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魔導館の騒動

 テイショウの街の外れに1つの道場がある。

 魔導館と書かれた看板を掲げるその道場は、魔法と拳法を組み合わせたこの世界独自の武術、魔導拳の道場である。

 破壊の七徒が一人ドゥエンもこの道場の門弟であったが、今では破門となっている。


 そんな魔導館の板張りの道場で、魔導館の女師範カイとともに、膳に乗せられた料理を前に座っているのはヒースとテイラーであった。


「いや、はは……こんなもてなしていただいて申し訳ないです」


 頭を掻きながら礼を言うヒースの横で、正座になれないテイラーは身体を前後左右に揺らしている。


「ああ、どうぞ楽にしてください。クロキさんからヒースさんのお話はうかがっていましたので、クロキさんのご友人は我々の友人です」


 カイが微笑みながら言うと、テイラーは直ぐに脚を伸ばして座った。

 そこに短髪の若い男がお茶の入った湯呑を盆に乗せて道場奥の部屋から現れた。


「コウソン、さあお二人にお茶を」


 カイに促され、魔導館の門弟コウソンは、テイラーとヒースの膳の上に湯呑を置きながら二人に向かって快活に声を掛けた。


「さあ、ゆっくりとしていってくれ。クロキの兄貴の友達なら大歓迎だ」


 コウソンはそう言ってヒースとテイラーの背中を数度叩いて、カイの隣に胡坐をかいて座った。

 コウソンはかつて、妹ともどもクロキに命を救われて以来、クロキを兄貴と呼んで慕っていた。


 ヒースとテイラーはムー大陸でクロキを見失ってから、しばらくはムー帝国の助力によりムー大陸全土を探していたが、大陸にはもうクロキはいないと考え、とりあえず東の大陸の、ヒースが訪れたことのある国であるロンの国に渡ることにしたのだ。


 ヒースとテイラーがカイらと歓談しながら食事をしていると、不意に道場の外が騒がしくなった。

 コウソンが道場を出て様子を見に行ったが、直ぐに戻って来る。


「カ、カイさん、ちょっ……」


 コウソンが慌てた様子であったので、カイは何かトラブルが発生したと思い、道場から出ようとしたが、道場の入口まで行くと険しい顔になって立ち止まった。

 ヒースとテイラーが気になってカイの視線の先を見ると、そこにいたのは白い長袍の男。


「ドゥエン……」


 カイが名を呼ぶその男は、破壊の七徒が一人ドゥエンであった。


「どうも、ご無沙汰でした」

「全く、あなたという人は、客人がいるときに限って突然訪れる」

「客人……?」


 ドゥエンがカイの背後、道場の中を見るとヒースとテイラーに気付き、手を挙げた。


「おや、あなた方は、アスカ帝国でクロキさんと一緒にいた……」


 カイがヒースとテイラーを振り向く。


「お二人はあの男をご存じなのですか?」

「ええ、まあ……」


 ヒースとテイラーは複雑そうに答える。

 ドゥエンは、ヒースとテイラーがアスカ帝国で知り合った異邦人クアトルを殺害した男。二人はどう反応したら良いか分からなかった。


「クロキさんはいないようですね、まだ見つかっていないのですか?」


 ドゥエンはそう言いながら道場に向かって歩き始めた。だが、カイがドゥエンの前に立ち塞がる。


「何をしに来たのですか」

「はあ、決まっているでしょう、師父の墓前に挨拶するためです」

「……あなたにその資格はありませんよ」


 カイが怒りを露にして腕を前に構えた。魔導拳風の型の構えである。

 ドゥエンの師父――カイの父はドゥエンに殺された。カイは、いつか父の仇を取ることだけを、ドゥエンを殺すことだけを考えて、魔導拳の修練をしていた。


「止めておきなさい。あなたでは私に勝てませんよ」


 ドゥエンがそう言うや、ドゥエンの背後にコウソンが現れ、拳を振り上げた。


「魔導拳火の型、炎猴腕!」


 コウソンの腕が炎を纏う。

 ガードされてもダメージを与える、魔導拳火の型の最もオーソドックスな技。

 それ故、もちろんドゥエンも炎猴腕に無闇なガードは悪手であることを知っている。


 ドゥエンはお辞儀をするように身体を倒して背後からの炎猴腕をかわすと、身体を起こしてコウソンの顔面に頭突きを与え、コウソンが怯んだところに肘でコウソンの顔を打ち、コウソンを転倒させた。

 ドゥエンが道場を向くと、間合いの一歩外にカイが立っていた。


「今日は帰りませんよ」


 ドゥエンが言い放つ。


「何を……っ、あなたにその資格は、ないっ!」


 カイが瞬速の拳を放った。

 ドゥエンは腕でカイの拳をガードすると、ドゥエンはカイの力を受け流すようにしてカイの態勢を崩した。

 カイは直ぐ様体勢を立て直しつつ、ドゥエンと距離を取ると、腰を落として構えた。


「魔導拳風の型、疾風怒濤!」


 カイが猛スピードで突進し、ドゥエンの身体に真正面から体当たりをした。

 が、ドゥエンはわずかに身体をのけ反らせるばかりで、逆にカイが衝突の衝撃に耐えられずに弾き飛ばされた。


「んな……っ」

「カイ、腕を上げたようですね。ですが、まだまだ」


 ドゥエンの身体の正面が岩に覆われ、さらに足が地面に岩で固定されている。

 カイは空中で回転しながら体勢を立て直して道場の前に着地し、着地と同時に道場に手を向けた。


「テイラーさん、手を出さないでください」


 テイラーが杖を持って魔法を使おうとしていたのをカイが止めた。


「これは、私たち魔導拳の使い手の問題です」


 そう言ってドゥエンの前に立ちはだかるカイに対して、ドゥエンは初めて片腕を前に出して構えた。


「申し訳ありませんが、私にも事情と言うものがあるのです。今日、私は何としても師父に挨拶させていただきます」


 以前とは異なりドゥエンに退く気配はない。

 殺気を込めた拳を構え、カイと相対する。

 と、ドゥエンが瞬きをしたのを見逃さず、カイがドゥエンとの距離を詰め、瞬速の突きを放った。

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