異世界の戦闘
ガキンッ。
金属音が響く。
「クウッ!」
ソードの男が動揺から思わず叫んだ。
男のソードの先はクロキの右上腕に触れていた。が、ソードの根元をクロキの前腕に受け止められ、男の刃はクロキの上腕の皮一枚を切ったに過ぎなかった。
ソードを受け止めたクロキの腕の袖の隙間から黒い手甲が覗く。
金属製の手甲は、ワイヤーなどのギミックの収納を目的としたものであったが、この手甲によって間一髪のところでクロキは致命傷を避けることができた。
クロキは男の動揺を見逃さず、左肘で男の顎をかち上げると、刀を握る右拳で男の顔面を殴り飛ばし、そして、両手で刀を握り、振り被った。
「フーガウ」
どこからともなく響く声とともに、クロキを電撃が襲う。
近くに誰もいないにもかかわらず、まるでスタンガンを突き付けられたように身体が痺れ、クロキはその場に倒れた。
ソードの男が近くの樹の陰に向かって声を掛けると、杖を持ち、ローブをまとった女が顔を出した。
ソードの男は、クロキの頭の近くにしゃがみ、クロキの髪を掴もうと手を伸ばした瞬間、男の手が掴まれる。
「痛かったぜ」
電流で気絶したと思っていたクロキが顔を上げた。
男が驚く間もなく、クロキは一瞬で男を組み伏せると、容赦なく男の右ひじを破壊した。
痛みで声を上げる男を組み伏せたまま、クロキは樹の陰に隠れるローブの女を警戒する。
どのような仕掛けかは不明だが、電流にはあの女が関係していると直感していた。
エージェントの訓練として電流を浴びてきたクロキは、電流に対して多少の耐性はあったが、先ほどよりもさらに高圧の電流に襲われた場合、気絶しないという保証はなかった。
そうであれば、このままソードの男と密着している方が良い。仲間ごと電撃を与えはしないだろうとクロキは考えていた。
だが、場所が良くなかった。そこは、斜面の上からは見通しの良い場所。つまり、射手が狙いやすい位置であった。
矢の連射がクロキを襲う。
ソードの男の当たらぬよう、しかし、精密にクロキ目掛けて矢が放たれる。
クロキは刀で矢を防ぎきれず、やむを得ずソードの男から離れ、樹々の密集地へと逃れた。
「アルフーガウ」
ローブの女が言葉を発すると、クロキの周囲のいくつかの樹が電気を帯び始めた。
それらの樹は何の変哲もない自然樹に見える。ただ一点、それらの樹には印――かつてクロキが本で見たような魔法陣が刻まれていた。
まるで――
「はっ、魔法かよ」
クロキは呟きながら、放電する樹から離れる。ここでは思うように動き回れない。
三人の追撃者はクロキのために周到に準備していることがうかがえた。
故に考える。彼らの目的を。
知らない言葉を話し、古い装束を身にまとい、未知の技術で残像や電撃を使う。
考えるほどに途方に暮れる。
迷いは技を鈍らせる。クロキにエージェントとしての技術を指導した人の言葉を思いだし、クロキはただ一つの目的を定めた。
生き延びる。
そう決めたクロキは、真っすぐと前を見る。
ソードの男がクロキに折られた右手から左手にソードを持ち替え、ゆっくりとクロキとの距離を詰めていた。
クロキがソードの男に斬りかかると、男は左手のソードで刀を受け止める。
クロキはすかさず男の折れた右腕を蹴って男を怯ませると、男の後ろでローブの女が杖を構えるのを見て、足元の石を拾い上げ投げつけた。
斜面の上に位置する射手は、初めて見る「魔法」と「スキル」に対応し、二人を相手に優勢に戦いを進めるクロキを見て高揚していた。
未知の事象への適応力、状況判断力、分析力、そしてなにより戦闘技術、それも対人戦闘の技術がハイレベル。
これまで、数人を「迎え」てきたがクロキは今までにない存在であった。
故に全力で当たらなければ失敗する。
射手は、深く息を吸い、沈むように集中していく。
そして、弦を引く。これまでよりも強く。
「エネトラティオ」
強く引いた弦を放すと、矢が高速で放たれた。
その矢は、行き先を妨げる枝葉を無視するように貫き、わずかな木々の間からクロキに命中し、クロキに強烈な衝撃を与え吹っ飛ばした。
数メートル先に吹っ飛ばされるクロキを見てソードの男が激怒し、射手に向かって何かを叫んだ。自分の獲物を横取りされたことが気に食わなかったのだろう。
しかし、射手はソードの男の罵声が聞こえないかのようにその場から動かず、倒れるクロキから目を離さない。
良く見えなかったが、クロキの吹っ飛ばされ方に違和感があった。射手の額を汗がつたう。
怒り狂うソードの男の横で、ローブの女が気付いた。
クロキに矢は当たってなかった。
命中する寸前でクロキは刀で矢を受けていた。だが、矢の威力を支えきれず、クロキは刀を身体に密着させたまま吹っ飛ばされたのであった。
クロキはせき込みながら、身体を起こす。
上着は防弾仕様であったが、ライフル以上の威力の矢を受け、刀を間にはさんでいたにもかかわらず肋骨に痛みを感じていた。
呼吸するたびに痛みが走るが、かつて、肋骨四本折りながら、とある国の基地から脱出したときに比べればまだマシであった。
クロキが痛みを緩和するため、浅い呼吸をしながら構えた。
その様子を見た射手が、大声で何か指示を出す。
周囲に微かな音を感じ、クロキが辺りの地面を見回すと、いつの間にかクロキを取り囲むようにロープが配置されていた。
なんとロープはまるで蛇のようにうねりながら動き出し、瞬く間にクロキに巻き付き、縛り上げてしまった。
「な……?」
クロキが驚いた一瞬の間にローブの女が魔法を唱え、クロキの身体に高圧の電流を浴びせると、クロキは気を失った。




