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ロンの国再び

 大陸の東海岸に位置する大国――ロンの国までは、カルガナが用意してくれた飛空艇で向うこととなった。


 飛空艇を操縦する魔術師の体力を考慮し、途中数度着陸して休憩を挟み、翌々日の日の出とともに、クロキはロンの国の首都トンケイに到着した。

 トンケイに到着すると、直ぐに飛空艇の着陸地点に馬車が現れた。


「クロキさんお久しぶりです。カルガナ王妃より連絡を受けております、お迎えに上がりました」


 馬車から顔を出し、クロキを馬車に招き入れたのは、黒い短髪、黒い瞳に橙色のルージュの唇の30代後半の女性。以前ロンの国で共闘したロンの国公安部に所属するシーハンであった。


「今は城の警備隊を統括する職務に就いています。アーミル王国からの使者がクロキさんと聞き、驚きました」

「色々とあったものでね……」


 馬車の中でクロキとシーハンが会話する。


「モンテ皇国の総務大臣暗殺の件は聞き及んでいますが、我が国は、あなたを捕えるつもりはないことは先に申し上げておきます」


 クロキはシーハンに言われるまで、カイゼル暗殺の罪を被され、犯罪者として追われていたことを忘れていた。


「しかし、それじゃあ、モンテとの関係が……」

「勘違いなさらないでください。決して義理や人情であなたを隠すわけではありません。もちろんあなたが我が国に滞在していること自体内密にしますし、その見返りにあなたにはメソジック帝国との戦いに際して必要な協力をしていただきます」

「そういうことなら……分かった、協力は惜しまない。だが、俺からも1つ頼みたいことがある」

「何でしょうか」

「ヒースと、それから長い黒髪の女がロンの国にいるという話を聞いた。二人を捜索してくれないか?」

「分かりました。そのような話であれば、皇帝陛下を通さずとも私から各都市の公安部に問い合わせて容易に見つけることができましょう」


 そんな話をしているうちに、馬車は城に到着した。


 城中の木々が朝陽に照らされた朝露で煌めき、小鳥たちが囀る声が響き渡る。

 そんな爽やかな朝に似つかわぬ喧騒が城の中に響き渡っており、馬車から降りたクロキは急き立てられるように城の中へと案内され、直ぐに皇帝タイソウの前に通された。


「クロキ、久しいな」


 玉座の間は伽羅の香りが立ち込め、タイソウは豪奢な玉座のひじ掛けに寄り掛かるように座ってクロキに声を掛けた。


 クロキは膝をつき、頭を下げて挨拶をする。


「はい、皇帝陛下もご健勝のようで何よりでございます。さっそくですが、アーミル王国王妃カルガナ様からこちらを預かっております」

「ご苦労」


 タイソウは大臣の一人に顎で指示すると、大臣はクロキから丁寧に書簡と水晶玉を受け取り、書簡はタイソウに渡し、水晶玉はタイソウの前の床に置いた。

 タイソウは書簡を最後まで読み終わると、水晶玉に向かって何やら呪文を唱えた。

 すると、水晶玉が光り、立体映像のように水晶玉の上の空中に様々なデータが浮かび上がる。

 タイソウの唱えた呪文は書簡に記してあった水晶玉を起動させる鍵であったようだ。


「ほう……ありがたいな、ロンでは抑えてない情報が多い。直ぐにアーミル王国に礼を伝えてくれ」

 近くにいた付き人が、頭を下げて部屋から立ち去った。

「陛下」


 クロキがタイソウに声を掛ける。


「何じゃ」

「今、空中庭園はどちらにあるのですか?」

「空中庭園は現在、ロンのはるか西の砂漠地帯上空を東北東に向かって移動中じゃ。このまま行けば、南西方向からロンに進入する」


 タイソウは水晶玉から映し出されるデータに目を向ける。

「さて、どのように迎え撃つべきか」


 タイソウは遊び相手を見つけたような表情でデータを眺めている。


「おお、クロキ、もう下がって……おおっと、忘れておった」


 タイソウが思い出したようにクロキを向いた。


「ヒースの研究とやらは進んだのか?」


 以前、タイソウはこの世界がクロキとヒースのいた世界の並行世界であるという仮説をヒースから聞いており、さらなる研究の成果を期待していた。


 クロキは少し迷った。

 ヒースは、ムー大陸での調査結果を踏まえたさらなる仮説をクロキに語っていた。

 だが、それはただの仮説であり、ここでクロキがタイソウに語ってしまうことで余計な不安を与えてしまうことになるのではないか。


 そんなことを考え、少し間を置いてからクロキは口を開いた。




 クロキは玉座の間から出て警備の兵士に城の入り口まで案内されながら、先程タイソウに話した内容を思い返していた。


 タイソウは聡明な人物だ。クロキの話を聞いて無駄に不安に駆られることはないと思い、クロキが聞いた限りのことを話した。

 もしもその内容が事実であるとすれば、果たしてカミムラの計画とは何なのか。


 この世界とクロキの世界が並行世界であること。

 カミムラが古代文明を調べていること。

 世界樹に何かをマーキングをしていること。

 この世界を破壊するということ。


 ――これらがどのようにつながるのか。

 世界樹を破壊するというのであれば、マーキングをせずに既に破壊しているはず。破壊しないということは、世界樹を何かの目的に利用するということだと考えられるが、その目的とは一体何なのであろうか。


 クロキが頭を巡らせていると、シーハンが目の前に現れた。


「クロキさん」

「ああ、陛下との謁見は無事終わった」

「ヒースさんをテイショウで見かけたとの情報が入りました」

「テイショウ……」


 テイショウはロンの国の東に位置する街で、東の海の玄関口となっている大きな港街である。以前、クロキとヒースがロンの国を訪れた際に滞在した街であり、シーハンと初めて出会った街でもある。

 それにしても先ほどシーハンが情報を集めると言ってくれてから1時間も経っていない。彼女の優秀さにクロキは感服するとともに、シーハンに向かって礼を述べた。


「すまない、助かる」

「直ぐにテイショウに向かいますか? 飛空艇の用意ができていますので、準備ができましたら声を掛けてください」

「はは、至れり尽くせりだな」

「それはそうです、今のあなたはアーミル王国の使者、ビップですから」

「それはどうも。じゃあ直ぐに頼む。俺の持ち物はこれで全部、準備は必要ない」


 クロキはシーハンに案内され、城の屋上に用意された飛空艇に乗り込み、テイショウへと向かった。

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