いざ再戦
カルガナは侍女に指示し、クロキとカーディナルのいるテントに案内させ、侍女がテントの入り口を開けると、カルガナは中にいたクロキに声を掛けた。
「クロキ、少しお話があります」
クロキが立ち上がりカルガナのもとへ行こうとすると、カーディナルがクロキを押しのけてカルガナに走り寄った。
「おい、俺に褒美をくれ、さあ、早くっ!」
せがむカーディナルに向かってカルガナは微笑む。
「カーディナル、今はあなたに構っている暇は有りません、褒美はまた今度」
お預けをくらったカーディナルは一瞬落胆の表情を浮かべたが、直ぐにまた恍惚の表情を浮かべた。
「クハハ……悪くねえ、お預けも悪くねえな」
「さ、クロキ、その男は放っておいて、あなたはこちらへ」
カルガナに促されてクロキはカルガナの泊まるテントに移動した。
カルガナのテントに通されると、クロキはカルガナの前に座らされ、座ると同時に侍女がスパイスの効いたミルクティーを運んで来た。
テントの中にミルクティーの甘い香りが広がる。
カルガナがミルクティーをサイドテーブルに置くのを待ってクロキは口を開いた。
「それで、会議の結果はどうだったのですか?」
「あの空中庭園がどの程度の戦力があるのか未知数です。レムリア大陸から撤退することも意見として出ましたが、各国の戦力が集結している今こそ、攻撃する絶好のタイミングであると判断しました」
「なるほど……しかし、やはり王妃が直接軍の指揮を執っていらっしゃるのですね」
「ええ……軍総司令のアソカが暗殺され、私以上に軍の指揮を執ることができる者がいなくなってしましました……ふっ、この状態がアーミル王国の弱点であり、モンテ皇国との協定を求めた理由です」
少し自嘲気味に話すカルガナ。
クロキは以前よりそのことに気付いていた。その上で、おそらくこの派遣軍の指揮はカルガナが取っていると見込んで接触を図った節もあった。
「さて……」
カルガナが居直ってクロキを向いた。
「私がクロキを呼んだのは、メソジック帝国のことです。聞き及ぶところによると、あなたは数度メソジック帝国と接触し、そしてあのヘザーとかいう娘とともにいた。知っている情報を教えてください」
「……そうですね、まず一つ前提として、お伝えするのは、メソジック帝国は傀儡であるということです」
「それは? カミムラ副宰相の、ということですか?」
「そうです、ですが副宰相ではありません。カミムラと、カミムラに協力する七人の破壊者、破壊の七徒の、です」
「破壊の七徒……」
クロキは破壊の七徒のメンバーの名を上げる。
アトリス共和国内務大臣オリバー。アーミル王国やアスカ帝国を襲った巨漢のハミルトン。魔導拳の使い手のドゥエン。白銀の鎧兜の謎の女騎士。異世界から召喚されて来たジャックとヘザー。そして、アソカ総司令を暗殺した傭兵シャールーク。
シャールークの名を出したとき、カルガナは反応した。
既知の間柄であるとクロキは察す。
「シャールークは何者ですか? 奴はアーミル王国の出身と言っていました。もしや奴を知っているのでは?」
カルガナは少し間を置いて口を開いた。
「これは本来、我が王の口から言うのが道理ですが……シャールークの母は我が王の乳母でした。我が王とシャールークは兄弟のように育ったと聞いています」
「それがなぜ、この世界の破壊を願っているのでしょうか」
「それは……分かりません。シャールークが国を離れたのは、私が我が王に嫁ぐよりも前の話。我が王も、シャールークが王の下を離れた理由を語ってはくれなかった」
テントに沈黙が流れる。
そして、再びカルガナが聞いた。
「さあ、そろそろ休みましょう。クロキ、明日も協力してくれますね」
「はい、あの空中庭園は脅威です。見過ごせません」
クロキの返答を聞き、なぜかカルガナは意外そうな顔をした。
「少し、変わりましたね」
「……? そうですか?」
クロキは変化に気付いていないようだが、かつてのクロキは、クロキ自身の目的が全てであり余計なことに首を突っ込むことを避けていた。ところが今は、空中庭園が与える影響を懸念して二つ返事で協力を快諾したのだ。
「いえ……良いです。では、また明日」
カルガナの挨拶に頭を下げて応えると、クロキはテントを後にした。
翌日。
アーミル王国と周辺諸国連合軍は、西の空に浮かぶ空中庭園に向かって進軍していた。
森を抜け、川を越え、昨日戦場となった平原に到達すると、小高い丘にマフダリ王国軍が集結し、連合軍を待ち構えていた。
戦力は連合軍の方が僅かに勝っている。だが、そのことをもって優勢と言うことはできない。
マフダリ王国軍の陣取る丘の真上に、巨大な空中庭園が浮遊し、連合軍を威圧している。
「今のところ、あの空中庭園自体が攻撃を仕掛けてくる気配はないですね」
翼のついた飛行するボート――飛空艇に乗るクロキが、同乗しているカルガナに声を掛けた。
「しかし、油断できません。あの質量です。落下するだけで相当な被害となります」
クロキとカルガナと侍女三人が乗る飛空艇は、空中庭園目掛けて飛行する。
クロキらの乗る飛空艇の周囲には十数隻の飛空艇があり、皆、空中庭園を目指して飛行していた。
と、下から叫び声が聞こえてきた。
クロキが下を見ると、平原で軍がぶつかり合い、戦闘が始まっていた。
「カルガナ様、敵が出てきました」
侍女が指差す先に魔獣の影。
空中庭園から白銀の女騎士たちが操る魔獣が飛び立ち、クロキらの飛空艇に向かって来る。
「迎撃せず、速度を上げなさい!」
カルガナが全飛空艇に指示を出すと、飛空艇は速度を上げた。
飛空艇で魔獣を迎撃するのであれば、1隻当たりに複数の魔術師が必要であり、それも簡単にはいかない。
まともに相手をすれば大きな消耗が避けられないため、カルガナは魔獣を相手にしないことを指示した。
だが、白銀の騎士が操る魔獣によって、1隻、また1隻と飛空艇は撃墜されていき、ついにクロキらの乗る飛空艇も標的となった。




