て、簡単に切断することができないと見るや再び回転し、遠心力を利用して威力を上げ、ワイヤーを切断した。

 その間、ジャックはクロキから完全に目を離していた。

 そして、それはクロキとジャックの戦いにおいて、致命的であった。

 ジャックが回転を止めた瞬間、クロキの左手に握られた刀が右下から左上に向かって斬り上げられた。

 並外れた反射神経を持つジャックは、間一髪身体をのけぞらせると、刀の切っ先はジャックの顎先を斬る。

 ギリギリでかわした、と思ったのも束の間、クロキの左拳がジャックの胸に突き刺さり、爆発した。

 クロキのガントレットの拳の部分に魔法石エクスプロージョンが仕掛けられ、衝突と同時に発動したのであった。

 ジャックは爆発の衝撃で後方に吹き飛ばされ、背中を地面につける。

 クロキは追撃をしようとしたが、ジャックが直ぐに起き上がり体勢を整えたため、脚を止めた。


「やっぱ、やるじゃねえか」


 ジャックは肩を上下させながら、ダガーナイフを構える。

 爆発で破けた軍服の胸の部分から、ボロボロになった防刃ベストが見えた。

 ダメージは確実にあるが、防刃ベストのおかげで致命傷を避けることができたのであった。


 ここ。

 ここで畳みかける。


 クロキは勝負を終わらせるため間合いを確かめる。


「悪いが、ここまでだ」


 クロキの言葉に、ジャックはフフっと笑った。


「いいや、ここからだ」


 ジャックの構えが変わった。

 そして、一瞬の溜め。


「ツイスト・リッパーッ!」


 ジャックが高速で回転した。

 今まで見たどの回転よりも速く、鋭い回転であった。

 クロキが気付いたときには、ジャックの周囲にいた兵士たちが切り刻まれバタバタと倒れる。ジャックから5メートル以上離れていた者も、敵味方関係なく、切り刻まれていた。


 クロキは違和感を感じて右腕に見ると、右腕が深く斬られ、おびただしい量の血が流れていた。

 まさか――クロキは左手に巻いた包帯で右腕の傷を止血しながら距離を取る。


「どうだ、俺のスキルは」


 ジャックは不敵に笑う。

 周囲の兵士から飛び散る血飛沫で、ジャックの白い服はさらに紅に染まる。


 やはりスキルであった。

 冷たい汗がクロキの背をつたう。ジャックがスキルを覚えたことは、大変な脅威であった。


 クロキはジリジリと後ろに下がりながら作戦を組み立てる。しかし、ジャックはその時間を与えない。

 クロキに向かって走り出し、直ぐに距離を詰め、ダガーナイフを振るう。

 クロキがそれを受け止めると、ジャックは回転する仕草を見せる。

 クロキはスキルを警戒し、全速力で射程範囲外へと出たが、ジャックの回転は通常の回転斬りであった。


 クロキは、今ホッとしたことを悔いた。

 勝負は終わってない、まだこれからだ。

 クロキは気をひきしめ、再び対応を思案する。

 先ほどのジャックのスキルを見て大体の射程範囲は覚えた。そして、クロキ自身の傷と周囲の兵士の傷で、刃の軌道もおおまかに予想できる。


 後は正確に通常の回転斬りとスキルを見分けること。

 さっきは焦って思わずかわしてしまったが、スキルのときは構えが違った。よく見れば区別はつくはず。


 ジャックが再び近づきクロキと数度斬り合うと、またもや回転する仕草を見せる。

 スキルの構えではないが、わずかに反応してしまい、クロキはたまらず距離を取った。


「いちいち反応しやがって、良く見てやがるな、だが、スキルを警戒するのも辛いだろう」


 ジャックの言うとおりであった。ジャックの通常の動きに対応しながら、スキルを警戒することは神経をすり減らす。


「そうだな、お前の言うとおりだ」


 クロキは大きく息を吐くと、ジャックの動きに集中する。


「腹は括った。もう、逃げない」


 クロキがジャックに向かって走り出した。


「それだよ、それっ、それでこそだよエージェンツ・ブラック!」


 クロキがスキルの間合いに入ったのを見て、ジャックがスキルの構えを取る。ここからクロキが距離を取ってかわすことは不可能。


「死ねっ、ツイスト・リッパー!」

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