空間を操る男
距離を取らずに、クロキがそのままラウロに斬りかかると、ラウロは剣を抜いて刀を受ける。
クロキは刀を引き、今度はラウロの胸に向かって刀を突くと、ラウロは自分の胸の前の空間に穴を開け、刀の切っ先をその穴の中に誘い込み、空間の出口となる穴をゴードンの傍に創り出して、ゴードンに刀が突き刺さるように仕向けた。
刀はゴードンの鎧に当たったため、辛うじてゴードンに怪我はなかったが、なるほど、これはなかなか便利な魔法だ。
クロキはラウロの魔法の汎用性の高さに感心しながら、ラウロから距離を取った。
「クロキさん距離を取っては相手の思うつぼです!」
ゴードンが叫ぶとラウロも笑う。
「はは、俺の魔法がなんなのか分からないみたいだな」
ラウロは空間に穴を開けて、穴に向かって剣を突き刺した。
すると、クロキの背後に穴が創り出され、その穴からラウロの剣の先がクロキに向かって飛び出す。
しかし、クロキは身体に掠めながらも穴から出てきた剣をかわし、逆にその穴に向かって刀を突き刺すと、刀の切っ先は、穴の向こう側にいるラウロの右肩に深く突き刺さった。
「あぎゃぁぁ!」
ラウロが激痛に声を上げる。しかし、そこは隊長というだけあり、直ぐに次の手に出た。
「くそがぁ!」
自分の身体の周囲に、腕や脚が入る程度の大きさの穴を数個創り出し、それらの穴に向かって、渾身のスピードで不規則に、剣や、拳や、蹴りを放った。
クロキの周囲を取り囲むように複数の穴が出現し、それらの穴からラウロの攻撃が飛び出し、クロキを襲う。
しかし、剣はかわされ、拳と脚はクロキの刀に斬られ、傷を負ってしまった。
「なんで分かる! 俺の攻撃が!」
ラウロが思わず叫んだ。
クロキは始めに放ったナイフと、先ほど刀を防がれたことにより、ザ・ゲイトウェイがどのような魔法であるかおおむね理解していた。
空間をつなぐ穴を創り出すこと。
穴でつなぐことができる空間は、およそラウロの視界の範囲よりも狭い範囲であること。
振り下ろした刀は空間に穴を開けずに防いだことから、穴はあくまでも円状で、その大きさはせいぜい直径30センチメートルほどであること。
そして、空間に穴が開くとき、風を切るような小さな音がすること。
実際には、穴の大きさは魔力を溜めることでより大きな穴にすることができるが、ラウロが通り抜けられるほどの大きさまで広げるには時間が掛かるため、腕や脚が入る程度が実戦で使える大きさであり、その点以外はクロキの予想どおりであった。
このことから、直線的な攻撃は空間の穴でガードされ、逆に味方に被害を与える可能性があるため、基本的にカウンターを狙う。そして、接近するとラウロの動きが見えにくいため、離れた方が良いとの結論にクロキは達していた。
ラウロの動きと、穴が開くときの小さな音、そして、別の空間をつなぐことによるわずかな空気の流れに集中することで、自分の近くのどこに空間の穴が開くかも察知することができる。
そして、もう一つクロキが懸念していることがあったが――
ラウロの両腕がそれぞれ別の穴から同時に出て来た瞬間、クロキがカルロスに合図をした。
すると、ラウロの両腕は空間の穴から出た状態で、手錠を掛けられたようにぴったりとカルロスのロープによって縛られた。
「しまっ……」
この状態では穴から腕を抜くことができない。
クロキの予想が正しければ、穴の狭間に存在する物体は、穴を閉じた瞬間、切断される。
つまり今のラウロの状態――両腕をそれぞれ別の穴に通したまま穴を閉じると、両腕が切断されるため、ラウロは自らの魔法によって身動きが取れなくなった状態なのだ。
腕を縛るロープを上手く穴の狭間に動かし、穴を閉じることでロープを切断することができるが、穴を閉じたときに怪我をしないよう、それをするには時間と集中力が必要である。
よって、もはやラウロは試し斬りの人形も同然。
ゴードンがラウロの横から迫り、ラウロの腕を切断しながらラウロを上から下に斬り捨てた。
ゴードンは肩で息をしながら、背後でマルチェロを相手に戦っているアーノルドたちを振り向いた。
マルチェロは、右腕に絡みつくカルロスのロープに四苦八苦しながら左手で剣を振り回していたが、ラウロが倒されたことを知ると、右腕のロープを即座に切って距離を取り、アーノルドとロープの主――カルロスが一直線になる位置でアーノルドに向かって斬撃を飛ばした。
アーノルドは飛びのいてすかさず斬撃をかわしたが、奥にいたカルロスは反応が遅れ、わずかに服に掠る。
そして、その間にマルチェロはさらに距離を取ると、
「隊長がやられたなら、退却あるのみです。それでは」
と、ゴードンらに手を振り、残った兵士を引き連れて一目散に退却した。
クロキもゴードンも、マルチェロの鮮やかな撤退にその場で茫然とするばかり。
しかし、カルロスはマルチェロが切断したロープの切断面を見ながら、マルチェロはラウロが倒されるまで――正確にはラウロとクロキの戦闘に決着が着くまで、あえてロープを斬らなかったような気がしていた。
それはアーノルドも同じ感想であり、マルチェロはどういうわけか手を抜いて戦っている節ように感じていた。
何はともあれ、村を襲撃するメソジック帝国軍がいなくなったことを知ると、逃げ遅れた村人たちが現れ、メソジック帝国軍を追い払ったゴードンとその仲間たちに次々に礼を言う。
ゴードンは仕切りに頭を下げる村人たちに少し気恥しいような、困ったような表情で対応していたが、ふと、自分に向かって歩いて来るクロキに気付いた。
「あ、クロキさん、すいません助かりました」
村人たちの輪から抜け出してクロキに駆け寄るゴードンに対して、
「全く、勝手に飛び出していくんじゃねえ」
と、クロキはゴードンの頭を殴った。
ゴードンは突然殴られ、ポカンとしながら頭を押さえていたが、思ったほど痛くなく、また、クロキが怒っている、というよりは、呆れた顔をしていたため、思わず笑い出してしまった。
ゴードンの笑顔を見て、クロキも釣られて笑ってしまう。
本当は、ゴードンに会ったらしこたま叱ってやろうと考えていたが、ゴードンがラウロに向かって切った啖呵と、そして今、ゴードンを慕い取り囲む村人を見て、そんな気は失せてしまっていた。
「よし、戻るぞ」
捕えたメソジック帝国軍の兵士とともに、ラウロの遺体もロープでぐるぐる巻きにしたカルロスがクロキに声を掛けた。
太陽は天辺に達し、時刻は既に陽下二つ(正午頃)になろうとしていた。
「早く戻ろう」
クロキはうなずいた。
もう間もなく、メソジック帝国の第二軍が先行部隊と合流する。




