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刀と剣の共闘

「おら! ボケっとしてんじゃねぇ! あそこの魔術師、殺るぞ!」


 ティムがクロキに向かって叫ぶ。


「良いぜ、遅れんなよ」

「なめんな! こん中じゃてめえが比較的マシだから言ってるだけだっつーのっ」


 クロキとティムが進む先にいる魔術師が魔法を唱える。


「ボギング・ダウン」

「飛べ!」


 クロキが叫ぶ。

 辺り一帯が泥沼となり、敵味方を問わず兵士が脚を取られ、動きが鈍くなった。

 だが、クロキとティムは泥沼にはまった兵士の頭や肩を足場にして跳びながら魔術師に接近する。


「ロック・クラッシュ!」


 魔術師は続けて魔法を唱えると、クロキの身長ほどの大きさのある岩石が飛んできた。しかし、クロキはかわそうとせず、ティムに先行して岩石に向かって行く。

 クロキは空中で回転すると右足のつま先で岩石を蹴った。


「沼地でその魔法は、効果半減だっ!」


 岩石はいとも簡単に砕けた。

 そして、クロキの背を足場にして、ティムは魔術師に接近し、斬り捨てた。


 魔術師が倒れたことにより魔法が解け、沼地は再び土となり、脚を取られていた者たちは土に脚が埋まった状態となり、クロキとティムは、動けなくなった帝国軍の兵士を次々に無力化していった。


 妙に息の合った二人の動きに、周りのモンテ皇国の兵士の士気も高揚していった。





「水流大瀑布!」


 シンジが顕現させたターコイズ色の鱗を持つ龍が咆哮し、滝のような激流がメソジック帝国軍を襲う。

 魔術師が束になって魔法で防御をするが完全に防ぐことができず、周囲の兵士たちが次々と激流に飲みこまれていく。


 その激流に帝国軍が四苦八苦している間に、シンジは再び風龍を顕現し、突風を巻き起こすと、強襲部隊とともにムスティア城へと帰っていった。


 シンジはまだまだ余力が残っていたが、第二軍と戦うときのために余力を残す必要があり、先行軍を全滅させるまではしなかった。


 モンテ皇国軍の強襲部隊はわずか百五十人程度であったが、シンジを中心とした激しい攻撃により、帝国軍はその半数近くが被害を受けた。

 一方、モンテ皇国強襲部隊で怪我を負ったものは五十人程度。重傷者はいないため、メソジック帝国軍の第二軍が到着するまでには全員が回復できる。


 強襲は大成功に終わった。

 モンテ皇国軍としては、メソジック帝国軍の第二軍到着までの間に先行部隊による攻撃を受けること覚悟していたが、この強襲の成功により、先行部隊単独での攻城は困難となったため、モンテ皇国軍は第二軍到着まで無駄な戦力の消費を避けることができることとなった。


 ムスティア城に帰還した強襲部隊を多くの兵士が歓声をもって迎えた。もちろん最大の功労者はシンジ。

 強大な魔力を持つ異邦人として、英雄視されているシンジは、この勝利でまたもや名を挙げた。


 兵士たちに取り囲まれるシンジの横を、クロキは興味なさげに首を回しながら歩いて城の中に入った。

 ティムはと言えば、「うるせえ」と呟いていたが、ちやほやされるシンジを羨ましいと思っているのが見え見えである。


 さて、メソジック帝国軍の第二軍が到着するまでひと眠り、とクロキが考えていると、テオが大慌てでクロキの元にやって来た。


「ご、ゴードン様が!」


 ゴードンがどうしたと言うのか。テオの様子からただならぬ事情であることがうかがわれた。


「落ち着いてください、ゴードンがどうしたんですか?」


 クロキが聞くと、テオは一つ深呼吸をして言った。


「ゴードン様が城の外に出て行ってしまった」

「外に? どうしてですか?」


 テオが言うには、メソジック帝国軍の先行部隊の一部が周辺の町や村を襲っているらしく、ムスティア城にほど近い村が襲撃されているとの報せを聞いたゴードンが飛び出してしまったというのだ。


「こちらの守備兵が少ないため、基本的には町や村の救援には人員を割かないこととしているのだが、目と鼻の先の村だからな、せめて村人を城内に避難させようと将軍が数名の兵士を派遣したところ、そこにゴードン様もついて行ってしまった」

「あいつ……」


 クロキは思わずため息をついた。


「仕方ありませんね、行きましょう。一応、知っている仲ですしね」


 さすがにゴードンを放っておくわけにもいかない。


「ああ、頼む、人員が限られている中で、村の救援にさらに人員を動かすなど基本的にはあり得ないが……」

「だからこそ、騎士ではない俺の出番ですね」


 テオが頷いた。


「馬を一頭預ける。乗れるか?」


 元の世界で、海外ブローカーにさらわれた種馬を奪還する任務を受けるに当たって、一通り乗馬の訓練を受けたが、この世界の馬は元の世界の馬よりも一回り大きいため不安はある。

 しかし、そんなことも言っていられまい。


「やってみます」


 クロキはうなずいた。


 そのとき、テオの背後から近づいて来る一人の騎士。


「面白そうな話だな。一人よりも二人の方が良いだろう」

「カルロス」


 どこから話を聞いていたのか、カルロスは自分もゴードンの救援に行くと名乗りを上げた。


「しかし、勝手に騎士を派遣しては……」

「俺一人くらい何とかなるだろう。それに俺は騎士と言っても下っ端も下っ端。誰も気にしないさ」

「う、ううむ……」

「良し、決まりだ、行くぞ」


 カルロスはテオの返事を待たず、厩舎へと向かった。


「まあ、とにかく、ゴードンのことは任せてください。では」


 クロキがそう言うと、テオもカルロスの派遣に腹を括った様子でクロキとカルロスを見送った。

次回から新章です。

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