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空中庭園

「王妃、それは……」

 クロキが聞くと、カルガナはランプから目を離さずに答える。


「ええ、彼の魔法ですね」


 ランプはまさか防がれるとは思っていなかった。自分の魔法の効果をカルガナが知る筈はない。素手を向ければ腕か剣で弾くものと思っていたが、まさか盾で受けるとは。おそらく、腕に纏わる魔力に気付き、何らかの魔法を放とうとしていることを察知したのであろう。


「さて……どうするかな」


 ランプはカーディナルがグリーンバックライトと老傭兵を倒したのを確認し、状況の不利を認識した。


 クロキとカルガナ二人を同時に相手することの愚策を認めた矢先に、カーディナルも加勢することとなれば、目的を達することは困難。


 ここは撤退、とランプがわずかに後ずさったのをクロキは見逃さない。

 ナイフを投げてランプの動きをけん制しつつ、ランプに接近する。ランプは走って逃げようとしたが、カーディナルの放った衝撃が地面を伝い、ランプの足元の地面が衝撃波で崩壊し、ランプの態勢が崩れたところでクロキの蹴りがランプの頭部を狙い、ランプは咄嗟に腕でガードしたが、ガードした腕ごとランプは吹っ飛ばされた。


 逃げることすら困難。


「ならば、せめてどちらかでも殺しておこう」


 ランプが腕をだらんと垂らした格好で構えた。

 雰囲気が変わったことにクロキは気付き、警戒した。


 と、そのとき、戦場に笛が鳴り響く。

 警戒の笛だ。


「カルガナ様、北西の空に正体不明の一団です」


 伝令の報告を聞き、カルガナは北西の空を見上げた。




 時は遡り、約1時間前。


 レムリア大陸の北西の海の上空に猛禽類の魔獣の群れがあった。

 その中でひと際大きい魔獣の背に、白銀の鎧兜に身を固め、シルクの様な金色の髪を兜の下から垂らす女騎士の姿があった。


 それは破壊の七徒が一人、アンジェラ。


 アンジェラの周囲の魔獣の背には、アンジェラと同じ白銀の鎧を纏った女騎士たちが乗っている。

 アンジェラは静かな海面を見下ろしている。

 ここは、シュマリアン共和国の沖合でもある。そう、この海の底には、海底遺跡が存在する。


 ふと、さざ波が生じた、かと思えば、徐々に波は大きくなり、海の中から巨大な建造物――海底遺跡が浮上して来た。


「ついに、我らの下に……」


 海底遺跡はついに空に浮かび上がり、アンジェラらの魔獣は遺跡の上に止まった。

 アンジェラは南東方向を仰ぎ見ると、身の丈ほどもあるランスを南東方向に向けた。


「さあ、行きましょう、これが、我らが故郷を取り戻す初めの一歩です」




 アンジェラを乗せた遺跡がレムリア大陸に到達し、アーミル王国軍とマフダリ王国軍が衝突する戦場に姿を現わすと、戦場にいる全ての人間が遺跡を見上げた。


「……来たわね」


 そう呟いたのはヘザー。

 クロキが反応する。


「お前……あれを知って……」

「あら、クロキも知っているはずよ」

「……っ! まさかっ」


 クロキがハッとして遺跡を見上げる。

 記憶にある海底遺跡と似ている。いや、あれは海底遺跡だ。


「空を……飛んでいるだと」

「それはそうよ、あれは伝説の『空中庭園』だもの」

「空中……庭園……?」


 元の世界でもあのサイズで飛行する物は見たことがない。


 クロキが驚きのあまり声を失っていると、空中庭園から魔獣が飛び立ちこちらに向かって来た。

 その背に乗る者がアンジェラとその仲間らであることにクロキは気付く。


「メソジック帝国……だと、なぜ奴らが……」


 その疑問に答えたのはカルガナであった。


「おや、クロキは知らなかったのですか、既にマフダリ王国はメソジック帝国の支配下にあります」


 つまり、このレムリア大陸の侵略は、メソジック帝国の作戦であったのだ。


「ヘザー、お前、知っていたなっ!」


 クロキがヘザーを睨むと、ヘザーは笑みを浮かべながら首を傾げてみせた。


「あら、言ってなかった?」


 苦虫を噛みつぶしたような顔のクロキを、ヘザーは楽しそうに見る。

 と、戦場の一部に光線が放たれ、敵味方関係なく大勢が爆発に巻き込まれた。


 光線を放ったのは魔獣の上のアンジェラ。

 前に突き出したランスから光線を放つ、アンジェラの固有魔法ショウヴ・ザ・デストラクション。

 アンジェラは、今度は別の方向を向いて右腕のランスを引き魔力を溜めると、力強くランスを突き出した。

 すると、ランスから光線が放たれ、戦場を貫く。


 一転して戦況は劣勢となり、アーミル王国軍は混乱に包まれる。

 ふと、ヘザーがクロキに向かって手を伸ばす。


「さあ、クロキも一緒に行きましょう? その女に勝ち目はない。このままだとクロキも死んじゃうわ」

 だが、クロキは動かない。

「クロキ……」


 ヘザーが悲しそうな顔を浮かべた。


「撤退しましょう」


 カルガナが撤退を指示すると笛が鳴り響き、一斉にアーミル王国軍が撤退を始めた。

 カルガナの後にクロキも続く。

 去り際にクロキは一度ヘザーを振り返ると、ヘザーはクロキに向かって手を伸ばしたまま、悲しそうな顔をしていた。




 アーミル王国軍は、レムリア大陸をメソジック帝国の侵攻から守るために各国から派遣された軍と合流し、キャンプを張った。

 突如として出現した空中庭園とメソジック帝国軍の増援の情報を各国と共有し、明日以降の作戦を協議している。


 その間、クロキがテントの中で夕食を取っていると、そこにカーディナルが現れた。


「クハハツ、カルガナが会議してて暇なんだ、相手してくれよ」


 クロキがカーディナルを見る。

 良いとも悪いとも言ってはいないが、カーディナルはクロキの横に荒っぽく座ると、水筒に口をつけた。

 匂いからするとどうやら酒らしい。

 カーディナルは水筒を口から離すと腕で口元を拭う。

 クロキは気になっていたことをカーディナルに聞いてみることにした。


「ランプ……と言ったか、あいつの目的は王妃の暗殺か」


 その質問に対し、カーディナルはニヤリと笑う。


「そうだ、俺もカルガナの暗殺の任務を受けていた。俺はアーミル王国の宮殿に直接忍び込む作戦、ランプはカルガナがレムリアに出陣すると知り、戦場の混乱に乗じる作戦だった」

「じゃあ、お前は何で王妃と一緒にいるんだよ」


 カーディナルの口角がさらに上がる。


「クハハッ、あの女に出会ったときに、心の底から思ったんだ。こいつに殴られたい。こいつに蹴られたい。こいつにゴミクズのように扱われたいってな。実際に最高なんだ、あいつに踏まれると、これまでに感じたことのないほどの快感が俺に走るんだ」


 カーディナルは女性に痛めつけられると快感を覚えるという特殊な性癖の持ち主である。つまり、色付きとしての任務よりも、カルガナに痛めつけられることを選んだのだ。


「あいつの命令に従うとなぁ、俺をなぶってくれるんだ。しかも、俺が言わなくても、なぜか俺がしてほしいと思っている方法でやってくれるんだ、クハハハハッ、マジ最高だろ!」


 恍惚の表情で語るカーディナルを、クロキがかなり引き気味に見ていた。

 と、突然カーディナルが真面目な表情になってクロキを見る。


「ランプの目的はカルガナだったが、お前を殺せっていうアッシュの命令もまだ生きている。それも最優先の命令だ。お前の居所が分かった以上、ランプはお前を狙う」

「ああ……」


 神妙な顔つきのクロキの横で、カーディナルは水筒から酒を飲んだ。


 クロキとカーディナルが話しているうちに会議が終わったらしく、各国派遣軍の将軍たちがテントから出て来て、最後にカルガナがテントから出て来た。

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