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蛮行に燃ゆ

 ムスティア城から目と鼻の先にある近い小さな村。

 住民は百人ほどであろうか。

 果実の生産によって成り立つこの村は、平時は農作業に精を出す村人の姿しかない穏やかな村であったが、この日は違っていた。


 村のあちこちから火の手が上がり、村人が着の身着のままで逃げ惑う。

 その村人を追いかける白い鎧に身を包んだ兵士たち。

 村はメソジック帝国軍の襲撃を受けていた。


 ゴードンがモンテ皇国の兵士10名とこの村に到着したときには、既にこのような状況であった。


 モンテ皇国の兵士たちが目についた村人たちに駆け寄り、ムスティア城まで走って逃げるよう指示をする。

 ゴードンも兵士たちと同じように村人に避難を指示していたが、村人を追いかけてくるメソジック帝国軍の兵士と遭遇し、戦闘になった。


「ここは、私たちが抑えます。皆さんは村の人たちを」


 ゴードンとアーノルド、アンナ、リタがメソジック帝国の兵士たちと対峙した。

 ゴードンたちよりも兵士たちの人数の方が多い。しかし、ゴードンたちも様々な経験を積んだ一端の冒険者であり、しかもリタとアンナの魔法、そしてアーノルドのスキルによるアドバンテージで、次々と兵士たちを倒していった。


「ゴードン、あまり前に出すぎるなよ」


 少々前のめりになり、兵士たちを深追いしつつあったゴードンをアーノルドが諫める。


 ゴードンは感情が先行したような状態であったが、それには理由があった。

 ゴードンはメソジック帝国軍のやり方が許せなかったのだ。

 戦う力のない村人を襲い、平穏な暮らしを壊すなどゴードンの考える騎士道にもとると行為であった。


「後ろの兵士の人から少し離れちゃってるから、一旦戻ろ?」


 アンナがゴードンに体制を立て直すように促し、ゴードンもうなずいて戻ろうとしたが、そこにメソジック帝国軍の後続の兵士がやってきた。


「これは戻るにも戻れないな……」


 ゴードンはそう言って大剣クレイモアを構える。


 すると、手前の兵士が道を開け、奥から部隊の隊長と思われる男がゴードンたちの前に現れた。


「なんか戻って来ねえと思ったら、どういうことだ、こら」


 髪の毛をオールバックにした白い軍服姿の男は、チンピラ然として、その横に立つおかっぱ頭の少女のように小柄な青年を鞘に納めた剣でこづいた。


「僕に聞かれても分かりませんよ、って言うかいちいち剣で突くの止めてもらえますかラウロさん」


 チンピラ風の隊長――ラウロが、歯並びの悪い口で歯ぎしりをしながら、おかっぱ頭の青年にガンを飛ばす。


「ああん? マルチェロ、お前一体何様だ? 副隊長様だっけか? あん? 俺は隊長だぞ、おい」

「いや、そんな分かりきったことを自信満々で言われても困るんですけど」


 マルチェロはラウロを軽くあしらう。


「そう言えば、本隊が襲撃されて壊滅状態らしいですけど、戻らなくて大丈夫ですか?」


 マルチェロとラウロの会話で、ゴードンは強襲が成功したことを知り、思わず顔が綻んだ。


 すると、ラウロがゴードンの表情に気付き、歯ぎしりをしながら頭を横に倒してゴードンをねめつけた。


「今、喜んだろ……はい、決定、手前は殺す」


 ラウロからゴードンに向かって殺気が放たれる。

 ほかの兵士たちとは比べ物にならない威圧感に、ゴードンたちは身構えた。


「仕方ないですね、早く終わらせて戻りましょう」


 マルチェロもラウロに合わせたように、腰に下げた剣を抜いた。


「フォーメーションだ!」


 ゴードンが指示すると、ゴードンとアーノルドが前衛、アンナとリタが後衛の陣形を取る。


「案外、統率が取れてますね」


 マルチェロはそう言うと、周囲の兵士に攻撃を指示し、その後ろから剣を構えて大きく深呼吸をした。


「スキル発動!」


 そして、宙を斬るように剣を振るうと、ゴードン目がけて斬擊が放たれた。


「くっ……」


 ゴードンは飛んできた斬撃をクレイモアでガードしたが、その隙に兵士たちがゴードンを取り囲み、一斉に襲い来る。


「ファイアー・ウォール」


 ゴードンの背後でリタが魔法を唱えると、ゴードンの周囲を炎の壁が包み、兵士たちは動きを止める。

 そこに、アンナが魔法で兵士たちを攻撃しようとしたとき、


「ちょこまかやってんじゃねえ! ザ・ゲイトウェイ!」


 と離れた所で見ていたラウロが叫び、マルチェロと同じように宙に向かって拳を放った。


 すると、ラウロの腕の先が消え、アンナの横に拳が出現したかと思うと、アンナわき腹に拳が命中した。


「なっ……」


 ゴードンが驚き、痛みに顔を歪めるアンナを見る。


「ゴードン、眼を逸らすな!」


 アーノルドが大斧の柄でゴードンを押すと、ゴードンのすぐ横をマルチェロの飛ぶ斬撃が通過する。

 さらに、ゴードンの眼前にラウロの拳が出現し、ゴードンの顔面に命中した。


 ラウロの魔法がいまいち掴み切れず、戦況が不利と判断したゴードンは、一旦退却しようと考えた。

 しかし、思い留まる。


 真後ろの家の中に、逃げ遅れた母親と子どもの姿を見たのだ。


 ここで自分が退却すれば、この親子はどうなるのか。


「ダメだ、ここで奴らを抑える!」


 ゴードンは振り向きざまにクレイモアを力いっぱい振るい、数人の兵士を一度に薙ぎ払った。


「はは、やりますね」


 マルチェロはそう言いながらゴードンに向かって斬撃を飛ばすと、斬撃を追うように走り出した。


 ゴードンは先ほどと同じようにクレイモアで斬撃をガードする。


 飛ぶ斬撃は、クレイモアでガードしても実体のある剣のように受け止められるわけではなく、斬撃が2つに切断され、それぞれが別方向に飛んでいく。


 一旦クレイモアで受けた斬撃は威力が弱まり、ゴードンの鎧にはダメージを与えることはできないが、軽装のアーノルドやアンナであれば、切断された斬撃にも身体を傷つけられるおそれがあるため、必然的にゴードンがマルチェロの前に立ち、飛ぶ斬擊の盾となっていた。


 そのことをマルチェロは既に認識しており、ゴードンが斬撃をガードすることを見越し、ガードの直後を狙ってゴードンを剣で突く。

 ゴードンは咄嗟にかわし、クレイモアの柄でマルチェロを押し飛ばすとアーノルドに目で合図した。


 アーノルドは、目の前で戦っていたメソジック帝国の兵士を大斧で払い飛ばすと、深く深呼吸をして力を溜める。

 アーノルドのスキル――グランドアックスの構えだ。

 しかし、離れた所にいるラウロが、


「はっ、なめんじゃねえ!」


 と誰もいない宙に向かって剣の切っ先を突き出すと、剣の切っ先が消え、アーノルドの胸の前に現れた剣の切っ先がアーノルドの胸を突き刺した。

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