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降伏を促す剣

「余所見してるなんて余裕ね!」


 カルガナとアンジェラの戦闘を見ていたクロキに向かって、ライラが槍で突風を巻き起こした。そして、クロキが身を屈めて耐える隙をついて、サビーナが槍の先に氷の鞭を作り出しクロキに向かって振り回し始めた。


 クロキは刀で氷の鞭を砕くと、サビーナに向かって走り出す。

 と、砕いた氷の破片が元に戻ろうと、クロキの背後からサビーナに向かって飛び始め、クロキの背中に命中した。


 破片のうち、小さなものは上着に当たるだけでダメージはないが、大きな破片が数個、上着を突き破って皮膚に突き刺さる。


 クロキは思わぬ攻撃に怯む。

 これはサビーナの想定通りであった。クロキの怯んだ隙をついてサビーナは空中に創り出した氷柱――アイス・ニードルを放ち、背後からライラがクロキを攻撃しようとしたが、クロキが怯んだのはコンマ1秒にも満たない一瞬。サビーナの想定を裏切ってクロキは突然振り返ると、先ほど蹴りを命中させたライラのわき腹を刀の峰で殴った。

 ライラが悶絶し、頭を下げたところで、クロキの掌底がライラの顎を撃ち抜き、ライラは気絶した。


「お優しいことだね、殺さずに気絶させるだけとは」


 サビーナはクロキの攻撃に備えて槍を構えながらクロキに向かって言う。


「俺は別にお前らを殺したいとは思っていない。この空中庭園を無力化したいだけだ」

「甘いね、そのためには私たちを殺すしかないよ。私たちは命に代えも空中庭園を守り抜く」


 サビーナが遠距離からクロキに向かってアイス・ニードルを放ち、その後を追うようにクロキに接近し、槍を連続で突いた。

 クロキは槍を刀で払い、続くサビーナの槍による足払いも跳んでかわすと、槍の柄の上に着地した。


「全員……は必要ないだろう。あんたらが姫と呼ぶあの女さえ倒せれば目的は達成することができる」


 クロキの言葉を聞いてサビーナがクロキを睨みつけた。


「それなら、なおのことやらせるわけがないだろう!」


 サビーナは槍を動かして柄の上のクロキを振り落とそうとしたが、クロキは再び跳び上がり、サビーナが態勢を崩したところで、サビーナの頭を挟むようにサビーナの肩に乗ると、サビーナの頭を両脚で固定したままサビーナごと前方に向かって回転し、サビーナの頭を地面に叩きつけた。


 サビーナが頭から流血し、気を失ったことを確認すると、クロキはカルガナの援護を、とカルガナとアンジェラを向くや――


「クロキ、上をっ、避けて!」


 カルガナの声に反応して上空を見上げると、青空の中に無数の光が見える。

 そして、それらの光が落下して来る。


「光の……剣っ!」


 思わずクロキは呟いた。


 上空から雨のように光の剣が降り注ぐ。

 クロキは光の剣はアンジェラの魔法と察し、アンジェラから距離を取るように走り出した。


 一方、カルガナと侍女らは盾を上に構え、光の剣を防御していたが、光の剣が命中したときの衝撃が予想以上に強く、四人とも直ぐに膝をつき、ついには盾からはみ出した脚や腕に光の剣が突き刺さった。

 アンジェラの4つ目の固有魔法サレンダー。アンジェラを中心とした一定範囲に実体のある光の剣を無数に降らせる魔法である。


 このサレンダーによって、カルガナの侍女らを含む空中庭園に降り立った各国の兵士たちのほとんどが戦闘不能となり、カルガナ自身も腕と右足に光の剣を受けて負傷した。

 しかし、それでもなお、カルガナは悲壮な表情を浮かべることなく剣と盾を構えてアンジェラに対峙した。


「その傷では、勝負が見えました。どうか降伏を」


 アンジェラがカルガナに降伏を促す。

 しかし、カルガナは精悍な顔つきのまま、笑みを浮かべた。


「あなたなら、この程度の傷で諦めるのですか? 国のために戦うということはこの程度の傷で諦めるほど軽いものではない。それは、あなたもよく分かっているのではなくて?」


 アンジェラは、自らの言葉を間違いだったと心の中で恥じた。

 カルガナも自分と同じ、国のために戦っている。その重み、思いは痛いほど知っている。降伏を促されたところで、降伏することなど絶対にありえない。


「失礼しました。最後まで全力でお相手いたします」


 アンジェラが光の翼を大きく開いた。

 再び突進しようとしていることが誰に目にも明らか。


「ふっ……よろしい、まだこれからです」


 カルガナは盾で防御の構えを取る。

 しかし、カルガナの脚の傷では突進を回避することはできない。1撃目を運よく盾で防御できたとしても、衝撃に吹き飛ばされ、2撃目を回避することはできない。


 カルガナの援護に向かわなければならない。

 クロキは直ぐに走り出したが、サレンダーを回避するため距離を取ってしまったため、このままではカルガナの救援に間に合わない。


 と、そのとき、上空に新たな魔獣の影。

 その魔獣がカルガナとアンジェラの間に着地する。


「ヘザー……」


 クロキが立ち止まり見上げる魔獣の背中には、白いローブの女魔術師ヘザーがいた。


「ああ、クロキ、こんな所にまで私を追い掛けてきてくれたの?」


 クロキを見て笑みを浮かべるヘザーをアンジェラも見上げる。


「それで、首尾は?」


 思い出したようにヘザーがアンジェラを見た。


「マーキングは終わったわ。ここからは私も参加するわ」


 ヘザーの増援に、クロキは舌打ちをした。


 アンジェラとヘザーの二人に対し、手負いのカルガナと自分の二人では、空中庭園を無力化するどころか、ここから生きて逃げることすら容易いことではない。

 カルガナもそれを感じ取ったのか、ヘザーから少し距離を取る。


 が、アンジェラはランスと盾を降ろした。


「その必要はないわ。もうここに用はない。次の目標に向かいましょう」


 アンジェラの意外な申し出に、ヘザーはがっかりした表情を見せた。


 カルガナは唇を噛んだ。

 このまま行かせるわけにはいかない。だが、このまま戦闘を継続しても勝てる見込みは薄い。


「王妃、ここは退きましょう」


 クロキの言葉が決め手となった。

 カルガナはヘザーとアンジェラを警戒しつつ撤退しようとしたが、ヘザーがカルガナに視線を移す。


「まあ、でも生かして逃がす必要はないわよね。アンチ・グラヴィティ」


 ヘザーが魔法を唱えると、カルガナの身体が宙に浮かび上がる。

 そして、空中で身動きの取れないカルガナに向かって、ヘザーは漆黒の魔力の弾をカルガナに向かって放つ。

 カルガナは漆黒の弾を盾で防御したが、そのまま弾き飛ばされた。


 このままでは、空中庭園から落下する。

 クロキはカルガナに向かって走り出し、ワイヤーを取り出してカルガナを捉えようとしたが追い付けない。

 だが、クロキが諦めずに追い掛けていると、


「カルガナ様!」


 いつの間にか飛空艇に乗った侍女らがカルガナに接近し、何とかカルガナを飛空艇に乗せた。


「邪魔ね」


 ヘザーはそう呟いて飛空艇に杖を向ける。しかし、ヘザーが飛空艇を攻撃しようとしていることに気づいたクロキがナイフを投げて来たため、ヘザーは杖を引いて杖でナイフを受けた。

 一方クロキは、ナイフを投げると同時にワイヤーを投げ飛空艇に引っ掛けると、ワイヤーを巻き取って飛空艇とともに空中庭園から飛び出した。


 ヘザーは再び飛空艇に杖を向けたものの、飛空艇を落とせばクロキも無事では済まないと考え、攻撃するのを止めた。


 ヘザーの登場後、状況が変化する間に、カルガナとともに空中庭園に降り立った他の兵士たちも飛空艇に乗り込み空中庭園から脱したが。無事に空中庭園から離れることができたのはカルガナらのほか、わずか2隻。空中庭園に達した数の半数以下であった。


 空中庭園がゆっくりと離れていく。


「直ぐに全軍に撤退を、アーミル王国軍は早急に本国に帰還します」


 カルガナが戦場全体に響き渡るかのような大きな声で叫ぶ。

 空中庭園が向かう先は北。

 アーミル王国の方角であった。

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