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姫を護りし三本の槍

 空中庭園の上で膨れ上がるアンジェラの魔力を、平原で戦う者たちも感じ取っていた。


 マフダリ王国の兵士たちを魔法ネイセイヤーの衝撃で吹っ飛ばして暴れ回っていたカーディナルも動きを止めて上空の空中庭園を見上げる。


「クハハッ、盛り上がってんじゃねえか、なあ、ランプ」


 カーディナルが視線を移す先には青白い顔色の幽霊のような男――ランプ。

 カーディナルは、強い魔力に当てられてテンションが上がり饒舌になっていた。


「おいランプ、しけた面してんなぁ、どうだ、元気か?」

「……昨日会ったばかりだろう。俺は元気だ」

「クハハッ、おいおい、なに真面目に答えてんだよ。元気かどうかなんて本当に気にしているわけねえだろう。社交辞令だよ、社交辞令」


 そう言って笑うカーディナルを、ランプは苦々しく見た。


「それよりランプよう、お前どうすんだ。俺と戦るか?」


 カーディナルが挑発的な視線をランプに向けた。

 ランプは片手で首をさすりながら少し考えた。


「……いや、止めておく、お前とは相性が最悪だ。俺は帰る。ターゲットがいないなら、俺がここにいる理由がない」

「クハッ、潔いな」

「まあ、な……お前と違って戦うのが好きなわけじゃない」


 そう言うとランプはまるでそこにいないかのように、殺し合う兵士たちの間を歩き、姿を消した。


「さあて、俺も楽しむか、クハハッ」


 カーディナルが楽しそうに笑いながら兵士たちの集団に突っ込んでいく。




 空中庭園の上では、カルガナとアンジェラを中心に戦況が動いていた。

 襲い来る魔獣や白銀の女騎士らの横やりは侍女らが防ぎ、その中でカルガナはアンジェラと一進一退の攻防を繰り広げている。


 一方クロキはサビーナと数人の女騎士に囲まれ、カルガナの救援に向かえないでいた。


「我はイナンナの娘(イナンナ・ドゥーミ)一の槍(ディステラル)、ライラ、姫を護りし疾風の槍」


 おかっぱ頭の女騎士―ライラが槍を突くと、クロキに向かって突風が巻き起こる。

 身を屈めて暴風に耐えるクロキにポニーテールの女騎士が槍を振り下す。


「我はイナンナの娘(イナンナ・ドゥーミ)二の槍(ミンテラル)、ウルファ、姫を護りし灼熱の槍」


 炎を巻き起こしながら振り下ろされる槍を、クロキは間一髪回避した。

 そのクロキの真上からサビーナがクロキを突き刺そうと飛び掛かる。


「我はイナンナの娘(イナンナ・ドゥーミ)三の槍(ギステラル)、サビーナ、姫を護りし氷霜の槍」


 クロキが槍を回避し、槍が地面に突き刺さると、周囲の地面が凍りつく。


 サビーナ、ライラ、ウルファの三人はイナンナの娘(イナンナ・ドゥーミ)三本槍(ギシパテラル)。アンジェラの配下である白銀の女騎士の中で最も武勇に優れた三人であった。


 クロキの左足のブーツも凍り、動けなくなったと見るや、サビーナとライラが左右から同時にクロキを襲う。

 が、クロキは左足が動かせないまま、その場でサビーナとウルファの攻撃をかわし続ける。


「避けて!」


 疾風の槍ライラが、サビーナとウルファの攻撃の間を縫ってクロキに槍を振り下す。

 クロキは身体を傾け、凍り付いた左足に力を込めると、左足のブーツに仕込んだ魔法石が爆発し、氷を砕きつつライアのわき腹につま先がめり込んだ。

 ライラは耐え切れずに蹴り飛ばされ、クロキは蹴りの勢いそのままに、ライラを目で追うウルファの頭部に向かって廻し蹴りを放ち、ウルファを昏倒させた。


 サビーナは仲間二人が倒されたことに気を取られることなく、クロキを槍で攻撃する。ウルファを蹴り倒し、体勢の整わないクロキは身を捩ってサビーナの槍を回避したが、槍は肩を掠め、肩から流血した。さらに、刃のような氷に覆われたサビーナのブーツのつま先がクロキの身体を狙う。クロキは間一髪サビーナの蹴りを回避したが、いつの間にか凍っていた地面に足を滑らせ、転倒した。


「まだ、もう一度!」


 サビーナは休む間もなく追撃し、倒れるクロキに向かって槍を突く。クロキが転がりながら槍をかわすと、サビーナはクロキを追い掛けて槍を何度も突いた。

 と、あるタイミングで、クロキは地面に刺さった槍の柄を掴み、サビーナの動きを止めた。

 サビーナは、槍を掴むクロキの手を蹴る。

 クロキは咄嗟に手を離しつつ、蹴りを放ったサビーナの軸足を足で狩り、サビーナを転倒させ、立ち上がりつつ、サビーナの身体に蹴りを入れた。

 サビーナが槍を繰ってクロキをけん制し、クロキの追撃を防ぐ。そこにライラが放った突風が襲って来たため、クロキはサビーナから距離を取った。


「く、サビーナ、こいつは何者?」


 ライラがクロキに蹴られたわき腹を押さえながらサビーナに横に立つと、サビーナは槍を杖にして起き上がった。


「あいつは無魔力者の異邦人、真正面からってよりも、策を弄する方が得意なタイプよ」


 クロキはサビーナとライラを警戒しつつ、カルガナに注意を払う。


 魔法エアウェイヴスで飛び回るアンジェラの攻撃を、カルガナは盾を駆使して防御している。空中からの攻撃に防戦一方となっているが、アンジェラもカルガナの堅固な守りに攻めあぐねている。

 と、アンジェラがランスを持った腕を後ろに引きつつ着地した。

 光線を放つ魔法ショウブ・ア・デストラクションの構え。カルガナは即座に盾を投げつけアンジェラの構えを解くと、アンジェラに向かって走り、剣を振るった。


 その攻防を見て、クロキはカルガナの華麗な戦いぶりに感心するとともに、カルガナの戦い方に一つの疑問を感じていた。

 それは、カルガナと対峙するアンジェラも同じであった。


「あなたは、なぜ魔法を使わないのですか? 手加減など、さらなる侮辱を与えるつもりですか!」


 アンジェラのランスを盾で受け流し、カルガナが答える。


「確かに魔法は強力な武器です。ですが、所詮は武器。使い方は人次第。私が最も信用している武器はこの剣と盾。ただそれだけのこと」


 カルガナは笑みを浮かべながら。アンジェラに向かって走ると、迎撃しようと突き出されるランスをスライディングでかわしてアンジェラの足元に滑り込み、アンジェラの背後に回って立ち上がり振り返るアンジェラの鎧の隙間に一太刀を与えた。

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