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猛攻、暴走、異変

 クロキの刀をヘザーは咄嗟に杖で受け止めたが、パワーが段違いのため、吹っ飛ばされた。しかし、クロキの追撃に合わせて、


「ブラック・アウト」


 と唱え、自身を中心に球状の闇を作り出した。この闇の中であればヘザーは自由自在に瞬間移動することができる。

 しかしクロキは、ウェールヴェールとの戦闘でブラック・アウトは既に経験していたため、咄嗟に足を止めて闇に飲まれることを防ぎ、球状の闇が解除されると瞬時にヘザーとの距離を詰め、ヘザーのみぞおちに蹴りを入れた。


 ヘザーはまたも吹っ飛ばされ世界樹に激突したが、抜け目なくクロキの影をロープ状に変化させてクロキを拘束し、追撃を防いだ。


「つ、捕まえたわよ……」


 ヘザーは、鳩尾にけりを受けたため少しせき込みながらも嬉しそうに笑った。

 そのクロキに背後にケルベロスが迫り、身動きのとれぬクロキに噛みつこうとしたが、


「ライト・オブ・ザ・デイ!」


 再び目の眩む光が発生し、クロキを縛る影のロープは消え去り、クロキはケルベロスの噛みつきを回避すると、ブーツの踵に仕込んだ魔法石を爆発させて加速させた蹴りでケルベロスの右の頭部の顎を砕き、続けてナイフを真ん中の頭部の右目に突き刺した。

 さらに追撃、と思ったが、ケルベロスの蛇の尾がクロキに迫ったため、クロキは距離を取り、刀を構えて身体に魔力を溜めた。


「水月!」


 クロキのスキル・水月が発動し、ケルベロスの鋼のような体毛をものともせず、ケルベロスの三つの首を斬り落とした。

 一方テイラーはライト・オブ・ザ・デイを解除し、周囲が元の明るさに戻った直後、特大の稲妻を三つ首の蛇アジ・ダハーカに頭上に落としてアジ・ダハーカを倒した。


 これで幻獣2体を倒したが、クロキとテイラーは気を緩めず、直ぐにその場から移動し、一瞬も止まることなく動き回った。

 動き回り続ければ、ヘザーがクロキとテイラーの足元の影を操作するはできない。


「クロキ、何で……?」


 ヘザーの足元の影が盛り上がり、触手のようにクロキに向かっていく。本数は1本、また1本と増えていったが、クロキは根が張り巡り、足場の悪い地面をものともせずに、軽やかに影の触手をかわす。


「ヘル・グラ……」


 高重力でクロキの動きを鈍らせようかとヘザーは考えたが思い留まった。

 ヘル・グラヴィティの効果範囲は広いため、またもや死者たちを巻き込んでしまい逆に不利に陥る。


「なら、これならどう、アンチ・グラヴィティ!」


 すると、ヘル・グラヴィティとは逆に、クロキの身体が軽くなるように感じたかと思いきや、何と身体が空中に浮かび上がったではないか。

 宙に浮かび、回避ができなくなったところを逃さず、影の触手がクロキを拘束し、締め上げた。


 ヘル・グラヴィティとは真逆の効果。反重力を発生させる魔法。効果範囲はヘル・グラヴィティとは異なり、一定範囲に効果を及ぼすのではなく、特定の対象物に効果を及ぼす魔法のようだ。魔術書には記述されていない魔法。おそらく、この魔法もスカベンジャーによって習得した他人の魔法であろう。


 空中で影に拘束され、身動きが取れなくなったクロキであったが、またもテイラーがライト・オブ・ザ・デイを唱え、影が消え失せ自由になると、光に目が眩んでいるヘザーの背後に回り、背後から首に腕を回して頸動脈を締め上げた。


「な、なんで……? なんで、私じゃなく、あ、あの女、なの……?」


 ヘザーが苦しそうに声を上げるが、クロキは答えない。

 このままヘザーを気絶させれば目的は達成される。

 だが、ヘザーとクロキが密着したことによりできた二人の間の影が動き出し、クロキをヘザーから引き離した。


 ライト・オブ・ザ・デイが解除され、周囲が元の明るさに戻る。


「くっ……」


 クロキは左のわき腹を押さえた。

 影が掠め、血が滲んでいた。


 ヘザーはせき込みながらゆっくりと身体を起こしてクロキを見た。


「私の物にならないのなら、誰の物にもならないように、あなたを殺す」


 ヘザーの眼から一筋の涙がこぼれた。


 魔力のないクロキは気付かなかったが、テイラーは直ぐに異変に気付いた。

 ヘザーの魔力が大きく膨れ上がっている。それも、どす黒い感情が満ちた魔力だ。


「一体、何が……」


 テイラーの目の前で、フェニックスとマンティコアの身体がボコボコと膨張し、破裂した。一方で死者の軍団は勢いを増してバランティアたちに向かっていく。


「こ、これは……」


 ヘザーの魔力の影響を受けた者は活性化し、ヘザーの魔力によって作られた者は、増大する魔力の強さに形を留めることができなくなっている。


「魔力の暴走とでもいうの? クロキっ! ダメ、直ぐにその女から離れて!」


 テイラーが叫ぶ。

 ヘザーの頭の中では、湧き出る黒い感情とともに、新たな魔法が構築されていた。


「ヘルズ・アンチ・グラヴィティ……!」


 ヘザーの周囲一帯の地面が一瞬闇に包まれた後、地面に吸い込まれるように闇が消えたかと思うと、クロキの足元が揺れ始めた。

 地面に張り巡った世界樹の根を引き千切って地面が浮かび上がる。

 ゆっくりと、いくつもの土や岩の塊が空中へと浮かび上がって行く。


 クロキは宙に浮かぶ土の塊から飛び降りて上空を見上げると、上空の土や岩がまとまり、かなりの面積のある、1つの塊になった。


 ヘルズ・ゲートとアンチ・グラヴィティを複合させた新たな魔法。ヘルズ・アンチ・グラアヴィティ。アンチ・グラヴィティの範囲を広域に及ぼし、一定範囲の対象に端重力の効果を与える。


 真上に浮かぶ土と岩の塊が落下して来たとすればただでは済むまい。だが、ヘザーも地上に残っている。落下させて攻撃することが目的とは思えない。


 クロキが茫然としていると、上空の土と岩の塊の影――周囲一帯を覆う広範囲の影の所々が盛り上がり、それらが全て人型となった。


「くっ……ライト・オブ・ザ・デイ!」


 テイラーがライト・オブ・ザ・デイを唱え、影を消し去ろうとしたが、何と土と岩の塊に遮られて光が地上に届かない。

 光源の高さを低くする必要がある。が、一度魔法を解除し、再び唱えるまでにはインターバルが必要であり、それにおそらく、光源の高さに対応し、土と岩の塊の高さを変えることができる。


 万事休す。

 周囲一帯が影の中で、ヘザーと対するは圧倒的に不利である。

 クロキと言えども、勝てる可能性は限りなくゼロに近い。


 クロキは影の触手に捕らわれぬよう、動き回りながら思考を巡らす。

 次々と増える人型の影。それらを掻い潜り、ヘザーに到達するにはどうすれば良いか。


「水月よりも完成度は低いが……使うしかない」


 クロキが覚悟を決めたとき、人型の影ががくがくと痙攣するように動き出し、様子が変わった。

 170センチから180センチほどの大きさだったものが、人型の形を崩しながら大きくなっていく。加えて、上空に浮かぶ土と岩の塊から零れ落ちる土や岩の欠片の量が明らかに増え、零れ落ちるというよりは、崩れていると言っても良い程となった。


 何が起きている。

 クロキの理解が追い付かない。

 ヘザーを見ると、術者のヘザー自身も何が起きているか分からない様子できょろきょろとしている。


 気付いたのはクロキとヘザーよりも世界樹から離れた所にいたテイラーであった。


 世界樹の葉が光を帯びている。

 そして、魔素(マナ)の量が飛躍的に上昇している。テイラーですらまともに魔法を発動できないレベルに。

 ヘザーの魔法の異変は、魔法のコントロールを失っているために違いない。


 だが、問題はそこではない。

 尋常ならざる一帯の魔素(マナ)の増大。なぜ起きたのか、そしてこの後、何が起きるのか。


 テイラーが見守る中、世界樹の葉の光が枝から幹へ、そして根へと拡大し、世界樹全体が光に包まれ、辺り一帯に眩い光りが満ち、テイラーは目を開けていられず目を瞑った。

 そして、光が治まり、テイラーが目を開けると、クロキも、ヘザーも、死者の軍団も消え失せていた。

 テイラーはただ茫然と、動きを止めたバランティアとともに立ち尽くした。

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