2つ目のスキル
「ぐっ……」
痛みを堪えるリュウイチロウを見てイルマは笑う。
「トドメダッ、死ネェ!」
だが、笑っているのはリュウイチロウも同じ。
不可解な笑みにイルマの動きが一瞬淀む。
「……スキル発動」
ハッとしてイルマが振り向くと、陽の光を反射する白刃がイルマに目に移った。
「水月!」
クロキの刀が振り下ろされる。
これまで傷つけることも難しかったクロキに刀が、イルマを頭から腰に真っ直ぐ斬った。
「何、デ……」
クロキの攻撃では大した傷を負うことはない。そうイルマは思っていた。しかし、クロキは奥の手を隠し持っていた。
かつて、ロンの国で魔人となったトウハイと戦ったとき、クロキは手も足も出なかった。またいつ魔人と遭遇するかも知れない。そのために習得した新たなスキル「水月」。鉄も石も、水に浮かぶ月をも斬る一刀。
実戦はこれが初めてであった。成功するかどうかは賭けであった。しかし、後のことを顧みず全力を尽くすリュウイチロウの横で、成功率を理由に使わないのは信頼にもとるとクロキは考えた。ここで成功させてこそ、信頼に応えられる。
イルマは黒い血を噴き出しながら絶命し、地面へと落下した。
イルマに続いてクロキとリュウイチロウが着地すると、二人とも揃って膝をついた。
だが、まだ休んではいられない。魔人はまだ二体残っている。そして、バランティアが相手をしている死者たちもいる。
「リュウイチロウさ――」
「クロキ、包帯はあるか」
クロキの呼び掛けにかぶせてリュウイチロウは言った。
クロキが腰のホルダーから黒い包帯を取り出し、切断されたリュウイチロウの左腕に巻いて止血をすると、リュウイチロウはクロキの前に立ち、クロキに背中を向けた。
「後二人なら、儂一人でどうにかなる。それよりテイラーが心配だ。あの珍妙な格好の女の行った先で嫌な魔力を感じる。お前はテイラーを追え」
「しかし、片腕では……」
クロキが言うと、リュウイチロウはクロキを振り向き笑った。
「小僧、舐めるなよ、戦力の分析を含めて、戦場の判断は儂に方が的確だと思うが、どうかな」
「……分かりました、ここは頼みます」
そう言って立ち去ろうとするクロキに向かって、背中越しにリュウイチロウは語る。
「己を捨て、ただ国のために戦うべし。己は私欲、国は人。忘れるなよ、私欲を捨て力なき人々のために力を振るえ、それが、儂らの使命だ」
クロキは一瞬、顔に驚きを浮かべたが、直ぐに真剣な眼差しで走り始めた。
小さく、「はい」と呟きながら。
「スピン・ランサー!」
メソジック帝国軍の軍船の上で、メソジック帝国の騎士キールが槍を突き出しながら高速回転し、オーウェンに向かっていく。
それと同時に、同じくメソジック帝国の騎士ヨシフが両手に握るナイフを空中で振って炎の刃と水の刃をオーウェンに向かって飛ばし、さらにヨシフは移動しながらナイフから直線状の水流と炎の渦を発生させ、オーウェンを攻め立てた。
オーウェンはキールの突撃を走ってかわすと、跳び回りながら水の刃と水流を回避し、水系魔法エンチャント・ウォーターで水を纏った槍を盾のように回転させて炎の刃と炎の渦を防ぎきり、今度は逆にアイス・ニードルでヨシフを攻撃した。
自身に向かって来る氷柱をヨシフは小太りな体格に合わない俊敏さで回避していったが、
「ヨシフ! そっちはだめだ!」
と上官セルゲイの声にハッとして辺りを見回すと、足元の大きな影に気付き、上空を見上げた。
「アイス・ロック・フォール」
オーウェンが上げていた腕を真っ直ぐ降ろすと、巨大な氷塊がヨシフ目掛けて落下する。
「ちぃっ……ウッド・ガード!」
セルゲイが咄嗟に両腕をヨシフに向けると、船の甲板などの木材が動き出し、ヨシフの真上を何重にも覆い、氷塊からヨシフを守った。
「なかなかの魔法ですが、それでは、まだまだ」
オーウェンが身体の前で拳を握ると、氷塊は一段と大きくなり、ヨシフを守る木の盾に衝突する。
メリメリメリッ……
木の盾は重量によって歪み、今にもへし折れそうだ。
「だが、時間が稼げせれば……え?」
ヨシフは氷塊の落下地点から逃げようとしたが、足が動かない。
足元を見ると、水たまりの中でブーツが凍りついている。
今から炎で溶かしても逃げ切れない。
ヨシフの額を冷たい汗が流れた。
だが、そのとき、甲板を下から突き破ってキールが現れ、氷塊に向かって突進し、氷塊を砕いた。
ヨシフとセルゲイがホッとしたのも束の間、ヨシフの目の前にオーウェンが接近し、ヨシフに向かって槍を振るった。
ヨシフはナイフで受け止めようとしたが。槍の勢いに敗け、身体に傷を負う。
オーウェンが続けてヨシフを強く蹴ると、ヨシフは足元の氷が剥がれ吹っ飛ばされた。
さらにオーウェンは上空で方向転換しようとするキールを仰ぎ見た。
「面白い魔法ですが、弱点が分かりやす過ぎます。少々弱点を補うことを考えた方がよろしいかと」
そう言って腕を上げると、方向転換で速度を緩めたキールに向かってドリルのような巨大な水流――ウォーター・スクリューを放ち、キールをさらに上空へと打ち上げた。そして指を鳴らすと、ドリルのような水流はいくつもの細い水流に分裂し、キールを突き刺した。
キールは咄嗟にスピン・ランサーを唱えたことにより多少は水流の直撃を防ぐことができたが、それでも身体中に傷を負い、甲板に落下した。
と、突然オーウェンがセルゲイから距離を取るように背後に向かって跳ぶと、甲板を構成する木材が槍のように変化し、オーウェンが立っていた所に飛び出して来た。
「ちっ……」
セルゲイがまたもや舌打ちをした。
三人掛かりで押されている。
名にし負う氷徹のオーウェン。やはり、一筋縄にはいかない。
「部下二人を前に出して傷を負わせ、自分は後方とは、私の考える上官の在り方ではないですが、メソジック帝国ではそういうものなのでしょうか」
オーウェンが中指で眼鏡を上げながらセルゲイにいった。
セルゲイは人差し指と中指で眼鏡をのつるを上げて答える。
「あなたと違って私は接近戦は不得手でしてね、誰もがあなたと同じように戦えるわけではないのですよ」
「そうですか……眼鏡のセンスが良いので、てっきり私と同じタイプかと思ったのですが……」
本心なのか煽りなのか分からないオーウェンの言葉にセルゲイはチャンスと思った。




